JRきっぷ「特定区間」における運賃・料金の計算方(規則69・70条)~経由欄に記載がない理由をひも解く~

大宮駅7番線ホーム 運賃制度

JR各社の運送約款「旅客営業規則」で定められている規則の中でも、経路計算上の「特定区間」に関する規定は難解だと言われています。

路線網が密な東京都心部における経路を含んだり、近接する2つの経路が並行する場合、運賃・料金計算が非常に煩雑です。そのため、旅客営業規則第69条および第70条で、それらの経路が「特定区間」として定義されました。

JRきっぷの運賃・料金計算については、実際に乗車する経路によって行うのが原則です。しかし、特定区間に関する規定によって、計算のしかたが修正されます。本来は計算が簡単になるはずですが、この規定があるためにかえって複雑になるのです。

特定区間である新宿駅・赤羽駅・大宮駅間を経路に含むきっぷを購入した際、その区間が経由欄に記載されていなかったことから、問題意識を持ちました。規定があまりにも難解であることから筆者も避けてきたのですが、今回勇気を出してひも解くことにしました。

運賃・料金計算にかかる出札業務の負荷を軽減するのが、この制度における本来の意図です。しかし、区間内を迂回乗車できることで、かえって複雑になってしまったのが皮肉です。

この記事では、経路計算を理解するのに欠かせない、旅客営業規則第69条および第70条の規定を易しく解説します。東京都心部や周辺部を通る経路の運賃・料金計算を行う際、当記事がヒントとなれば幸いです。

この記事を読むと分かること
  • 大都市近郊区間とは似て非なるもの
  • 経路特定区間の規定上運賃だけではなく料金にも適用されること
  • 乗車券の経由欄には経路特定区間の記載がないこと
  • 経路特定区間内では例外を除き途中下車が可能であること

もくじ

どうしてきっぷに新宿駅・大宮駅間の経路が表示されていないのか

大宮駅19番線ホームへの階段

松本駅から終点の新宿駅まで中央線特急「あずさ」号に乗車し、新宿駅で湘南新宿ラインに乗り継いで大宮駅まで向かうためのきっぷを、駅のみどりの窓口で購入しました。

新宿駅・大宮駅間を通るきっぷ:事例1

以下のきっぷは、北松本駅から大宮駅ゆきの普通片道乗車券です。篠ノ井線および中央東線を経由して、新宿駅から大宮駅まで在来線に乗車します。

北松本駅から大宮駅ゆき普通乗車券

[北松本(大糸)松本(篠ノ井線)塩尻(中央東)新宿・・・赤羽・・・大宮]
実乗車キロ:273.5km 運賃計算上のキロ程:253.2km 普通運賃4,510円 3日間有効

実際には、新宿駅から品川駅を経由し、上野東京ラインで大宮駅まで乗車しました(このような経路を取れる根拠については、後述します)。

新宿駅・大宮駅間を通るきっぷ:事例2

以下のきっぷは、大宮駅から大宮駅ゆきの普通片道乗車券です(環状線一周となる旅行形態)。北陸新幹線、篠ノ井線、中央東線を経由して、新宿駅から大宮駅まで在来線に乗車できるように経路を組んでいます。

大宮駅から大宮駅ゆき普通乗車券

[大宮【新幹線】長野(信越)篠ノ井(篠ノ井線)塩尻(中央東)新宿・・・赤羽・・・大宮]
実乗車キロ:508.9km 運賃計算上のキロ程:508.0km 普通運賃8,360円(大休05 7,940円) 4日間有効

新宿駅から埼京線に乗車し、武蔵浦和駅で途中下車した後、大宮駅に着きました。なお、このきっぷには、大人の休日俱楽部の会員割引(5%)が適用されています。

きっぷ上に経由線区が表示されていない

上記のきっぷを使用し、新宿駅・大宮駅間で実際に乗車した列車は、同じではありません。また、果たして経路通りに乗車したのか、きっぷを一見したところ分かりません

これらのきっぷに共通しているのが、新宿駅・大宮駅間の経由線区が表示されていないことです。乗車経路通りに運賃計算し、計算に含めた線区を経由欄に表示するのが本来の処理方法なのですが、一体どうしたことでしょうか。

それでは、旅客営業規則第69条・第70条で言うところの「特定区間」について逐一ご説明します。

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どこが「特定区間」に該当するか ~条文に定められた区間を説明~

埼京線普通列車武蔵浦和駅にて

当記事でいうところの「特定区間」とは、「特定」の経路に対して運賃・料金計算の特例が設けられた「区間」という意味合いです。

JRのきっぷのルールには「特定」という字句が多く登場し、混乱します。並行する他社線との競合対策として安価に特定された、運賃設定上の「特定区間」ではないことに留意したいです。

特定区間制度のメリット

ある区間に2つ以上の経路があり、それらの経路を走る列車の運行頻度が同程度である場合、特定区間が設定されることがあります。各線区の輸送量を調整する上で、効果的です。

乗車経路によらず最短距離で計算することで、ユーザーにとっては運賃・料金が安くなる効果があり、JR側にとっても出札業務が簡素になる効果が生じます(実際はかえって複雑になっていますが)。

旅行中に不測の事態に遭遇し、急遽他の経路を取らなければならなくなった場合でも、旅行開始後の乗車変更などの煩雑な処理を回避できます。

このように、特定区間制度には一定のメリットがあり、合理的な制度と言えるでしょう。

並行する2つの経路に関する特定区間【規則第69条】

旅客営業規則第69条で定められている特定区間は、以下の9区間です。多くの区間が大都市近辺に位置するのが特徴です。輸送量が同規模の2線区が並行していて、互いが補完的な役割を果たしています。そのため、有事の際には代替経路として機能します。

号数経路特定区間運賃・料金計算に用いる経路迂回可能な経路
(1)大沼以遠(仁山方面)の各駅と、森以遠(石倉方面)の各駅との相互間大沼公園駅経由函館本線東森駅経由函館本線
(2)日暮里以遠(鶯谷又は三河島方面)の各駅と、 赤羽以遠(川口、北赤羽又は十条方面)の各駅との相互間王子経由東北本線尾久経由東北本線
(3)赤羽以遠(尾久、東十条又は十条方面)の各駅と、大宮以遠(土呂、宮原又は日進方面)の各駅との相互間川口・浦和経由東北本線戸田公園・与野本町経由東北本線
(4)品川以遠(高輪ゲートウェイ又は大崎方面)の各駅と、鶴見以遠(新子安、国道又は羽沢横浜国大方面)の各駅との相互間大井町経由東海道本線西大井経由東海道本線
(5)東京以遠(有楽町又は神田方面)の各駅と、蘇我以遠(鎌取又は浜野方面)の各駅との相互間総武本線・外房線京葉線
(6)山科以遠(京都方面)の各駅と、近江塩津以遠(新疋田方面)の各駅との相互間湖西線東海道本線・北陸本線
(7)大阪以遠(塚本又は新大阪方面)の各駅と、天王寺以遠(東部市場前又は美章園方面 )の各駅との相互間天満経由大阪環状線福島経由大阪環状線
(8)三原以遠(糸崎方面)の各駅と、海田市以遠(向洋方面)の各駅との相互間山陽本線呉線
(9)岩国以遠(和木方面)の各駅と、櫛ケ浜以遠(徳山方面)の各駅との相互間岩徳線山陽本線

これらの特定区間のうち、当記事で例示しているのは、埼京線に関係する区間です(第3号)。川口駅および浦和駅を経由する従来の東北本線と、北赤羽駅および北与野駅を経由する新線の埼京線(線路戸籍上は東北本線)の二者が該当します。ちょうど、旧線と新線が補完関係に当たるパターンです。

また、これらの特定区間には、湖西線と東海道本線・北陸本線が含まれています(第6号)。大阪駅から北陸方面に向かう特急「サンダーバード」号は、通常は湖西線を経由します。しかし、湖西線では強風が発生しやすく、しばしば運行が見合わせになることで有名です。

そのため、サンダーバード号が米原駅経由で迂回運転されることがありますが、もともと特定区間に指定されており、事故発生時に運賃・料金の調整が必要ありません。特定区間のメリットが如実に表れていると言えるでしょう。

東京中心部に関する特定区間【規則第70条】

路線網が密である東京中心部の経路について、きっぷを発売する都度経路を特定し運賃・料金を計算すると、出札業務が非常に煩雑です。そこで、東京中心部の区間をまるごと特定区間に指定することによって、運賃・料金の計算の簡素化が図られています。

第70条第1項

第70条第1項によって特定区間として扱われる区間は、次の通りです。

70条第1項太線区間

東海道本線東京駅・品川駅間/東北本線東京駅・赤羽駅間・尾久駅/中央本線東京駅・新宿駅間/山手線品川駅・田端駅間/総武本線東京駅・錦糸町駅間・浅草橋駅・両国駅/埼京線(赤羽線)池袋駅・赤羽駅間

これらの区間は、一般的には第70条の「太線区間」と呼ばれています(条文に添えられた図において、当該区間が太線で示されています)。ただし、太線区間を結ぶと一つのゾーンが形成されるため、当記事では分かりやすく「70条ゾーン」と呼びます。

従来、70条ゾーンが大宮駅、鶴見駅、蘇我駅まで広がっていたことがありましたが、現在は第69条第3号ないし第5号に吸収されたことで縮小されています。

第70条第2項

第70条第2項では、対象区間が第69条第1項第5号で定められた蘇我駅までの区間に拡張されています。当該区間は、以下の通りです。

70条第2項区間

第70条第1項の太線区間/総武本線錦糸町駅・千葉駅間/外房線千葉駅・蘇我駅間/京葉線東京駅・蘇我駅間

蘇我駅から京葉線、または外房線・総武本線で70条ゾーンに入り、新宿駅・赤羽駅・日暮里駅からゾーンを抜ける場合、上記のゾーンを一体として扱います(逆方向も同様)。運賃・料金計算に当たっては、最短距離の営業キロを使用します。

経路上の特定区間に関しては、運賃・料金計算上の規定ときっぷの効力に関する規定を一体として理解したいです。これから詳細をご説明します!

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最短経路で計算し経路を指定しない~きっぷの運賃・料金計算の話~

武蔵浦和駅ホーム

まず、経路上の特定区間に関する運賃・料金計算の規定を見ていきたいと思います。

規則第69条および第70条の規定は、運賃だけに適用されるのではなく、料金にも適用されることが、理解する上でのポイントです。他の規定にありがちな運賃計算に限定されない点に留意したいです。

経路特定区間を通過する場合【規則第69条・第70条】

これらの規定で規定する経路特定区間を通過する場合、実際に乗車する経路にかかる営業キロではなく、特定区間へ入る駅と特定区間を出る駅との間の最短経路にかかる営業キロを適用します。

第69条区間に関しては二者択一の形ですが、結果的に最短経路を取ることには違いありません。

経路特定区間の終端駅を発着する場合【規則第69条】

70条ゾーンに関しては通過する場合に限定されますが、第69条区間については区間の終端駅を発着する場合も適用されます

例えば、赤羽駅・大宮駅間においては、経路特定区間を通過する形ではありません。この区間に関しては特定区間の終端駅同士ですが、第69条第1項第3号が適用されます。

この場合、川口駅・さいたま新都心駅(京浜東北線)経由であっても北赤羽駅・北与野駅(埼京線)経由であっても、前者の営業キロを適用します。

経路特定区間の両方の経路をまたがって乗車する場合【規則第69条】

ただし、第69条の特定区間については、両方の経路をまたがって乗車する場合には最短経路を取らず、乗車経路通りに営業キロを算出します(第67条の一般原則に従う)。

後述しますが、赤羽駅から経路特定区間に入り、埼京線で大宮駅まで乗車し、京浜東北線に乗り継いでさいたま新都心駅に向かう場合、両経路をまたがる形です。この場合、乗車経路通りに計算します。

経路特定区間を2回通る場合【基準規程第109条】

第69条および第70条で定められた経路特定区間を通過し、一旦外に出てから再び当該特定区間の他の経路を通る場合が、時には考えられます。

この条件に該当する場合、最短経路で運賃・料金を計算することが強制されず、実際に乗車する経路で計算することが「できる」とされています。これは、基準規程第109条で定められた例外です。

実際に、経路特定区間を2回通った実例があります。以下の記事を、ぜひご一読ください。

強行規定であり経路指定を行わない

ここで注意したいのは、経路特定区間に関する規定については強行規定である点です。任意に適用「できる」のではなく、義務的に「しなければならない」のです。

また、上記のパターンに該当する場合、当該経路については経路を指定しません。つまり、乗車券の経由欄には、線区や駅名が記載されません

経路特定区間に関する規定によって最短経路が強行的に適用されるため、運賃・料金の金額が低くなる作用があります

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迂回乗車に関する規定~きっぷの使い方の話~

大宮駅埼京線ホーム

次に、経路特定区間に関するきっぷの効力面を見ていきます。関係する旅客営業規則の条文は、第158条および第159条です。なお、同規則第160条に関しては、70条ゾーン内を発着する場合の規定であるため、例外的な規定です。

69条区間における最短経路でないもう一方の経路の迂回乗車【規則第158条】

第158条は、経路特定区間において最短経路で運賃・料金計算された場合、最短経路ではないもう一方の経路に迂回乗車できる規定です。

第69条の規定を実効的にするための規定であり、当該規定とセットであると考えるとよいでしょう。

最短経路を取った場合でも、もう一方の経路を取った場合でも、いずれの経路上にある駅で途中下車が可能です。ただし、きっぷの区間を分割し、複数の普通乗車券を併用している場合は例外で、当該区間内で途中下車できません。

70条ゾーンにおける最短経路以外の一筆書き経路の迂回乗車【規則第159条】

70条ゾーンにおいて、最短経路上にある駅以外の駅でも途中下車可能な規定が、第159条です。一筆書きであれば任意の経路を取れ、途中下車も可能であるということです。

第70条第2項で定められているように、蘇我駅から京葉線もしくは内房線・総武本線で70条ゾーンに入り、上述した駅でゾーンを抜ける場合も同様に70条ゾーン内を迂回乗車し、途中下車できます。

最短経路を取るということは、遠回りの他経路も取れることにつながります。そのための根拠として、第70条と対になった規定が必要だということです。

大都市近郊区間制度との違い

経路を特定して運賃・料金計算の方法に特例を設けたり、迂回乗車を認めたりするのは、一見して大都市近郊区間制度(規則第156条第2号)と類似しています。一体、両者間の違いは何でしょうか。

規則第69条および70条で定められている経路特定区間については、どのような区間であっても当該区間を通過さえすれば無条件に適用されるものです。JR線の駅であれば、発駅と着駅が日本全国どこであっても問題ありません。

一方、大都市近郊区間が適用されるのは、発駅と着駅がいずれも近郊区間内にある場合に限定されます。大都市近郊区間、特に東京近郊区間は非常に広大ですが、適用される地域が限定されている点でローカル性があると言えるでしょう。

大都市近郊区間制度の基本については、以下の記事を是非ご一読ください。

それでは、第69条と第70条が適用された経路の運賃計算事例を見て、理解を深めましょう!

規則第69条と第70条が適用された事例を見る

京浜東北線普通列車大宮駅にて

経路特定区間が含まれた経路について、運賃・料金計算方を個別に解説し、実際のきっぷの券面を見ていきます。事例1から事例4にかけては、第69条と第70条が重畳的に適用されたものです。

事例5に関しては、経路特定区間に関連した参考事例です。一見69条区間と70条ゾーンが含まれているように思えますが、東京近郊区間の規定が優先されています。

事例1:北松本駅→大宮駅

北松本駅から大宮駅までの経路図

これは、当記事の冒頭でご紹介した事例です。松本駅で特急「あずさ」号に乗車し、新宿駅から在来線に乗り継ぎます。

北松本駅から大宮駅ゆき普通乗車券

[北松本(大糸)松本(篠ノ井線)塩尻(中央東)新宿・・・赤羽・・・大宮]
実乗車キロ:273.5km 運賃計算上のキロ程:253.2km 普通運賃4,510円 3日間有効

東京中心部を通過する際に適用される70条ゾーンと、赤羽駅・大宮駅間の経路特定区間が結合されたケースです。運賃・料金計算には、最短経路である[新宿駅(山手)池袋駅(赤羽線)赤羽駅(東北本線川口駅・さいたま新都心駅)大宮駅]の営業キロを適用します。

乗車券の経由欄には、大糸線・篠ノ井線・中央東線のみが表示されています。新宿駅以降の経路特定区間について券面に経路が記載されていないことから、経路を指定しないことがうかがえます

このきっぷを使用して、東京駅・上野駅から大宮駅まで新幹線に乗車することが可能です。なお、はじめからこの区間を新幹線経由とした場合、経由欄に新幹線乗車区間が表示されます。

このきっぷを使用した時は、新宿駅から70条ゾーンを大回りし、品川駅で途中下車しました。

当事例で取り上げた大糸線北松本駅は、2025年3月15日以降東京近郊区間に編入されました。全区間在来線を利用した場合の運賃計算結果は、当該区間に編入される前のものであることにご留意ください。

事例2:大宮駅→大宮駅

大宮駅から松本駅経由大宮駅ゆき経路図

これは、事例1と同一のパターンです。大宮駅から環状線を一周し、大宮駅まで戻る経路です。

大宮駅から大宮駅ゆき普通乗車券

[大宮【新幹線】長野(信越)篠ノ井(篠ノ井線)塩尻(中央東)新宿・・・赤羽・・・大宮]
実乗車キロ:508.9km 運賃計算上のキロ程:508.0km 普通運賃8,360円 4日間有効

この経路の運賃・料金の計算方は事例1と全く同じであるため、割愛します。このきっぷを使用した時は、新宿駅から埼京線に乗車し、埼京線武蔵浦和駅で途中下車しました。

事例3:三島駅→さいたま新都心駅

三島駅からさいたま新都心駅までの経路図

東海道本線三島駅から東海道線在来線の列車に乗車し、赤羽駅で埼京線に乗り継ぎ、大宮駅ではさらに京浜東北線に乗り継ぎ、さいたま新都心駅に至る事例です。

三島駅からさいたま新都心駅ゆき普通乗車券

[三島(東海道)品川・・・赤羽(埼京線北赤羽・北与野)大宮(東北)さいたま新都心]
実乗車キロ:153.5km 運賃計算上のキロ程:153.5km 普通運賃2,640円 2日間有効

経路中、品川駅・赤羽駅間が70条ゾーン、赤羽駅・大宮駅間が規則第69条第1項第3号の経路特定区間に該当します。この経路では、一見して2つの特定区間の規定が適用されるように思えます。

ただし、乗車経路が経路特定区間内の埼京線と京浜東北線にまたがっているため、規則第69条で規定された運賃・料金の計算方の例外に該当します。経路特定区間における両方の経路をまたがって乗車する形になるため、実際の乗車経路が運賃計算のベースです。

乗車券の経由欄には、実乗経路である埼京線上の北赤羽駅および北与野駅が記載されています。品川駅・赤羽駅間の70条ゾーンについては経路指定がされないため、経由欄に記載がありません。

事例4:木更津駅→熊谷駅

木更津駅から熊谷駅までの経路図

木更津駅から内房線・京葉線に乗車し、東京駅から70条ゾーンと69条区間を通り、最終的に高崎線熊谷駅に至る経路です(大宮駅・熊谷駅間は新幹線)。総武本線を経由し、秋葉原駅から70条ゾーンに入ることも可能です。

木更津駅から熊谷駅ゆき普通乗車券

[木更津(内房)蘇我(外房)千葉(総武)錦糸町・・・赤羽・・・大宮【新幹線】熊谷]
実乗車キロ:135.6km 運賃計算上のキロ程:135.6km 普通運賃2,310円 2日間有効

内房線方面から蘇我駅に入り、赤羽駅で70条ゾーンを抜ける経路であるため、第70条第2項が適用されます。運賃・料金計算には、最短経路である[蘇我駅(外房)千葉駅(総武)錦糸町駅(総武)秋葉原駅(東北)日暮里駅(山手)田端駅(東北)赤羽駅(東北本線川口駅・さいたま新都心駅)大宮駅]の営業キロを適用します。

この場合、千葉みなと駅を経由する京葉線で東京駅まで乗車することも可能ですし、千葉駅を経由して総武本線で錦糸町駅まで乗車することも可能です。

今回は大宮駅・熊谷駅間を新幹線経由としましたが、全区間在来線経由とすることもできます。前者の場合、総武本線千葉駅経由で運賃計算を行います。後者の場合は東京近郊区間完結となり、全区間での最短経路で運賃計算されます。

後者の経路で発券された乗車券を見たところ、経路特定区間内の線区が省略されることなく[内房・外房・総武・東北・高崎]と表示されていました。大都市近郊区間で完結する経路の場合、大都市近郊区間制度が優先的に適用され、全経路が記載されるものと推察します。

事例5:大宮駅→銚子駅【参考】

大宮駅から銚子駅まで元日早朝に運行される臨時特急「犬吠初日の出」号に乗車した際に、以下の乗車券を使用しました。

大宮駅から銚子駅ゆき普通乗車券

この列車は、70条ゾーン内に位置する新宿駅および秋葉原駅を経由します。そのため、このきっぷには一見して経路特定区間に関する規則が適用されていると思いがちです。

しかし、大宮駅および銚子駅は、東京近郊区間内に位置します。大都市近郊区間制度による最短経路が適用されており、第69条および第70条による運賃計算は行われていません。

乗車券上の経由欄を見ると、大宮駅・銚子駅間の最短経路が表示されています。このきっぷでは70条ゾーンを含め、東京近郊区間内の任意の経路を自由に乗車できるがゆえに、多くの人がこれらの規定を難解だと思うのでしょう。

まとめ

大宮駅7番線ホーム

運賃および料金の計算は、原則的には実際に乗車する経路に基づきます。しかし、並行する2路線の輸送量を調整するために、経路上の「特定区間」が設定されています。

ユーザーにとっては、常に最短経路によって運賃・料金が課されることで、値段が低くなることがメリットです。一方、鉄道会社にとっては、日常の出札業務や事故時の対応が簡素化されるのがメリットです。

旅客営業規則第69条では、全国で9個の特定区間が定められており、第70条では東京中心部における太線区間(70条ゾーン)が規定されています。これらの区間を通過する時には最短経路で計算しますが、実際に乗車する際は当該区間内の任意の経路を取れます経路特定区間内の駅では、途中下車も可能です。

経路特定区間を通過する経路を含む乗車券には、当該区間が経由欄に記載されません(ただし、新幹線乗車区間については表示されます)。

70条ゾーンは東京近郊区間内に位置するため、大都市近郊区間に関する規則と混同しがちです。そのため、難解な規則とされています。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

Appendix:経路特定区間にかかわる旅客営業規則の条文

当記事で取り上げた旅客営業規則の条文は、以下の通りです。

(第67条・第69条)

旅客営業規則第69条

(第69条・第70条)

旅客営業規則第69条・第70条

(第158条-第160条)

旅客営業規則第158条ないし第160条

参考資料

● JR旅客営業制度のQ&A(自由国民社)2017.5

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程

当記事の改訂履歴

2025年02月23日:当サイト初稿

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