列車に乗車する時に購入する乗車券と言えば、片道乗車券や往復乗車券がよく知られています。しかし、どちらでもないタイプの乗車券があるのです。
JR線の乗車券には、片道乗車券でも往復乗車券でもない「連続乗車券」というタイプの乗車券があります。一体、どのような場面に対応するためにあるのでしょうか?
この記事では、これらの特長や違いを、ざっと見ていきます。次に、この記事の主題である「連続乗車券」を購入するメリット・デメリットを考えます。
そして、連続乗車券には折り返し型や周回型といった経路のパターンがいくつかあることを、実際の発券事例を交えてご説明したいと思います。
「連続乗車券」とは~片道乗車券・往復乗車券との違い~
乗車券には、「片道乗車券」と「往復乗車券」、そしてこの記事の主題である「連続乗車券」の3タイプがあります。
● 片道乗車券
A駅からB駅まで片道乗車する経路、もしくはA駅からB駅を通ってA駅まで一周する(「環状線一周」といいます)経路で発売される1枚の乗車券を指します。
● 往復乗車券
A駅からB駅まで同じ経路で往復乗車する乗車券を指します。ゆきとかえりの券片2枚で1セットとなります。環状線一周となる経路の乗車券は片道乗車券に限られるため、往復乗車券として発売されません。
● 連続乗車券
2つの区間を連続乗車する2枚で1セットの乗車券であるものの、「片道乗車券」でもなく「往復乗車券」でもないものを指します。
運賃の割引が絡む場合、連続乗車券が威力を発揮します!
往復乗車券と連続乗車券の違い
これらのうち、「往復乗車券」と「連続乗車券」は、2区間のきっぷが1セットとして発売されます。そのため、往復乗車券と連続乗車券の違いがよく分からないのではないでしょうか。
往復乗車券は、A駅からB駅の「ゆき」と「かえり」が全く同じ経路(経由)で、出発したA駅まで帰ってくるきっぷです。ゆきとかえりのきっぷをセットにしたものです。
連続乗車券には、往復乗車券にある上記のしばりがありません。
上図をみると、A駅を出発してB駅まで向かった後、別のC駅まで乗車するケースがあります。それとは別に、A駅からB駅を経由し、A駅まで環状線を一周したあと、別のC駅に向かうケースもあります。
つまり、全く別の経路の乗車券であっても、1枚目と2枚目のきっぷの区間がただつながっていればよいのです。
往復乗車券・連続乗車券を含む3つのタイプの乗車券の詳細について、別記事(↓)に詳しくまとめました。是非ご一読ください。
連続乗車券の経路パターン
連続乗車券の代表的な経路パターンには、次の3つがあります。それぞれの名称は、筆者独自の表現である点をご承知おきください。
● 折り返し型
同じ路線のA駅からB駅まで向かうものの、A駅まで戻らず、途中のC駅が着駅となるパターンを指します。
● サイドトリップ型
「サイドトリップ」とは、簡単にいうと「寄り道」のことです。
A駅からB駅まで向かう途中でC駅を経由し、C駅からD駅まで寄り道するパターンを指します。
上図のように1セットの連続乗車券を作ると、しっくりくるのではないかと思います。
サイドトリップ型に該当する場合、1セットの連続乗車券として購入することが可能です。もしくは、片道乗車券にサイドトリップ部分の往復乗車券を別々に購入してもオッケーです。
サイドトリップ型の経路に関する運賃計算やきっぷの詳細については、以下の記事を是非ご一読ください。
● 周回型
A駅を出発し、B駅に向かった後、ゆきと違う経路でC駅(A駅の場合もあり)まで向かうパターンを指します。
典型的な連続乗車券のパターンではないかと思います。すでに進んだ経路上の駅に戻り、運賃計算が打ち切りになるパターンです。発駅(A駅)とは別の駅(C駅)で運賃計算を打ち切っています。
ひとつ前のケースと同様、すでに進んだ経路上の駅に戻り、運賃計算が打ち切りになるパターンです。このケースでは、発駅(A駅)に一周して戻る形で運賃計算を打ち切っています。
連続乗車券に関する運送約款上の規定
運賃計算の打ち切りについては、JR各社のルールブックである旅客営業規則第68条2項で規定されています。
経路が折り返しになる場合や、周回した後同じ経路上に戻った場合、運賃計算をいったん打ち切ります。旅行を続けるのに、途中の駅で運賃計算が打ち切りになることがあります。そのため、連続乗車券を組めると便利なわけです。
「連続乗車券」そのものについては、JRの旅客営業規則26条で規定されています。
また、JR以外の鉄道会社でも、連続乗車券が発売されていることがあります。現在では、連続乗車券を発売する鉄道会社は少なくなりましたが、発売を継続している私鉄が若干残っています。
「連続乗車券」のメリット・デメリット
無割引で乗車券を購入する場合、連続乗車券とする実利があまりないため、この記事のタイトルで「微妙な」メリットと表現しました。
しかし、何らかの割引が絡んだ場合、「連続乗車券」であることが強みとなります。
メリット
● 1枚目と2枚目の乗車券の有効期間が合算され、長い期間きっぷが有効なこと
● 割引証(学割証など)が「連続乗車券」1件につき1枚でよいこと(2枚の片道乗車券だと割引証も2枚分必要)※ 学割の場合、各券片がともに101km以上で割引適用
● 連続乗車券を払い戻す場合、払戻手数料が1件分の220円で済むこと(2枚の片道乗車券だと440円)
● 「大人の休日俱楽部」割引きっぷを購入する際、連続乗車券2区間で通算201km以上であれば、連続乗車券1件分(全区間分)の割引が適用されること
● 「レール&レンタカー」で割引が適用されること
● 他駅発の普通乗車券を連続乗車券の第2券片として購入できること
デメリット
● 旅行開始後に旅程の変更がしづらいこと(1枚目の使用開始前しか乗車変更できない)
● 「大人の休日俱楽部」割引きっぷの場合、旅行開始後に経路の変更が不可能なこと(乗車変更も区間変更も不可)
JR西日本管内の多くの駅では、他駅発の普通乗車券を単独で発売しません。そのため、区間が連続していれば、事前に他駅発の乗車券を事前に購入できるのも、ひとつのメリットとみることができます。他駅発の普通乗車券を発売しているJR他社を見習ってほしいところです。
「連続乗車券」の購入方法
購入しようとする乗車券が、片道乗車券でも往復乗車券でもない2区間連続の乗車券である場合、連続乗車券として購入することができます。もちろん、メリット・デメリットを勘案した上で、片道乗車券2枚として別に購入してもオッケーです。
連続乗車券は、ネット予約サービスや駅の指定席券売機では、基本的に購入できません。新幹線のチケットレスサービス「EXサービス」や「新幹線eチケット」には、連続乗車券の概念はありません。
したがって、ユーザー自身の操作で連続乗車券を作ることはできず、駅の「みどりの窓口」で直接駅員に注文して購入します(駅の「話せる指定席券売機」や「みどりの券売機プラス」でもオペレーター対応で購入が可能です)。
「連続乗車券」の発券事例~3つの経路パターンを詳説~
ここでは、筆者が実際に購入した連続乗車券を、6例ほどご紹介したいと思います。その中に、この記事の冒頭で申し上げた3つの経路パターンが含まれます。そのパターンは、次の通りです。
- 折り返し型
- サイドトリップ型
- 周回型
実例1:サイドトリップ型(応用)
区間1:東京都区内→(塩尻駅経由)→糸魚川駅
区間2:糸魚川駅→(田沢駅経由)→東京都区内
サイドトリップ型と周回型が同居している事例ですが、類型としてはサイドトリップ型になると考えます。連続乗車券の経路としては、かなり応用的な部類に入るかと思います。
【第1券片】
経路:東京駅(中央東線)塩尻駅(篠ノ井線)松本駅(大糸線)糸魚川駅
JR線営業キロ: 340.8km 運賃計算キロ: 351.3km
有効期間 3日
【第2券片】
経路:糸魚川駅(大糸線)松本駅(篠ノ井線)篠ノ井駅(信越本線)長野駅(北陸新幹線)東京駅
JR線営業キロ: 390.5km 運賃計算キロ: 401.0km
有効期間 3日
経路上、大糸線南小谷駅から糸魚川駅の区間のみJR西日本運営の区間です。「週末パス」を利用できる土休日に乗車する場合、週末パスと当該区間の往復乗車券を購入した方が安価です。
第1券片と第2券片の有効期間を通算すると、6日間有効なきっぷとなります。
実例2:折り返し型
区間1:(讃)高松駅→伊予大洲駅
区間2:伊予大洲駅→松山駅
往路の発駅まで戻らないため、往復乗車券とならずに連続乗車券として発券された事例です。
【第1券片】
経路:讃.高松駅(予讃線)向井原駅(予讃線)内子駅(内子線)伊予大洲駅
JR四国営業キロ: 243.2km 運賃計算キロ: 243.7km
有効期間 3日
【第2券片】
経路:伊予大洲駅(内子線)内子(予讃線)向井原駅(予讃線)松山駅
JR四国営業キロ: 48.8km 運賃計算キロ: 49.3km
有効期間 1日(下車前途無効)
◆ 海線と山線(内子線)との選択乗車について
伊予市駅から伊予大洲駅までの経路として、伊予長浜駅経由の「海線」、内子駅・内子線経由の「山線」があります。
この区間には「選択乗車」の特例があり、いずれの経路を乗車した場合も内子線経由で運賃計算します。乗車した「伊予灘ものがたり」号は海線を通りますが、乗車券上の経由は「内子線」となっています。(旅客営業規則157条34号)
実例3:折り返し型
区間1:東京山手線内→伊東駅
区間2:伊東駅→久喜駅
かえりの経路において、ゆきの経路の発駅を越えているため、同一経路でも往復乗車券とならず、連続乗車券として発券されました。
【第1券片】
経路:東京駅(新幹線)熱海駅(伊東線)伊東駅
有効期間:2日間
【第2券片】
経路:伊東駅(伊東線)熱海駅(新幹線)東京駅(新幹線)大宮駅(東北本線)久喜駅
有効期間:2日間
◆ 新幹線経由にて東京近郊区間の適用を回避
この連続乗車券が関係する駅は、すべて東京近郊区間内にあります。在来線経由とすると、各券片の有効期間は当日限りで、下車前途無効なきっぷになります。
東京駅から熱海駅まで新幹線経由としたことで、東京近郊区間を外れ、途中下車可能なきっぷに生まれ変わります。有効期間も、各券片の2日間を通算すると、4日間有効と長くなります。
実例4:周回型【大人の休日俱楽部割引適用】
区間1:東京都区内→(宮原駅・前橋駅・間々田駅経由)→大宮駅
区間2:大宮駅→上野駅
経路上の駅まで一周乗車したため、運賃計算が打ち切りとなり、打ち切った駅から第2券片として運賃計算された連続乗車券です。
【第1券片】
経路:東京駅(新幹線)高崎駅(上越線)新前橋駅(両毛線)小山駅(新幹線)大宮駅
有効期間:3日間
【第2券片】
経路:大宮駅(新幹線)上野駅
有効期間:1日間(下車前途無効)
◆ 「大人の休日俱楽部」割引きっぷ
第1券片の運賃計算キロが200kmを超えるため、全区間において「大人の休日俱楽部」割引が適用されています。第2券片は、近距離乗車券です。下車前途無効ながらも割引が適用された上、きっぷの有効期間が合算されて長くなります。
実例5:周回型【大人の休日俱楽部割引適用】
区間1:大宮駅→(宮原駅・新前橋駅・ほくほく線・飯山駅経由)→高崎駅
区間2:高崎駅→(宮原駅経由)→大宮駅
前例と同様に、同じ経路上の駅まで一周乗車したため、運賃計算が打ち切られ、連続乗車券となった事例です。
【第1券片】
経路:大宮駅(高崎線)高崎駅(上越線)六日町駅(ほくほく線)十日町駅(飯山線)飯山駅(新幹線)高崎駅
有効期間:4日間
【第2券片】
経路:高崎駅(新幹線)大宮駅
有効期間:1日間(下車前途無効)
◆ ほくほく線通過連絡運輸を含んだ連続乗車券
連続乗車券の経路に通過連絡運輸を含めることができる私鉄線はあまりありませんが、含めることができると運賃計算が大変有利になります。ほくほく線(北越急行線)には、連続乗車券に関して通過連絡運輸の設定があり、このような経路組みが可能です。
なお、JR東日本区間には「大人の休日俱楽部」割引が適用されています。
実例6:周回型?
区間1:尾張一宮駅→(岡崎駅経由)→中岡崎駅
区間2:中岡崎駅→(高蔵寺駅経由)→名古屋駅
周回経路ですが、運賃計算を打ち切った駅が一周を完了した駅ではありません。運賃計算を途中駅で任意に打ち切った事例です。厳密にはどの型とも言えませんが、片道乗車券でも往復乗車券でもなく、2区間を連続乗車しています。規則上は、連続乗車券そのものです。
【第1券片】
経路:尾張一宮駅(東海道本線)岡崎駅(愛知環状鉄道)中岡崎駅
有効期間:1日間(下車前途無効)
【第2券片】
経由:中岡崎駅(愛知環状鉄道)高蔵寺駅(中央西線)金山駅(東海道本線)名古屋駅
有効期間:1日間(下車前途無効)
◆ 打ち切りが任意の駅で可能な事例
連続乗車券の運賃計算方の実例では、環状線の周回乗車を完了して、元の経路とぶつかった駅にて運賃計算を打ち切ることになっています(本事例では金山駅が該当します)。
ただし、連続乗車券を発売するという観点から考えると、必ずしも環状線一周が完了した駅で乗車券の区間を区切る必要はなく、経路上の任意の駅で運賃計算を打ち切ることも可能です。連続乗車する1セットの乗車券には違いなく、連続乗車券を発売できるケースです。
また、この事例は、愛知環状鉄道との連絡運輸経路上で運賃計算を打ち切った1セットの連続乗車券です。連絡運輸と連続乗車券が1つのケースに同居する事例です。
まとめ
連続乗車券には、いろいろな経路パターンが存在し、柔軟に作ることが可能です。学割や「大人の休日俱楽部」割引の適用には欠かせません。
連続乗車券では、割引証の枚数や払戻手数料を節約できます。
連続乗車券については、使用開始後の乗車変更や払いもどしが煩雑です。なるべく変更がないように、きっぷを購入する前に経路をよく検討しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 「きっぷあれこれ」連続乗車券(JR東日本)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第26条(普通乗車券の発売)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第26条の2(普通乗車券の発売方)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第68条(営業キロの計算方)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第157条(選択乗車)
当記事の改訂履歴
2024年12月26日:初稿 修正
2024年12月05日:初稿 修正
2024年02月27日:初稿 修正
2023年12月13日:初稿
2016年01月23日:原文作成
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