JR東日本「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」運賃制度・きっぷ・途中下車しながらの完乗体験

気仙沼線BRT志津川駅にて 列車別のきっぷ

宮城県と岩手県にまたがる南三陸海岸沿いを走る、JR気仙沼線BRTと大船渡線BRT。三陸復興国立公園区域内の風光明媚な景色を眺めることができます。

2011年3月に発生した東日本大震災以前は、全線鉄道として列車が走っていました。震災発生後、一時期運行が休止しました。その後、気仙沼線と大船渡線の大半の区間は、鉄道としてではなく、BRT(バス高速輸送システム)として運行が再開しました。

筆者も、BRT気仙沼線とBRT大船渡線の全区間を完乗しました。

路線バスの旅ですね。

そうなんですよ。南三陸の海産物が美味しいし、震災遺構を見学できますよ。

この記事では、BRT気仙沼線・BRT大船渡線がどのような形態で運行されているかを、運賃やきっぷの面からみていきます。

そして、筆者がBRT気仙沼線柳津駅(宮城県登米市)からBRTに乗車し、途中の震災遺構を見学しながら、BRT大船渡線盛駅(岩手県大船渡市)まで移動した道中をお伝えしたいと思います。

この記事を読むと分かること
  • BRTの実態は路線バスながら営業制度は鉄道を踏襲していること
  • 他の鉄道線との連絡きっぷを購入すると距離によって途中下車できること
  • 線内の主要駅ではオリジナリティある紙のきっぷを入手できること

「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」とは

BRT志津川駅

2011年3月に発生した東日本大震災以前は、前谷地駅(宮城県石巻市)から気仙沼駅までの区間をJR気仙沼線、一ノ関駅から盛駅までの区間をJR大船渡線として、双方とも鉄道の列車が運行されていました。

ところが、2011年の東日本大震災で線路が使用できなくなり、一時期運休していました。

その後、海岸沿いの大半の区間については鉄道として復旧したのではなく、元々の線路をバス専用道路に再生して、路線バスを走らせるようになりました。専用道路を走ることから、一般の路線バスではなく「BRT」(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)と呼ばれます。

柳津駅(宮城県登米市)から志津川駅(宮城県)を経由し、気仙沼駅(宮城県気仙沼市)まで至る路線が気仙沼線BRTです。2012年12月以降、JR東日本によって運行されています。

気仙沼線BRTの営業キロは55.3kmで、おおよその所要時間は1時間50分です。前谷地駅から柳津駅までの区間は、鉄道として列車が現在でも走っています。

そして、気仙沼駅から陸前高田駅(岩手県陸前高田市)を経由し、盛駅(岩手県大船渡市)に至る路線が、大船渡線BRTです。2013年3月以降、こちらもJR東日本によって運行されています。

大船渡線BRTの営業キロは43.7kmで、おおよその所要時間は1時間20分です。一ノ関駅から気仙沼駅までの区間は、現在でも鉄道として列車が走っています。

BRTの両線を乗り継ぐと、全区間の営業キロは99.0kmです。

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BRTのメリット・デメリット

気仙沼駅構内

列車からBRTとしての路線バスに転換されたわけですが、BRTならではの、いくつかのメリットやデメリットが考えられます。

メリット

● バスの本数が多い(頻回運行が可能)

震災前の列車の時刻表を見ていたら、列車の本数が少なかったです。現在、路線バスの本数は、列車時代よりも多いです。また、区間運行のバス本数を確保しやすいのが、路線バスの特長です。

「BRT気仙沼線」においても、本吉駅から気仙沼駅まで区間運行のバスが多く、交通需要に細かく対応することができます。

● 一般道路を走るより所要時間が短い

一般的に、鉄道が廃止され、路線バスに転換された場合、バスは一般道路を走ることになります。一般道路では道路渋滞で定時性が確保されない場合があります。BRTは、かつての線路だったバス専用道路を走ることで、渋滞なく定時性が確保されます。

● 専用道路と一般道路を併用できる

BRT気仙沼線・大船渡線においても、かつての線路を専用道路として路線バスが走ります。全線専用道路ではなく、一般道路を走る区間もあります。この路線も、一般道路(国道45号線等)や高速道路(三陸沿岸道路)を使用しています。

また、一般道路を通って、町役場や病院の前に乗り入れできることが、路線バスであるBRTのメリットです。交通弱者への配慮が行き届く一面もあります。

専用道路と一般道路と、いいとこ取りができるということです。

デメリット

● 輸送力が低い

大量輸送できる鉄道の列車と比較して、路線バスの輸送力は劣ります。輸送需要に応じてバス便の増回が弾力的にできますが、それでもキャパシティを超えた需要が発生したら、どうしようもありません。

● バスの車内事故の発生リスク

安定して走行できる列車に比べて、路線バスは一般の交通の影響を受けます。自転車や歩行者の飛び出し等で急ブレーキがかかり、バス車内で立っている人が転倒する事故発生のリスクは、列車よりも高いです。

● 都市間交通にBRTが向いているのか?

BRTの専用道路整備維持には、コストがかかります。都市間交通としてBRT方式とするのが合っているかどうか、議論があります。

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「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」の運賃制度・きっぷ

気仙沼線BRT・大船渡線BRT時刻表

「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」は、基本的には路線バスです。ただし、運行事業者が一般のバス会社ではなく、鉄道事業の大会社である「JR東日本」直営というのが、この路線ならではの特色です。

一般の路線バスは、バスを乗り降りする時に現金やICカードで運転士に運賃を支払うことが一般的です。したがって、紙のきっぷが存在することは、非常にまれです。

一方、「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」では主要な駅(停留所)にきっぷうりばがあり、きっぷで乗車することが特徴です。運営者が鉄道会社のJR東日本ということもあって、この路線の運賃制度やきっぷは鉄道のシステムと類似しています。紙のきっぷの存在が、きっぷ鉄として興味をそそられます。

BRTの運賃制度

「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」の普通運賃は、JR東日本の自動車線運賃として、鉄道とは別の運賃が定められています(ただし、定期運賃は鉄道と同一)。ただし、運賃表や賃率が公表されておらず、全貌を把握できません。最低区間の運賃は、大人150円です。

BRTがJR東日本の経営する路線ということもあり、BRT外のJR線の鉄道駅との連絡きっぷを購入することも可能です。この場合、乗車区間の全区間について、鉄道の旅客営業規則が適用されます。

BRTと鉄道を乗り継ぐ場合、独自体系のBRT運賃と、鉄道区間の運賃とを合算した金額が、全体の運賃額となります。BRT区間を含む全区間の営業キロが101km以上の場合、営業キロに応じてきっぷの有効期間が増えます。旅客営業規則の規定が適用されるため、途中下車も可能です。

普通乗車券や定期乗車券だけではなく、「青春18きっぷ」や「北海道&東日本パス」、「大人の休日俱楽部パス」などのフリーきっぷでもBRTに乗車できます。

BRT線内のみ乗り放題のフリーきっぷは、現在のところあいにく発売されていません。途中下車の旅を楽しむには、上記のフリーきっぷや鉄道線との連絡きっぷ(通算101km以上の経路)を購入して乗車するとよいでしょう。

BRTのきっぷ:発売箇所・様式

BRTのきっぷ(普通乗車券)は、JR東日本の駅窓口で購入できます。BRT外のJR駅でも購入可能です。BRTの区間内には、次の駅に出札窓口があります。

● 陸前豊里駅(宮城県登米市)【簡易委託駅】

みどりの窓口ではありませんが、JR線のきっぷを購入できます(営業時間注意)。

● 志津川駅(宮城県南三陸町)【委託駅】

みどりの窓口ではありませんが、指定券を含め、JR線のきっぷを購入できます。

● 本吉駅(宮城県気仙沼市)【簡易委託駅】

みどりの窓口ではありませんが、JR線のきっぷを購入できます(月2回の営業:営業時間注意)。

● 気仙沼駅(宮城県気仙沼市)【直営駅】

みどりの窓口が設置されており、JRきっぷをリアルタイムで購入できます。BRT線の自動券売機も設置されています。

● 陸前高田駅(岩手県陸前高田市)【委託駅】

みどりの窓口が設置されており、JRきっぷをリアルタイムで購入できます。

● 盛駅(岩手県大船渡市)【委託駅】

みどりの窓口が設置されており、JRきっぷをリアルタイムで購入できます。BRT線の自動券売機も設置されています。

これらの駅のうち、みどりの窓口設置駅にはマルス端末があり、マルス券が発行されます。その他の駅にはPOS端末が設置されており、POS券が発行されます。

NOTE

きっぷの発売箇所や営業時間は随時変更されるため、訪問の際はご自身で確認をお願いいたします。

気仙沼線BRT・大船渡線BRTのきっぷ
端末券も意外に多様

BRT線内の普通乗車券、発券端末により、3種類あります。

みどりの窓口で発券されるマルス券は、大型の12cm券です。その他の駅で発券されるPOS券は、通常の8.5cm券です。券売機がある盛駅で購入した券売機のきっぷは、小型のエドモンソン券ではなく、8.5cm大のものです。

BRT線内では、入場券は発売されていません

BRT線と鉄道線の連絡乗車券については、JR東日本以外のJR各社でも購入できます。ただし、BRT線内で完結する普通乗車券を購入できるのは、JR東日本管内の駅に限られます。

「BRT気仙沼線・大船渡線」専用の交通系ICカード「odeca(オデカ)」もBRT線内の駅で発売されています。最低額が2,000円(デポジット込み)と、少し高かったため、筆者は購入を見送りました。BRT以外でも使用できる地域連携Suicaにバージョンアップされましたが、どちらかといえば地元の人向けのカードといえるでしょう。

お待たせしました。それでは、全区間を完乗した際の様子を公開します!

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「気仙沼線BRT・大船渡線BRT」完乗道中

陸前高田市街の震災遺構

2022年4月中旬の平日、筆者は仙台駅から小牛田駅に午前中に入り、そこから気仙沼線方面に向かいました。BRT大船渡線の終点、盛駅に到着したのは、日没直前の夕方でした。

前述したように、BRT気仙沼線・大船渡線の全線に乗車すると、その営業キロは99.0kmです。鉄道車両と違い、路線バス車内にはトイレがないため、途中の駅で随時休憩することになろうかと思います。筆者は途中下車して震災遺構を観光しながら全線完乗しましたが、6時間近くかかりました。

小牛田駅→柳津駅(気仙沼線)【鉄道線】

気仙沼線普通列車小牛田駅にて

2927D:
小牛田駅 10:40 → 柳津駅 11:21分

筆者はこの日、鉄道線として残っている柳津駅までの区間を、列車で移動することができました。BRT気仙沼線には、鉄道線の柳津駅で連絡するか、気仙沼線始点駅である前谷地駅で連絡するかのいずれかです。

気仙沼線普通列車の車内

平日の日中ということもあり、列車にはほとんど乗客がいませんでした。筆者と同じ鉄オタがちらほらという感じでした。

前谷地駅駅名標

途中、前谷地駅で数分間停車。前谷地駅から気仙沼線に入りました。終始平和な車内で、定刻に終点の柳津駅に到着。

柳津駅→BRT志津川駅(気仙沼線BRT)

気仙沼線普通列車柳津駅にて

BRT 1935K:
柳津駅 11:47分 → BRT志津川駅 12:14分

柳津駅で鉄道が終わり、かつて線路があったところには、バス専用道路が延びています。線路は、ここで行き止まりです。

柳津駅BRT駅舎

BRTでは「駅」と呼ばれていますが、実態はバスの停留所です。各駅には、小さな待合室が設置されていて、雨露をしのげます。

BRT専用道路柳津駅にて

柳津駅のBRT乗り場から、気仙沼駅方を眺めたところ。かつて線路だったところを舗装道路がまっすぐ伸びていますが、一般の自動車は通行できません。

柳津駅に入るBRT

バスの発車時刻間際に、バスが入ってきました。路線バス仕様の、大型11mバスです。

BRT車内

バスの車内は、都市部のバスと全く同じです。長時間乗車するのは、結構つらいです。

気仙沼線BRT整理券

紙のきっぷを持っていても、乗車する際には整理券を取ります。

柳津駅から志津川駅までの区間は、BRTでも輸送需要が最も少ない区間です。バスの本数も1時間に1本と少なく、車内も閑散としていました。

BRT志津川駅→BRT気仙沼駅(気仙沼線BRT)

BRT志津川駅仮駅舎

BRT 1941K:
BRT志津川駅 13:39分 → BRT気仙沼駅 15:01分

志津川駅で一旦途中下車して、周辺にある震災遺構を見て回りました。志津川駅から至近距離にあるので、徒歩で十分歩き回れます。

南三陸町震災遺構

国道45号線の海岸側にあったホテルが、取り壊されずに残っています。

南三陸町旧庁舎

国道45号線を挟んで反対側の、山側には南三陸町の旧庁舎が残っていました。建物自体はとても小さいです。

建設途上の道の駅の近くに、「南三陸さんさん商店街」という小さなモールがあります。修学旅行生がたくさんいる中、魚屋さんでランチをさくっといただきました。

志津川駅に戻りました。「駅」といえども、バス停です。

志津川駅仮設出札窓口

プレハブの仮駅舎内には、れっきとした出札窓口があり、JR線のきっぷを購入できます。

志津川中心部の散策とランチを終えた頃に、次のバスがやってきました。

NOTE

2022年4月に筆者が訪問した際は、志津川駅は写真のような仮設の駅舎でした。同年に道の駅が完成し、BRTの駅舎も道の駅の中に移転しました。

志津川駅を出てすぐに南三陸町役場や病院の前を通りました。BRTの強みと感じました。気仙沼駅に向かうにつれ、乗客が増えてきました。途中一般道路の国道45号線を走ることが多かったのですが、気仙沼の中心部はしっかり専用道路に入って、気仙沼駅に到着。

BRT気仙沼駅→BRT陸前高田駅(大船渡線BRT)

気仙沼駅駅舎

BRT 3343F:
BRT気仙沼駅 15:09分 → BRT陸前高田駅 15:45分

気仙沼駅では、わずか9分の乗り継ぎでした。鉄道線の大船渡線の終点で、大きな駅に感じられます。

気仙沼駅BRT大船渡線ホーム

気仙沼駅の中には、鉄道のホームとBRT乗り場が同居している珍しい光景があります。あくまでも、BRTは鉄道の代替と感じさせられます。

気仙沼駅発車標

駅舎内の発車案内も、鉄道と同じです。BRTも一つの列車のように扱われています。

気仙沼駅を発車してから、しばらくは専用道路で市街地をスルー。一般道路に出たと思ったら、高速道路の三陸連絡道路に入りました。鉄道の代替バスが、ライバルの交通モードである高速道路を利用するのは、時代が変わったと思います。

この区間で岩手県に入り、右手に「奇跡の一本松」が見えてきました。すぐに、新市街地の中心の高台にできた陸前高田駅に到着。

BRT陸前高田駅→BRT盛駅(大船渡線BRT)

陸前高田駅駅舎

BRT 1349F:
BRT陸前高田駅 16:51分 → BRT盛駅 17:36分

陸前高田駅も、バスターミナルにあるひとつのバス停に過ぎませんが、ここには駅舎が建っています。その駅舎内には「みどりの窓口」があり、指定券をリアルタイムで買えます。

陸前高田市街中心部

盛駅行きのバスを1本見送って、次のバスが来るまで街を散策。いまだに造成中の街並みですが、少しづつ街の形ができ始めてきました。災害を乗り越えて、整然とした街があるという感じです。

陸前高田駅に停まるBRT

陸前高田駅を発車した頃にはすでに夕方で、途中通学の高校生で車内が満員になりました。この辺りは、大船渡市周辺の都市内バスという雰囲気があります。BRTとしてやっていけるようにも思えます。

盛駅構内

終点の盛駅に到着。三陸鉄道線との乗り換え駅で、ここも線路とバス専用道路が同居しています。珍しい眺めです。

おわりに

盛駅に到着したBRT

「BRT気仙沼線・大船渡線」を全線完乗しましたが、旅行者の足というよりは、地元に根差した交通機関という印象を強く持ちました。BRTに乗車できるフリーきっぷを持っていても、なかなかたどり着けない地域です。

つまり、鉄道からバスへ転換してしまうと、遠方からの観光客を公共交通機関で呼び込みにくくなってしまうことを意味すると思います。

通常の乗り鉄とは一味違う、路線バスの旅を楽しむことができました。震災遺構を見学しながら沿線をめぐる、普段はなかなか足を踏み入れることができない、社会派の旅を味わえました。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料 References

● 気仙沼線BRT・大船渡線BRT案内(JR東日本ウェブサイト)

気仙沼線BRT・大船渡線BRT(バス高速輸送システム):JR東日本
JR東日本のバスによる新しい交通システム「BRT(バス高速輸送システム)」に関する情報をご紹介します。

● 東日本旅客鉄道株式会社 一般乗合旅客自動車運送事業取扱規則

当記事の改訂履歴 Revision History

2024年5月27日:初稿 修正

2024年3月31日:当サイト初稿(リニューアル)

2022年6月08日:前サイト初稿(原文作成)

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