JR東日本・北海道管内および北陸新幹線で利用できる「新幹線eチケット」に、「大人の休日倶楽部」会員専用の割引料金があることをご存じでしょうか。
50歳以上のユーザーが入会できる「大人の休日倶楽部」会員が受けられる割引は、紙のきっぷ(普通乗車券・特急券・グリーン券)が基本的な形態です。
しかし、新幹線eチケットによるチケットレス乗車サービスが始まってから、大人の休日倶楽部会員専用の割引きっぷ「おときゅうeチケ」が登場しました。
会員用割引きっぷでチケットレス乗車できるとはいいお話なのですが、ちょっとお待ちを。東北・北海道新幹線と上越・北陸新幹線を大宮駅で乗り継ぐ時は、要注意です。
大宮駅をまたぐ場合、2枚の「おときゅうeチケ」を購入することになります。乗車区間によっては、紙のきっぷである普通乗車券および新幹線特急券よりも割高になる場合があるのです。
どうしてこんなことが起こるのですか?
大人の休日倶楽部会員専用の「おときゅうeチケ」は、1区間の営業キロが片道201km以上であることが条件です。そのため、営業キロが200km以下の区間を含むと、総額の逆転現象が起こります。
この記事では、大人の休日倶楽部会員が覚えておきたい、会員専用チケットレス乗車サービス「おときゅうeチケ」利用上の注意点について詳しく解説したいと思います。
紙のきっぷの方が安い?〜仙台市在住の読者さまが経験した謎現象〜
当サイトでは、「新幹線eチケット」をはじめとしたチケットレス乗車サービスに関する情報を発信しています。ある日、仙台市に在住する読者さまが、このきっぷに関する不思議な現象について教えてくださいました。
その読者さまは大人の休日倶楽部会員の中でもジパング会員で、新幹線を利用する際には料金が30%割引されるとのこと。当然、大人の休日倶楽部版の新幹線eチケットである「おときゅうeチケ」を利用しているそうです。
仙台駅(仙台市青葉区)から東北新幹線に乗車し、大宮駅(さいたま市大宮区)で上越新幹線に乗り継ぎ、高崎駅(群馬県高崎市)まで乗車しました。その際、「えきねっと」サポートセンターに連絡する機会が、たまたまあったそうです。その結果、新幹線eチケットを2区間分購入するよりも、普通乗車券・新幹線特急券(紙のきっぷ)を全区間通しで購入した方が、総額が低いことが判明したとのことです。
このような現象を知らないと損をするので、気をつけなければとおっしゃっていました。
新幹線eチケットが紙のきっぷよりも安いと思い込んでいると、往々にして謎の現象に遭遇することがあります。一体、どのような場合に発生するのでしょうか。
紙のきっぷを購入した方が安くなるしくみを、具体的にご説明します!
紙のきっぷを購入した方がよい2つのパターン
「大人の休日俱楽部」会員割引が適用された「新幹線eチケット」は、「おときゅうeチケ」として区別されています。このきっぷについて覚えておきたいのは、片道201km以上の新幹線停車駅相互間に限り、会員割引でチケットレス乗車が可能な点です。
しかし、この距離制限は、全乗車区間で201km以上であれば会員割引が適用されるという原則に反しています。そのため、前述したような謎な状況が生じることがあります。
この現象は、以下の状況で発生します。
- 大宮駅で東北新幹線と上越・北陸新幹線を乗り継ぐ場合
- 片道101km以上200km以下の経路を往復で乗車する場合
大宮駅で乗り継いだ列車の乗車区間が200km以下である場合、新幹線eチケットでは大人の休日俱楽部会員割引が適用されません。そのため、経路全体の営業キロがたとえ201km以上あっても、一部の区間について割引漏れが発生するのです。
また、101km以上200km以下の区間を往復で同時に購入する場合であっても、「えきねっと」上では新幹線eチケットを会員割引で購入できません(おときゅうeチケが表示されない)。本来であれば全区間に対して会員割引が適用されるべきですが、おときゅうeチケの仕様によって割引漏れが発生します。
このような経路においては、紙のきっぷを購入することで割引漏れを回避し、全区間の割引を受けられます。
それでは、大宮駅で乗り継ぐ1つ目のパターンを詳しく見ていきましょう!
大宮駅で新幹線を乗り継ぐ場合に発生
先述したエピソードの前提となるのが、大宮駅で東北・北海道新幹線と上越・北陸新幹線を乗り継ぐことです。大宮駅の地元に住む筆者はもちろんのこと、東京周辺に在住する人にとって非常に気が付きにくい盲点ではないかと思います。
ここでは、大宮駅で新幹線を乗り継ぐ場合の運賃・料金計算のしくみと、大人の休日倶楽部会員割引の適用条件との関係をご説明します。
大宮駅で料金計算が打ち切りになる「新幹線eチケット」
普通車指定席およびグリーン車の「新幹線eチケット」を購入する場合、紙のきっぷよりも大人で200円安いため、おトクに感じるのではないでしょうか。
「新幹線eチケット」を利用するにあたって留意しておきたい点は、所定運賃・料金の体裁を取りつつも、実際には特別企画乗車券であることです。新幹線特急券と普通乗車券がセットになった片道用の特別な料金であり、新幹線停車駅相互間で設定されています。
その料金設定は「東北新幹線・北海道新幹線」内と「上越新幹線・北陸新幹線」内で完結しており、大宮駅で乗り継ぐ場合に料金を通算するという概念はありません。
新幹線eチケットの大人の休日倶楽部会員版「おときゅうeチケ」もその例外ではなく、通しで乗車する場合でも大宮駅で料金計算が打ち切られます。
紙のきっぷについては全区間通算で運賃・料金を計算
一方、紙のきっぷである普通乗車券や新幹線特急券では、原則的に全乗車区間通しで運賃・料金を通算します。普通乗車券については、経路が折り返しにならない限り運賃計算を通算できるため、発駅から着駅まで1枚のきっぷとなります。
ただし、新幹線特急券については「東北新幹線・北海道新幹線」と「上越新幹線・北陸新幹線」を大宮駅で乗り継ぐ場合、新幹線eチケットと同様に料金をそれぞれ算出する形です。
大人の休日倶楽部・ジパング倶楽部割引きっぷを割引で購入する場合、原則的には全区間の距離を元に割引の適否を判定します。
仙台駅・高崎駅間の事例では運賃・料金はいかに
大宮駅で運賃・料金の計算を打ち切るか通算するかによって、紙のきっぷを購入した方が総額が低くなるかどうかの分かれ目になります。新幹線eチケットが片道専用のきっぷであるため、あくまでも片道ベースで比較します。
この図は、仙台駅から大宮駅を経て、高崎駅に至る全経路を分かりやすくまとめたものです。ここでは、30%割引対象のジパング会員で試算を行うことに留意ください。
おときゅうeチケ(新幹線eチケット)
仙台駅・高崎駅間に通しの料金設定がないため、大宮駅にて料金を打ち切り、2枚のきっぷを合算します。
券種 | 乗車区間 | 営業キロ | 金額 | 割引率(ジパング) |
eチケ | 仙台駅・大宮駅 | 321.5km | 7,460円 | 30%割引 |
eチケ | 大宮駅・高崎駅 | 74.7km | 3,540円 | 無割引 |
eチケ | 総計 | 396.2km | 11,000円 | 仙台駅・大宮駅間のみ割引 |
大宮駅・高崎駅間は片道200kmに満たないため、大人の休日倶楽部会員割引が適用されません。結果的に割引されるのは、仙台駅・大宮駅間に限定されます。
「えきねっと」上の購入画面では、仙台駅・大宮駅間については割引後の金額が表示されます。
しかし、大宮駅・高崎駅間については、無割引の料金しか表示されません。
大人の休日倶楽部割引適用の普通乗車券・新幹線特急券
一方、従来の紙のきっぷについては、全区間通しで運賃・料金計算を行います。
券種 | 乗車区間 | 営業キロ | 金額 | 割引率(ジパング) |
普通乗車券 | 仙台市内・高崎駅 | 396.2km | 4,620円 | 30%割引 |
新幹線特急券 | 仙台駅・大宮駅 | 321.5km | 3,600円 | 30%割引 |
新幹線特急券 | 大宮駅・高崎駅 | 74.7km | 1,680円 | 30%割引 |
紙券 | 総計 | 396.2km | 9,900円 | 全区間30%割引 |
新幹線特急券については2区間に分割されますが、大人の休日倶楽部会員割引上の判定については全区間通しで行う点が要です。仙台駅・高崎駅間は片道で201km以上であるため、すべての区間で運賃・料金とも割引が適用されます。
新幹線eチケットと同様、仙台駅・大宮駅間について表示されるのは、割引後の金額です。
大宮駅・高崎駅間についても、割引後の金額が表示されています。
普通乗車券についても、割引後の金額が表示されることは言うまでもありません。
紙のきっぷが1,100円も安く(ジパング会員)
会員割引が適用されない区間が生じるか否かで、運賃・料金の総額に1,100円もの差が付きました。節約できる金額が大きいために、きっぷの買い方を熟慮した方が良いと言えます。
大宮在住の筆者にとってはまさに青天の霹靂で、この現象を知った時にはただただ驚くだけでした。鉄道の運賃・料金計算を専門とする上で、非常に勉強になる事例です。
このような現象が起こる背景を、考察していきたいと思います。
新幹線eチケットの登場で全旅程の距離判定が困難に
大人の休日俱楽部会員が受けられる運賃・料金の割引には、距離上の条件があります。
割引の適否を判定する営業キロは、片道・往復・連続乗車券のいずれかで201km以上です。片道で201km以上が必要なわけではなく、連続した2区間のきっぷを同時に購入すれば、その合計で距離条件を満たす限り割引が適用になるということです。
紙のきっぷから新幹線eチケットへの移行で生じた矛盾
このような割引条件は、大人の休日俱楽部の会員サービスが始まった際、決められました。その後、2020年に新幹線のチケットレス乗車サービス「新幹線eチケット」が始まり、大人の休日俱楽部に対応した「おときゅうeチケ」というきっぷが後から追加された形です。
前述した通り、新幹線eチケットについては全乗車区間を通算するのではなく、1個の列車ごとの料金を合算するしくみです。いわば、列車から降りるたびに料金計算がぶつ切りになると言えます。
元々は、乗車する全区間を通算し、大人の休日倶楽部の割引可否を判定していました。しかし、新幹線eチケットで料金がぶつ切りになることで、全旅程の距離を判定できなくなっています。
このため、全旅程の距離がたとえ201km以上であっても全区間の運賃・料金の割引ができず、割引が漏れるケースが生じてしまうのです。
割引条件緩和で割引漏れが減少する可能性が
2026年3月以降、往復・連続乗車券の発売終了に伴い、割引条件が片道101km以上に緩和されます。したがって、「おときゅうeチケ」を含め、現在よりも会員割引を受けやすくなることに間違いありません。
新幹線eチケットでは全乗車区間の通算ができないものの、緩和により割引漏れが発生してしまう確率が減少すると思われます。ただし、距離制限が残る限り、この不具合がなくなることはありません。
それでは、割引漏れがどの区間で発生するか、具体的な区間を検証していきましょう!
大人の休日俱楽部割引に漏れが生じうる区間
新幹線eチケットの大人の休日俱楽部会員版「おときゅうeチケ」に関しては、対象区間が片道201km以上に限定されます。
ここでは、割引が適用されるのが具体的にどの駅であるか、詳しく見ていきたいと思います。
この図は、大宮駅から見た東北・上越・北陸新幹線の各駅の位置関係です。この図を基に、各線区別に駅名を挙げます。
東北新幹線
大宮駅からの営業キロが200km以下の東北新幹線内の駅は、次の通りです。
線区名 | 駅名 | 営業キロ |
東北 | 小山 | 50.3km |
東北 | 宇都宮 | 79.2km |
東北 | 那須塩原 | 127.5km |
東北 | 新白河 | 155.1km |
東北 | 郡山 | 196.4km |
小山駅(栃木県小山市)から郡山駅(福島県郡山市)までの各駅については、いずれも割引条件である片道201km以上という条件を満たしていません。
上越新幹線
大宮駅からの営業キロが200km以下の上越新幹線内の駅は、次の通りです。
線区名 | 駅名 | 営業キロ |
上越 | 熊谷 | 34.4km |
上越 | 本庄早稲田 | 55.7km |
上越 | 高崎 | 74.7km |
上越 | 上毛高原 | 121.3km |
上越 | 越後湯沢 | 168.9km |
上越 | 浦佐 | 198.6km |
熊谷駅(埼玉県熊谷市)から浦佐駅(新潟県南魚沼市)までの各駅については、いずれも割引条件である片道201km以上という条件を満たしていません。
北陸新幹線
大宮駅からの営業キロが200km以下の北陸新幹線内の駅は、次の通りです。
線区名 | 駅名 | 営業キロ |
北陸 | 安中榛名 | 93.2km |
北陸 | 軽井沢 | 116.5km |
北陸 | 佐久平 | 134.1km |
北陸 | 上田 | 158.9km |
北陸 | 長野 | 192.1km |
安中榛名駅(群馬県安中市)から長野駅(長野県長野市)までの各駅については、いずれも割引条件である片道201km以上という条件を満たしていません。
冒頭でリストアップした2つのパターンのうち、2つ目についてご説明します!
連続した2区間(往復・連続)でも割引漏れとなるケースが
新幹線eチケットにおいて大人の休日俱楽部割引が漏れてしまうのは、大宮駅で新幹線を乗り継ぐ場合に限りません。
片道101km以上200km以下の距離の区間について、往復分を「えきねっと」上で購入しようとすると、以下の現象が生じます。
- 新幹線eチケット:無割引の新幹線eチケットの金額が表示される
- 紙のきっぷ:割引が適用された普通乗車券および新幹線特急券の金額が表示される
つまり、新幹線eチケットでは割引対象にならないものの、紙のきっぷでは割引になります。大人の休日俱楽部割引の適用条件を満たしていても、割引された料金が表示されないのは、間違いなくシステム上の不備です。
前述した大宮駅・郡山駅間(営業キロ196.4km)や大宮駅・長野駅間(営業キロ192.1km)が、このケースに該当します。
新幹線eチケットの検索結果です。検索条件に大人の休日俱楽部割引適用を指定したにもかかわらず、割引後の金額が表示されません。
紙のきっぷを指定した場合の検索結果です。大人の休日俱楽部割引が適用されるため、割引後の金額が表示されています。
ユーザーとしては、新幹線eチケットを購入するのではなく、紙のきっぷを購入するようにしたいです。
この現象を解消することは十分可能
前述したように、大人の休日俱楽部割引を適用するか否かを判定するには、乗車する全区間の営業キロが201km以上であるかどうかが基準となります。この区間には片道だけではなく、往復や連続が含まれるのがポイントです。
システムのつくりが甘いことが根本原因
しかし、おときゅうeチケに関しては、片道で201km以上である場合のみ割引が適用されます。本来は連続した2区間でも割引が適用されるべきなのですが、システムが割引可能と判定できないのが現状です。
つまり、えきねっとのシステム処理上不備があるため、割引漏れが生じます。判定ロジックを修正さえすれば、紙のきっぷと平仄(ひょうそく)を合わせることが十分に可能です。
割引適否の判定方法を修正すれば不具合が解消する
この不具合を解消するためには、具体的に2つの方法が考えられます。
一つ目の方法は、「おときゅうeチケ」を利用する際、全乗車区間の距離を合算して割引の適否を判定することです。
もう一つの方法は、無割引の「新幹線eチケット」の料金を合計し、全区間の総額からディスカウントを行う方法です(会員種別による割引率を適用)。ただし、全区間の新幹線eチケットを同時に購入しなければならないといった制約が生じます。
実に簡単に不具合を解消できることが、お分かりいただけたのではないでしょうか。
まとめ
新幹線にチケットレス乗車できる「新幹線eチケット」には、うれしいことに大人の休日俱楽部会員用の「おときゅうeチケ」があります。しかし、割引適用のされ方が不完全であるため、安易に飛びつくと危険です。
以下のケースに該当する場合、全乗車区間について紙のきっぷの購入を検討したいです。
- 大宮駅で乗り換える列車の営業キロが片道200km以下である場合
- 片道101km以上200km以下の経路を往復で乗車する場合
新幹線eチケットについては新幹線停車駅相互間で料金計算を行うため、全乗車区間をベースにした距離で割引の適否を判定できません。そのため、新幹線eチケットの方が紙のきっぷよりも総額で高くなるのです。
連続した区間の新幹線eチケットを2枚購入する場合に、全区間の距離を合算して割引の適否を判定するようにシステムが改修されれば、容易に不具合が解消します。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● JR東日本 大人の休日倶楽部会員サイト 2025.01閲覧
● えきねっとウェブサイト 2025.01閲覧
当記事の改訂履歴
2025年01月27日:当サイト初稿
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