新幹線、在来線特急列車を問わず、全車指定席の列車がここ数年で大幅に増えました。特急列車の本来の姿は指定席が主体ですが、その流れがますます加速しそうです。
ところで、全車指定席の列車に乗車するには、必ずしも座席指定を受けなければならないのでしょうか。座席指定を受けてから乗車するのが当たり前のルールと思われがちですが、実は座席指定を受けられなくても正当に乗車できる場合があります。
その一例として、JR東日本・北海道管内の新幹線においては、座席指定を受けた新幹線特急券を持っていなくても「新幹線特定特急券(立席)」を購入すれば乗車できる一部の特定区間があります。座席指定が受けられないなどの条件はあるものの、特定特急券は通常の指定席特急券よりも料金が低額です。
特定特急券は、上述した全車指定席の列車に限らず、多くの列車に対して広く発売されています。名称としては「特定特急券」と一括りで呼ばれますが、目的や状況によっていくつかバリエーションがあります。
一部区間で使用できる新幹線特定特急券は旅費節約の一手ですが、座席が確保されません。繁忙期や混雑時には座れないことがあるので、指定券購入を検討することをおススメします。
この記事では、「特定特急券」および「立席特急券」に関するすべてを、実際のきっぷの券面をお出ししながらお話しします。その一例に、北海道新幹線の区間を「新幹線特定特急券(立席)」で乗車した体験をお伝えします。それを踏まえ、「特定特急券」とはどのようなものか、どういうケースに購入できるのか、ケース別に整理してご説明します。
いずれもイレギュラーな状況に対応するきっぷという点で、特定特急券や立席特急券はとてもよく似ています。
- 特定特急券では座席に座れない場合があること
- 特定特急券と座席未指定券は性質が全く異なるきっぷであること
- JR東日本管内の特定特急券はネット予約サービスで購入できないこと
「特定特急券」はどのようなものか~存在する背景~
新幹線が開業する前には、同じ区間を在来線特急列車が走っていました。在来線の特急料金よりも新幹線の特急料金は、特に指定席では高額になり、近距離ユーザーにとっては経済的負担が大きいです。
また、山形新幹線「つばさ」号のような、従前自由席が設定されていた列車が全車指定席に変更され、自由席特急料金よりも高額な(指定席)特急料金を負担しなければならない状況が発生しています。
全車指定席の列車がいつでも満席なわけではなく、空席の利用を促進する状況もあると考えられます。一方で、多客期において全車指定席の列車が軒並み満席な時期に、どうしてもその列車に乗車しなければならない事情も考えられます。
混雑等で指定券を入手できなくても、最終手段として購入できる特定特急券(もしくは立席特急券)は、移動の自由と権利を保障する役割を担っているといえます。
これらが背景で、一般の(指定席)特急券や自由席特急券とは別に、イレギュラーな状況に対応する「特定特急券」が存在すると考えます。
誤解しないように申し上げておくと、あくまでも上記の特別の事情やイレギュラーに対応するための特定特急券(および立席特急券)であって、節約を目的として特定特急券が発売されているわけではありません。
「特定特急券」および「立席特急券」には、次に列挙する通り、いくつかのバリエーションがあります。
新幹線
- 隣接する駅間に設定された「新幹線特定特急券」(自由席車両利用)
- 「のぞみ」号「みずほ」号の「新幹線自由席特急券/特定特急券」(自由席車両利用)
- 列車が満席の場合に立席承知で発売される「新幹線立席特急券」(座席には座れない)
- 東北・北海道・秋田・山形新幹線の一部区間で設定された「新幹線特定特急券(立席)」(指定席車両空席を利用)
在来線
- 列車が満席の場合に立席承知で発売される「立席特急券」(座席には座れない)
いずれのケースでも、指定席特急料金より低額なこと、そして着席が保証されないことが共通しています。
特定特急券の他、JR東日本の一部の特急列車に設定されている「座席未指定券」が存在しますが、似て非なるものです。両者とも着席は保証されないものの、料金設定の考え方が根本的に異なります。
これから、特定特急券の各ケースを深掘りしたいと思います。
隣接する新幹線駅間に設定された「新幹線特定特急券」【自由席】
新幹線の短距離区間ユーザーにとって、指定席料金の負担が重いことから、自由席に限って料金を軽減する趣旨で設定されたものです。短距離区間の利用促進の面もあります。
隣接した1駅間の自由席利用の特急料金は、基本ルールの
[通常期の指定席特急料金-530円]
ではなく、特定の料金が設定されています。実質的に「新幹線自由席特急券」の隣接した1駅間用の自由席特急券と考えればよいでしょう(1駅間ではない例外もあり)。
隣接駅間に設定された「新幹線特定特急券」の料金は、下表のとおりです。
新幹線運行会社 | 50km以下 | 51km以上 | 備考 |
JR東日本・JR西日本(北陸) | 880円 | 1,000円 | |
JR北海道 | 1,330円 | 1,520円 | 指定席車両の空席を利用 |
JR東海・JR西日本(山陽)・JR九州 | 870円 | 990円 |
なお、九州新幹線の新八代駅ー川内駅間には「特定特急券」の設定がありません。
使用する設備は常に自由席のため、ネット上の「えきねっと」や駅の指定席券売機でも購入することができます。また、「EX予約」や「新幹線eチケット」の利用も可能です。
自由席車両の座席に着席することができます(満席時の着席保証なし)。
このきっぷは、大宮駅(さいたま市大宮区)から熊谷駅(埼玉県熊谷市)まで上越・北陸新幹線の「あさま」号の自由席で移動した際に使用した「新幹線特定特急券」です。乗車日と乗車区間のみ指定されたシンプルな券面です。
続いて、大宮駅から東京駅までの「新幹線特定特急券」です。
東京駅を発着する場合は少し特殊で、上野駅発着の新幹線特急料金に一律210円(大人)を加算します。この場合、大宮駅ー上野駅間の料金880円+加算分210円=1,090円となります。
隣接駅間が原則であることをお話してきましたが、このケースをはじめ、元々の隣接駅間に新駅が開業し、2区間分になった場合など、いくつか例外があります(例:熊谷駅ー高崎駅間)。
この現象を利用して、新幹線特定特急券を2枚分割購入し、併用するワザがあります。通しの新幹線自由席特急券1枚を買うよりもいくらか安くなり、旅費の節約につながります。詳しくまとめた記事(↓)を投稿しましたので、どうぞご一読ください。
隣接する新幹線駅間に設定された「新幹線特定特急券」【指定席】
隣接駅間に設定されている新幹線特急料金は、基本的には自由席の利用が対象です。しかし、一つだけ例外があるので、ご紹介します。
自由席を利用する他にも、指定席を利用する場合の新幹線特定特急料金が、東北新幹線郡山駅ー福島駅間に限って設定されています。隣接駅間の指定席特急料金は、通常は大人2,400円のところ、当該区間に限っては1,410円と低額に設定されています。
きっぷの券面にも「新幹線特定特急券(指定)」と記載されていて、かなりの変わり種です。
この料金が設定された背景には、福島駅で接続する山形新幹線(奥羽本線)を走る「つばさ」号に乗車する場合の料金調整の側面があると考えられます。
「のぞみ」号「みずほ」号の「新幹線特定特急券」【自由席】
東海道・山陽・九州新幹線においては、「のぞみ」・「みずほ」号の新幹線特急料金(a)と「ひかり」・「こだま」・「さくら」・「つばめ」号の新幹線特急料金(b)が異なります。
新幹線特急料金(a)のほうが新幹線特急料金(b)よりも高額で、基本ルールに従う限り自由席利用の特急料金(a)も本来高額になるはずです。しかし、自由席利用の特急料金に関しては、すべての列車で同額です。
[自由席新幹線特急料金(a)]=[自由席新幹線特急料金(b)]
この場合、「のぞみ」号および「みずほ」号の自由席特急料金が本来の金額よりも低額であるため「特定特急券」と呼ばれます。
実際のきっぷの券面には「新幹線自由席特急券/特定特急券」と記載されます。
列車が満席の場合に立席承知で発売される「新幹線立席特急券」
全車指定席の列車において、すべての座席が売り切れた状況で立席承知で乗車するため、座席に着席することはできません。
この場合の特急料金は、[通常期の指定席特急料金-530円]となります。
この特急券は「えきねっと」などでは購入できず「新幹線eチケット」も利用できません。特急券は、駅の窓口で購入します。
厳密にいうと、旅客営業規則上は「立席特急券」に区分されます。
特定特急券の料金は、区間ごとに個別設定されます。一方、立席特急券の料金は、所定の特急料金がベースとなる点で、料金設計が特定特急券とは異なります。
東北・北海道・秋田・山形新幹線の一部区間で設定された「新幹線特定特急券(立席)」
東北・北海道・秋田・山形新幹線の一部区間(上図実線表示の区間)において発売される「新幹線特定特急券」では、普通車指定席の空席に着席することができます。列車が空いている時期や時間帯においては、実質的に料金を節約できるきっぷの買い方だと考えます。
ただし、座席指定されないため、着席は保証されません。したがって、着席した座席の指定席特急券を所持したユーザーが現れた場合には、座っていた席を譲る必要があります。
ネットでは購入できないけど駅で購入可能
満席時には着席できないため、着席保証がない代わりに低額なのが「新幹線特定特急券(立席)」と言えるでしょう。
確実に着席したい場合は、座席が指定された通常の「新幹線特急券」を購入してから乗車します。
このきっぷは、新青森駅(青森県青森市)から奥津軽いまべつ駅(青森県今別町)まで北海道新幹線の「はやて」号の普通車指定席の空席に利用し、筆者が移動した際に使用した「新幹線特定特急券(立席)」です。乗車日と乗車区間、新幹線の列車名が指定されています。
実際に「はやて」93号に乗車した際の車内の様子。
ご覧の通り、指定席にもかかわらずほとんどが空席で、空気輸送状態です。このような状況では座席指定も必要ないので、特定特急券でも十分にことが足ります。
この節でお話している特定特急券は「えきねっと」で購入することはできません。検索結果には普通車指定席は表示されますが、特定特急券は表示されません。したがって、特定特急券の料金では「新幹線eチケット」も利用できないことになります。
一方で、駅の指定席券売機では、設備の一覧に指定席の他「特定」のボタンが表示されて、紙のきっぷとして購入することができます。当日乗車する分だけでなく、前売でも購入できます。みどりの窓口で購入する場合、駅員がこの制度を知らない場合があるのでご注意ください。
現地では近距離券売機でも購入可能
今お話しした方法で買う特定特急券は、駅のみどりの窓口で買うか、指定席券売機を操作して買うものです。事前にきっぷを入手できる買い方です。
一方、当日列車に乗る時に特定特急券を買うことが、現実的には多いでしょう。その場合は、発駅の近距離券売機でも簡単な操作で買うことができます。
東北新幹線の盛岡駅以南の区間には自由席があるので、自由席特急券を買う形です。一方、自由席がない東北新幹線の盛岡駅以北の区間や秋田新幹線の特急券は、新幹線特定特急券になります。
きっぷの様式は先ほどのマルス券とは異なりますが、「新幹線特定特急券(立席)」と記載された同じ効力のきっぷです。
列車が満席の場合に立席承知で発売される「立席特急券」【在来線】
在来線の全車指定席の特急列車においても、すべての座席が売り切れた状況で立席承知で乗車する場合に「立席特急券」が発売されることがあります。営業規則上は「立席特急券」と明確に区分されますが、本記事では便宜的に特定特急券の一形態としてご紹介しました。
この場合の特急料金は、[通常期の指定席特急料金-530円]となります。
このきっぷは、GW時期の最繁忙期に満席となった列車に対して発行された「立席特急券」です。満席時のみ救済手段として発売されることのあるきっぷなので、いつでも買えるものではありません。
立席特急券には、乗車する列車名と号車が指定されます。本例の「草津・四万」号については、B特急料金が適用されるため「B立席特急券」になります。この特急券では座席に座れません。
座席未指定券についての詳細は、以下の記事(↓)を是非ご一読ください。
まとめ
全車指定席の列車に乗車する場合、一部の特定区間については通常の「新幹線特急券」を購入することなく「新幹線特定特急券(立席)」にて乗車することによって、新幹線特急料金を節約することが可能です。
ただし、「新幹線特定特急券」では座席指定されないため、着席の保証がありません。多客時に列車が混雑することが予想される場合、確実に着席したい場合は、座席指定された「新幹線特急券」を通常通りに購入することをおススメします。
厳密にいうと、旅客営業規則上「特定特急券」と「立席特急券」は別物です。きっぷ上に「特定」や「立席」が混在しているため混乱しますが、通常の特急券ではないということでひとくくりに考えてよいと思います。
首都圏周辺を走るJR東日本の特急列車では「立席特急券」ではなく、「座席未指定券」が発売されます(特急「草津・四万」号、東武線直通特急以外)。着席保証がないのは両者とも共通していますが、料金設計が根本的に異なります。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第57条(急行券の発売)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第125条
改訂履歴 Revision History
2024年5月05日:初稿 修正
2024年3月17日:初稿 修正
2024年01月16日:初稿 修正
2024年01月15日:初稿
2022年4月30日:原文作成
コメント