JR各社の新幹線や在来線特急列車等の特急料金は、シーズンによって変動します。多くの旅行者で混雑するピークシーズンには料金が高くなり、反対に旅行者が少なくなるオフシーズンには料金が安くなるよう調整されるしくみです。
JRの指定券に関する料金はシーズンによって以下の4つに区分され、この区分に基づいて加算額もしくは減算額が決められています。
- 最繁忙期
- 繁忙期
- 通常期
- 閑散期
旅行者の利用が最も多く見込まれる最繁忙期における料金が最も高く、利用が少ない閑散期における料金が最も安いです。
これらのシーズンが適用される日は、各年度ごとにカレンダーとしてあらかじめ告知されます。いち早くこの情報に触れることが、旅行の計画にあたって肝要です。

従来JRのみに導入されていたシーズンによる特急料金の変動のしくみが、2025年度より東武鉄道においても導入されました。需要の多寡に応じた料金設定が、今後進みそうです。
この記事では、JR各社および東武鉄道におけるシーズンによる新幹線および在来線特急列車にかかる特急料金の変動について、背景や具体的なしくみについて解説します。あわせて、当記事でご提供するシーズン別の適用日カレンダーをダウンロードいただくことで、旅行計画の資料としてお役に立てれば幸いです。
- グリーン車利用であっても特急料金がシーズンによって変動すること
- JR会社によって適用期間が毎年変動すること(8月頃に翌年のカレンダーが確定)
- 普通・快速列車の指定席券については最繁忙期・繁忙期の加算がないこと
JR各社・東武鉄道シーズン別の料金適用日カレンダー

最初に、シーズン別に料金が変動する適用日を筆者が見やすくまとめたカレンダーを、読者の皆さまに共有します。以下のリンクよりダウンロード可能です。
JR各社の適用日カレンダー
シーズン別料金の適用日が毎年固定の列車
- JR東日本の全列車(通年同額設定の列車を除く)
- 北陸新幹線の全区間・特急「サンダーバード・しらさぎ」号

シーズン別料金の適用日が毎年変動となる列車
上記以外の列車(JR東海・西日本・四国・九州・JR会社間またがり)

JRシーズン別の適用日カレンダーダウンロードはこちらから
東武鉄道の適用日カレンダー
日光線系統の特急列車
スペーシアX・けごん号・リバティけごん号・きぬ号・リバティきぬ号・リバティ会津号

伊勢崎線系統の特急列車
りょうもう号・リバティりょうもう号

東武鉄道シーズン別の適用日カレンダーダウンロードはこちらから
シーズン別に金額が変動するか通年同額かの表を、JR会社ごとに、記事末尾の「まとめ」にまとめました。あわせて参照してください。

それでは、シーズンによってどのように料金が変動するのか、しくみを詳しくお話しします!
指定券にはシーズン別の料金変動がある

旅行に適した季節には旅行者が増加し、逆に旅行に不向きな時期には旅行者が減少します。需要が多ければ価格が上昇し、需要が減少すれば価格が減少するという経済の原則が、鉄道における特急料金にも反映されている形です。
旅行業界・運輸業界におけるシーズン区分と価格設定
旅行業界や運輸業界におけるシーズンは、以下の通りに区分されます。
- ピークシーズン
- ショルダーシーズン
- オフシーズン
旅行者が一番多いのが、ピークシーズン(繁忙期)です。日照時間が長く、天候が良く、休暇時期に当たることなど、旅行に好適な条件が揃っています。混雑する上、価格が高騰するのは当然のことです。
逆に、旅行者が少ないのが、オフシーズン(閑散期)です。日照時間が短く、冬場や多雨の時期といった、旅行には条件の良くない時期が該当します。需要が少ないため、価格は下がります。
それらのシーズンの中間に位置するのが、ショルダーシーズン(通常期)です。天候が比較的良いにもかかわらず休暇時期から外れているため、旅行者がそれほど多くありません。旅行代金も高くなく、いわば穴場の時期です。
これらの需要に応じた価格調整にはいくつかの方法があります。近年導入されている手法は、需要をあらかじめ予測し細かく料金を変動させる「ダイナミックプライシング」と言われるものです。航空料金や宿泊料金に広く導入されています。
このようなシーズンによる料金設定の変動を、業界では「シーズナリティ」と呼びます。これらのことを一言で表現できるため、筆者も多用している便利な単語です。
日本の鉄道におけるシーズン別の料金設定
一方、鉄道における指定券の料金については、シーズン別の料金の変動幅は固定されています。下図のように、冒頭で説明した4つの区分によって、加算額および減算額が決められています(旅客営業規則第125条第1項第1号で規定)。

- 最繁忙期:ゴールデンウィーク・お盆・年末年始
- 繁忙期:夏から秋にかけての週末・夏休み・春休み
- 閑散期:初夏から初秋にかけての平日・冬場の平日
- 通常期:上記のいずれにも該当しない時期
繁忙期および閑散期における料金の変動は、普通車指定席について従来から導入されていました。
2023年4月以降、ピークシーズンについては「最繁忙期」に区分されるようになり、加算額が上昇しました。同時に、料金変動が適用される列車の設備に、グリーン車が追加されました。指定券であれば、これらの区分による料金の加算および減算が必ず適用される形です。
画像引用元:JR東日本ニュースリリース
料金変動の基準となるのが需要が落ち着いた通常期で、加算と減算を行いません。最も需要が多い最繁忙期には通常期の特急料金より400円、繁忙期には通常期の特急料金より200円を加算します(小児は半額)。一方、需要が減少する閑散期には、特急料金が通常期の特急料金より200円減算となります。
指定席車両が連結された列車が走る線区や列車の種別によって、シーズン別の料金変動がある列車と料金変動がなく通年で同額の列車に分かれます。
なお、シーズンによる料金変動が導入されているのは指定席特急料金や座席指定料金のみで、運賃には料金変動がありません。
乗車する列車によって料金変動の有無が分かれる~対象となる列車~

JR会社や列車が運行される線区によって、シーズン別の料金に変動があるか否かが決まっています。ここでは、料金変動の対象になる列車について見ていきましょう。
シーズンによって料金が変動する列車の種別
以下に挙げたすべての列車種別について、普通車・グリーン車を問わず指定席を利用する場合の料金が対象です。したがって、自由席特急料金については通年で同額です。
- 新幹線
- 在来線特急列車
- 急行列車
- 普通・快速列車
料金変動の対象となるのは、特急列車だけであると思われがちです。しかし、普通列車や快速列車の指定席を利用する場合に必要な指定席券に関しても料金が変動することを押さえておきましょう。
シーズンによって料金が変動する列車
JR線を走る大半の列車の指定席にかかる料金は、シーズン別の料金変動が適用されます。
- すべての新幹線区間
- 一部の在来線特急列車
- 一部の普通・快速列車(閑散期における減算のみ)
JRの在来線特急列車には、JR東日本管内の一部の特急列車(※)、およびJR東海・JR西日本・JR四国・JR九州のすべての特急列車が含まれます。
普通・快速列車の場合、大半の観光列車を除く列車の普通車指定席について、閑散期に限りシーズン別の料金変動の適用を受けます。
また、東武鉄道線を走るすべての特急列車に、2025年3月以降シーズン別の料金変動が新たに導入されました。東武鉄道には最繁忙期はなく、繁忙期と閑散期のみです。
シーズンによらず通年同額の列車
指定席特急券を発売する列車に関してシーズン別の料金を適用することは、後述する旅客営業規則「第57条の3」という条文に規定されています。その条文中除外規定があり、以下の列車については通年同額です。
- JR北海道管内の在来線特急列車
- JR東日本首都圏地区の特急列車(特急「草津・四万」号を除く)
- JR東武直通特急列車「スペーシア日光・きぬがわ」号
- 小田急線直通ロマンスカー「ふじさん」号
また、普通・快速列車の普通車指定席に適用される指定席券の値段は、JR東日本管内のいわゆる「のってたのしい列車」をはじめとした観光列車においては通年同額です(旅客営業規則第139条の2)。
なお、JR各社と東武鉄道以外の鉄道会社において、シーズン別の料金設定を行う会社はありません。
シーズンによって料金が変わる背景

このように、特急列車等の指定席にかかる料金が変動する背景には、休暇の取り方に関する日本特有のカルチャーが考えられます。
日本社会では「みんなで一緒に休みを取りみんなで一緒に働く」という意識が特に強く、個人が自由に休暇を取りにくい状況です。「みんなで一緒に休みを取る」時期は、8月のお盆時期や年末年始の時期で、帰省ラッシュが発生します。当然その時期には需要が多く、旅行費用が跳ね上がります。また、4月末から5月にかけてのGWの時期にも、その傾向が見られます。
一方、それ以外の時期に休暇を取り、旅行できる人は限られています(平日休みの人は別ですが)。当然、その時期には旅行の需要が減少し、費用は低くなります。旅行業界では、オフシーズンにいかに多くの旅行者を誘客するかが課題です。
このようなことが、特急列車等の料金設定にも反映されているわけです。
鉄道業界では、需要のピークに合わせて設備投資を行わなくてはならず、余分なコストがかかります。ユーザーが多くても少なくても一定のコストがかかることから、ユーザーが少ない時期であっても、できれば満員の状態で運行したいわけです。需要が平準化されれば設備投資に無駄が生じず、鉄道会社にとっての増収につながるでしょう。
したがって、利用が少ない閑散期には料金を安く設定し、利用を促進する必要があります。特急料金等に限らず、需要の少ない時期に多くの特別企画乗車券が発売されるのは、このような背景があります。
JRのシーズン別適用日カレンダー

本文の冒頭でお出ししたJR各社のシーズン別の料金適用日カレンダーに関して、詳細をご説明します。
JR北海道管内を走る在来線特急列車にはシーズン別の料金変動はなく、年間を通して料金が一定です。
原則は通常期・繁忙期・閑散期の適用日が固定
JR各社における各シーズンの適用日は、運送約款である旅客営業規則上で規定されています。
同規則「第57条の3」の各号において従来から規定されており、具体的な適用日が明文化されています(全文は当記事末のAppendixを参照ください)。
以下の列車に関しては後述する変動カレンダーが適用されず、この条文通りの適用日が毎年適用されます(規則第57条の3第1項各号の「ロ」がこれに該当)。
- JR東日本の全列車
- 北陸新幹線の全区間・特急「サンダーバード・しらさぎ」号
したがって、毎年2月に国立天文台から翌年のカレンダーが発表になった時点で、翌年の適用日が早い時点で判明します。ダイヤ改正直前の時刻表発売を待たず、自分でカレンダーを作成可能です。
2023年に変動カレンダーが導入された
過去の利用状況をより緻密に反映し、需要の平準化を図るため、適用日が変動するカレンダーが2023年4月に導入されました。
旅客営業規則第57条の3の規定中、第1項各号の「イ」がこれに該当します。毎年変動するため条文中には適用日が記載されておらず、別表に記載される形です。
画像引用元:JR東日本ウェブサイト
このように、別表の変更内容(翌年度の適用日)が通達として公表されますが、毎年8月頃に判明します。したがって、上記のカレンダーを含め、8月頃には翌年度の適用日カレンダーが作成可能です。
上記以外の全列車について、変動カレンダーが適用されます。JR九州管内の全列車には、閑散期の設定がないことを押さえておきたいです。
以下のリンクから、JR各社の適用日カレンダーをダウンロードしていただけます。
東武鉄道のシーズン別カレンダー

2025年度より導入されたばかりであるため、当記事の執筆時点では旅客営業規則上の変更を確認できていません。同社のニュースリリースの内容をそのまま記載しました。
東武伊勢崎線を走る特急「りょうもう」号および「リバティりょうもう」号に関しては、繁忙期の加算のみが導入されており、閑散期の減算はありません。
東武日光線系統の特急列車については、JRの特急列車のように通常期・繁忙期・閑散期に区分されます。ただし、JR東武連絡特急「スペーシア日光・きぬがわ」号については通年同額であるため、今回の導入対象から外れています。
日光線系統と伊勢崎線系統では、同じ繁忙期であっても期間が異なることに留意したいです。以下のリンクから、東武鉄道の適用日カレンダーをダウンロードしていただけます。
シーズン別の料金変動制度を導入するメリット

シーズン別に特急料金等を加算・減算する制度は、鉄道会社にとってもユーザーにとっても複雑です。それでも導入されるのは、次のようなメリットがあるからであると考えます。
オフシーズンにおける利用促進効果
シーズンによって料金が変わる背景の節で前述したように、オフシーズンに旅行者を誘致したり、時期による輸送需要の差が平準化されることにメリットがあることは明らかです。
オフシーズンに旅行する場合、通常よりも料金が安くなることは、ユーザーにとってのメリットでもあります。
繁忙期・最繁忙期に料金を加算することによる増収効果
繁忙期および最繁忙期において料金加算制度を導入することによって、鉄道会社にとっては結果的に増収につながります。閑散期における料金の減算をあわせて行ったとしても、全体の収入としてマイナスにはなりません。
ここで、特急料金が2,000円の区間に繁忙期の料金加算と閑散期の料金減算を導入した場合の収入に関してシミュレーションを行いたいと思います。以下の2つの表を参照してください。
導入前 | 繁忙期 | 通常期 | 閑散期 |
料金単価 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
乗車人数 | 120 | 100 | 80 |
総収入額 | 240,000 | 200,000 | 160,000 |
総収入額の合計:600,000円
料金単価2,000円の特急列車に繁忙期で120名、通常期で100名、閑散期で80名乗車した場合、総収入額は600,000円です。
導入後 | 繁忙期 | 通常期 | 閑散期 |
料金単価 | 2,200 | 2,000 | 1,800 |
乗車人数 | 120 | 100 | 80 |
総収入額 | 264,000 | 200,000 | 144,000 |
総収入額の合計:608,000円
全く同じ条件で、繁忙期に200円の加算、閑散期に200円の減算を行うと、総収入額は608,000円と、8000円の増収になります。
繁忙期には、通常期や閑散期に比べてより多くの乗客が利用することが想定されるため、このような試算が成立します。
旅行時期を閑散期に誘導する効果がある上、料金制度を導入するだけで増収につながることから、シーズン別の料金制度を導入することは鉄道会社にとって良いことばかりです。
今後はダイナミックプライシングが広がるか
現在のJR特急料金等におけるシーズン別の料金変動は、幅が一定です。航空や宿泊料金ではすでに広く導入されているダイナミックプライシングの手法が、今後鉄道にも導入されるか、注視したいです。
売上管理が容易なネット限定割引料金とダイナミックプライシングの相性は良いと考えます。閑散期において格安な料金が提供されることが期待できます。
日本では、生活のあらゆる面において市場原理が作用しています。鉄道料金におけるこのような作用も市場原理によるものであると考えれば、社会に広く受け入れられると考えます。
まとめ

JR各社においては、新幹線や在来線特急列車等の指定券に関し、シーズン別の料金変動が導入されています。それに伴い、適用日カレンダーが毎年公表されています。
料金が変動するといっても、変動幅は固定です。通常期における料金を基準にして、最繁忙期には400円を加算、繁忙期には200円を加算し、閑散期には200円を減算します。
2025年3月以降、東武鉄道の特急列車にも、JRと同じやり方でシーズン別の料金変動が導入されました。
JRにおける特急列車等にはシーズン別の料金変動が適用されるのが原則です。しかし、例外として料金の変動がなく、通年同額とされる列車があります。JR各社の列車による料金変動の有無は、下表の通りです。
JR会社 | 線区・列車 | 変動か同額か | 備考 |
JR北海道 | 新幹線 | シーズン別に料金が変動 | |
在来線特急列車 | 通年同額 | ||
JR東日本 | 新幹線 | シーズン別に料金が変動 | |
JR東武直通特急・首都圏特急 | 通年同額 | ||
その他の在来線特急列車 | シーズン別に料金が変動 | ||
JR東海 | 新幹線 | シーズン別に料金が変動 | |
特急ふじさん | 通年同額 | ||
その他の在来線特急列車 | シーズン別に料金が変動 | ||
JR西日本 | 新幹線 | シーズン別に料金が変動 | |
在来線特急列車 | シーズン別に料金が変動 | ||
JR四国 | 在来線特急列車 | シーズン別に料金が変動 | |
JR九州 | 九州新幹線 | シーズン別に料金が変動 | |
西九州新幹線 | シーズン別に料金が変動 | 閑散期なし | |
在来線特急列車 | シーズン別に料金が変動 | 閑散期なし |
シーズン別の料金変動については、旅客営業規則第57条の3および第125条第1項第1号(特急列車の指定席特急料金)、第139条の2(普通・快速列車の座席指定料金)が根拠です。この条文には最繁忙期・繁忙期・閑散期が適用される期間や料金の加算・減算額が記載されており、原則的には毎年固定です。
しかし、2023年4月以降、JR東日本管内の列車と北陸新幹線等の列車を除き、乗車実績に応じて適用期間が動的に変更されるしくみが導入されました。同時に、普通車指定席に加え、グリーン車を利用する場合にもシーズン別の料金変動が適用されるようになりました。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
Appendix:旅客営業規則第57条の3条文
旅客営業規則第57条の3第1項の条文です(抜粋)。画像として掲載してあります。

参考資料
● JRグループニュースリリース「シーズン別の指定席特急料金の見直しとグリーン車等への適用について」2022.10.26付
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第57条の3・第125条・第139条の2
当記事の改訂履歴
2025年3月07日:当サイト初稿
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