JR線のきっぷを購入する時、発駅から着駅までの全区間を通しで購入するのが当然に思われがちです。しかし、その区間を分割して購入した方がおトクになる場合があるのをご存じでしょうか。
全区間を通して1枚のきっぷを購入するのではなく、発駅から途中駅までのきっぷとその途中駅から着駅までのきっぷを分けて購入するのです。区間が連続していれば、きっぷが何枚であっても併用できます。
きっぷの分割購入や併用を禁止する規則は特にありませんし、きっぷの買い方によって生じる差額を調整する制度もありません。きっぷの買い方を工夫して、運賃や料金を節約しようとは思いませんか。
ただし、JR線のきっぷを複数の区間で分割購入することには、いくつか留意すべき点があります。
私鉄競合の特定区間とその周辺の区間をまたがって乗車する場合、きっぷの分割購入が特に威力を発揮します。きっぷを分割するメリットとデメリットをあらかじめ理解した上で、実行したいワザです!
この記事では、通しのきっぷを買うのか、区間を分割するのかを決定するための考え方とワザを、実例を交えて詳しくご説明します。
定期乗車券にも乗車区間を分割するための正式な手法がありますが、当記事では普通乗車券に関するワザに焦点を当ててお話を進めようと思います。
- 2枚以上のきっぷを分割購入することは規定上禁止されていないこと
- 全区間の紙のきっぷを乗車前に購入する必要があること(JR西日本ではNG)
- 旅行のキャンセル時や輸送障害が発生した場合に不利益があること
きっぷの区間を分割して購入したきっぷを併用するとは
きっぷを購入する際、ユーザーは「きっぷは目的地まで正しくお求めください」と要請されます。したがって、発駅から着駅までの1枚のきっぷを通しで購入しなければならないと思うのが普通です。
そのようなわけで、2枚以上のきっぷを併用するとは、一体どのようなことかと疑問を持つのではないでしょうか。ここでは、きっぷの区間を分割して購入した2枚以上のきっぷを併用することについて解説します。
連続する区間の2枚以上のきっぷを併用することとは
ここでは、発駅のA駅から途中駅のB駅を経由して、着駅のC駅までのきっぷを買うことを想定しましょう。
普通はA駅からC駅まで通しで1枚のきっぷを購入します。しかし、A駅からB駅ゆきのきっぷとB駅からC駅ゆきの2枚のきっぷを買うことも考えられます。
このケースでは、意図的にきっぷの区間を分割しています。運賃及び料金の節約が図れる場合があると考えられるからです。
2枚以上のきっぷを併用することについては、普通乗車券や定期乗車券だけではなく、特急券・グリーン券といった料金券にも同じことが言えます。
隣接駅間にかかる新幹線特定特急券を併用すると、新幹線の特急料金を節約できることがあります。この手法については、別の記事(↓)にて詳しく説明しています。是非ご一読ください。
また、2枚以上の新幹線eチケットを併用することについてもまとめました。以下の記事をご一読ください。
必然性があってきっぷを併用することも
意図的に途中の駅できっぷを分割するわけではなく、必要性があって複数のきっぷを併用することも考えられます。
例えば、東京駅から京都駅まで新幹線を利用する旅行商品を買って、そのきっぷを受け取ったとしましょう。その場合、[東京都区内→京都市内]と表示されているはずです。東京都区内とは東京23区内にあるJR線の駅を意味しますが、その周辺の駅から乗車する場合には、別のきっぷが必要です。
この場合、発駅から着駅まで通しのきっぷとすることができません。したがって、区間が連続した2枚以上のきっぷを併用することには、必然性があります。
この手法は規定上問題なし
連続した区間のきっぷを2枚以上併用すること、およびきっぷの区間を分割することは、規定上は全く問題がありません。
きっぷの併用や分割を禁止する直接的な規定は存在しません。逆に、2枚以上のきっぷを併用することを前提とした規定もあるくらいです(旅客営業規則第157条)。
ただし、きっぷの発売範囲が各駅の裁量で決められる旨の規定はあります(旅客営業規則第20条)。したがって、鉄道会社側が恣意的にきっぷの発売方を制限することは、業務上の都合として十分に考えられます。
後述するように、JR西日本に限っては法的根拠がないのにもかかわらず、きっぷの分割購入を認めていません。実際にきっぷを使用する際に駅員ともめる可能性がありますが、違法ではないことを覚えておきたいです。
言うまでもありませんが、併用するきっぷの区間は連続していなければなりません。万が一連続していない場合には不正乗車とみなされて、ペナルティが課せられます。きっぷの区間分割や併用に関しては、よく注意した上で実践したいです。
きっぷの区間を分割して購入するカラクリ
本来は、きっぷの買い方がどうであろうと、発駅から着駅までの金額は同じであるはずです。ここでは、きっぷの分割購入の意味がどうしてあるのか、そのカラクリを考えていきたいと思います。
きっぷの区間を分割することで有利になる場合がある要因として、以下の3つが挙げられます。
運賃表における距離帯の刻み
JR線の運賃は1km単位で計算されるのではなく、営業キロに基づいた一定の距離帯ごとに設定されています。営業キロが長くなれば長くなるほど、距離帯の刻みが粗くなります。
営業キロ | 中間キロ | 運賃(円) |
1-3 | — | 150 |
4-6 | — | 190 |
7-10 | — | 200 |
11-15 | 13 | 240 |
16-20 | 18 | 330 |
(中略) | ||
51-60 | 55 | 990 |
61-70 | 65 | 1,170 |
(中略) | ||
101-120 | 110 | 1,980 |
121-140 | 130 | 2,310 |
(中略) | ||
601-640 | 620 | 9,790 |
641-680 | 660 | 10,010 |
例えば、営業キロが101km以上120km以下の場合における距離帯は20km刻みで、中間の営業キロは110kmです。その距離帯の中であれば何キロであっても110km分として運賃計算を行います。
そのため、きっぷの乗車区間をなるべく上限の120kmに近づけて購入するとおトクです。この組み合わせによって、乗車区間を分割することのメリットが生じます。
複数の賃率
JR線の運賃水準は、乗車区間に応じて次の4つに区分されています。
- 東京山手線内・大阪環状線内
- 電車特定区間(東京・大阪)
- 幹線
- 地方交通線
それぞれの区分で異なる賃率(1km当たりの運賃単価)が定められていて、上から下の順で賃率が高くなります。
たとえ乗車区間のほとんどが「電車特定区間」内であっても、1駅間でも「幹線」が含まれた場合、全区間を賃率が高い「幹線」として扱います。
したがって、賃率が低い「電車特定区間」で完結するきっぷと賃率が高い「幹線」区間のきっぷを分割すると、通しで買うより安くなる可能性が大きくなるわけです。
私鉄競合の特定区間
大都市圏内で並行する私鉄線の運賃が安い場合、営業対策としてJR線の運賃も安く特定されている区間がいくつかあります。これを「特定区間」と呼びます。
上述した通り、乗車区間が当該特定区間とそうではない区間にまたがっている場合、きっぷを通しで購入すると特定区間の運賃が適用されません。運賃が安い特定区間とそうではない残りの区間できっぷを分割購入することで、節約効果が生じるわけです。
以上のように、JR線の運賃を計算するための方法が独特であるために、きっぷの区間をいかに区切るかによって運賃が安くなるかどうか差が出てきます。
分割購入したきっぷを併用した実例
きっぷの分割購入を検討する3つの要因についてご説明しましたが、実際にはどのようなケースが考えられるでしょうか。ここでは、それらの要因別に、具体的な事例をご紹介したいと思います。
距離帯の刻みのギャップを利用した事例
大宮駅ー高崎駅ー(信越本線)横川駅
大宮駅(さいたま市大宮区)から高崎駅(群馬県高崎市)までは幹線の高崎線、高崎駅から横川駅(群馬県安中市)までは幹線の信越本線です。全区間に、幹線の賃率を適用します。
上図から、大宮駅から横川駅までを通しで購入するよりも、大宮駅から高崎駅までの区間および高崎駅から横川駅までの区間をそれぞれ分割して購入する方が130円安くなることが分かります。
乗車区間による賃率の違いを利用した事例
川口駅ー大宮駅ー越後湯沢駅
赤羽駅(東京都北区)から大宮駅までは電車特定区間(京浜東北線)、その先越後湯沢駅(新潟県湯沢町)までは幹線の高崎線・上越線です。通しで運賃計算する場合、全区間に幹線の賃率を適用します。
全区間を通しで購入するよりも、それぞれの区間を分割して購入する方が100円安くなります。
私鉄競合の特定区間運賃の安さを享受する事例
大宮駅ー品川駅ー横浜駅ー逗子駅
大宮駅から逗子駅(神奈川県逗子市)までの全区間が電車特定区間に含まれますが、途中駅の品川駅(東京都港区)から着駅の逗子駅までは、私鉄競合のための特定運賃の設定区間です(京浜急行電鉄が並行)。
この区間についてはおもしろいことに、品川駅から逗子駅まで通しの特定運賃を適用できるばかりではなく、品川駅ー横浜駅/横浜駅ー逗子駅と特定区間をさらに分割できます。
きっぷの区間を分割することによって、当該特定区間の運賃を取り込めないかを検討していきましょう。
上表から、大宮駅から逗子駅までの全区間を通しで購入するよりも、大宮駅ー品川駅/品川駅ー逗子駅と2分割した方が60円安くなります。
さらに、大宮駅ー品川駅/品川駅ー横浜駅/横浜駅ー逗子駅と3分割すると、通しよりも130円安くなります。
それでは、どうしたら分割したきっぷを購入できるかご説明します!
分割きっぷの購入方法
きっぷを途中駅で分割するには、多少手間がかかりますが、事前に紙のきっぷ(普通乗車券)を用意する必要があります。交通系ICカードでは、このようなメリットを享受できないことを覚えておきたいです。
乗車券の発売箇所
普通乗車券は、以下の発売箇所で購入します。
● JR駅で購入
紙のきっぷは、駅の有人窓口(みどりの窓口)や指定席券売機で購入できます。ただし、JR西日本管内の駅では、他駅発の乗車券を発売してもらえません(理由は後述)。また、近距離きっぷ専用の券売機では、他駅発の普通乗車券を購入できません。
● ネット予約サービスを利用
ネット予約サービスの「えきねっと」もしくは「e5489」では、乗車券だけでの購入が可能です。ネットでは当駅発・他駅発という概念がないため、どの駅発の乗車券であっても購入できます。ネット上で申し込みをしてから、駅で紙のきっぷを受け取る形です。
● 旅行会社の店舗で購入
市中にある旅行会社の店舗でも、日本全国のJR駅発の乗車券を購入できます。駅では買えないことがある他駅発の乗車券を購入できるので、覚えておくと役に立ちます。
実際に購入したきっぷ
筆者が逗子駅に向かった時、実際に買った通しのきっぷと分割きっぷを合計で5枚分ご紹介します。
● 全区間通しの乗車券:逗子駅→大宮駅
何も考えず普通に購入した場合は、このパターンです。全区間が電車特定区間に含まれます。
● 区間を分割した乗車券:大宮駅→品川駅
私鉄競合の特定区間に含まれない区間です。電車特定区間の賃率が適用されています。
● 区間を分割した乗車券:品川駅→逗子駅
京浜急行と競合しているため、特定運賃が設定されています。本来の発駅である大宮駅の指定席券売機で購入しました。
● 区間を分割した乗車券:品川駅→横浜駅
同じ状況ですが、別の特定運賃が設定されています。旅行会社の店舗で、下のきっぷと同時に購入しました。
● 区間を分割した乗車券:横浜駅→逗子駅
この区間についても、別の特定運賃が設定されています。
きっぷの分割購入は、いいことばかりではありません。注意すべき点を見ていきましょう。
きっぷを分割購入する際の注意点(デメリット)
きっぷを発駅から着駅まで通しで購入せず分割することには、留意すべき点やデメリットがいくつかあります。以下に、それらを詳しく説明します。
分割の仕方によっては通しで計算するより高くつくことも
きっぷの区間を分割して購入することでどれだけの節約につながるか、実例をお見せしました。しかし、分割の仕方によってはかえって値段が高くなることがあるため、注意したいです。
乗車券については分割のメリットがある一方、特急券やグリーン券といった料金券については、新幹線の隣接区間のケースを除きメリットがありません。
きっぷを実際に購入する前に運賃計算のシミュレーションを行うことをおススメします。乗車券分割プログラムを使用するのも一考に値します。
イレギュラーが発生した場合に受ける不利益
平常時であればきっぷの分割購入には問題ありませんが、イレギュラーが発生した場合に不利益が生じることがあります。
● きっぷの払いもどし
旅行をキャンセルする場合、きっぷ1枚につき220円の払戻手数料がかかります。区間を分割して2枚以上のきっぷを買った場合、その枚数分の払戻手数料を支払う必要があるため、通しで購入した1枚のきっぷを払いもどすよりも不利です。
● 列車の輸送障害
また、輸送障害が発生した場合、振替輸送などの取り扱いで不都合が生じる可能性があります。きっぷを通しで購入した場合には、最終着駅まで運送してもらう権利があります。しかし、きっぷを分割購入した場合には、最終着駅までの運送を請求できないリスクがあります。
JR西日本がこの手法を認めていないこと
よく知られたことですが、JR西日本は、区間を分割してきっぷを購入することを認めていません。
同社では「(そのような買い方を)ご提案していません」と言っていますが、言い方を換えれば「(そのようなきっぷを)発売しません」と捉えることもできます。
実際に他駅発の乗車券の購入をみどりの窓口で申し出ると断られますし、みどりの券売機でも操作できません。
同社管内の駅では、分割購入した2枚以上の乗車券を併用した際に、同社管内の駅でとがめられ、運賃を追加徴収(差額収受)されそうになった事例があるとか。不正乗車ではない以上、そのような取り扱いは許されません。
JR西日本管内の事例ではありませんが、指定席券売機で他駅発の乗車券を購入できないケースがあります。他駅発乗車券購入(他乗代)に関する問題を、別の記事(↓)で解説しました。興味がある方は、是非ご一読ください。
きっぷの分割購入に関する課題
知っているユーザーにとっては有利な面がある、区間を分割してのきっぷ購入。当記事でご紹介した運賃体系の設計は、本来は出札業務の円滑な遂行を意図したものです。そのために距離帯の刻みが粗くなっているのですが、公平公正であることとは結果的に相反するようです。
本来は全区間を通しで購入すべききっぷを、分割して購入すると安くなる場合があることを知っているのは、ほんの一部のユーザーです。ほとんどのユーザーはこのことを知らずに、高い金額を支払っています。また、交通系ICカードで乗車する場合にも、メリットを享受できません。
きっぷの買い方によって損得が分かれるのは、知らない人にとっては不公平極まりないことではないでしょうか。
分割購入すると総額が安くなる場合、どのようにきっぷを買ったとしても、より低額な方に総額を調整すべきではないかと考えます。
まとめ
JR線に乗車する時に購入するきっぷ。通常は、発駅から着駅までを通しで購入します。しかし、途中の経由駅で区間を分割し、2枚以上のきっぷを併用する方法もあることが分かりました。
分割することでユーザーが得られるメリットは、通しで購入するよりも値段が安くなることがある点です。これは、JRの運賃体系の複雑さが生んだ産物とも言えます。複数の賃率の存在や運賃表における距離帯の刻みの粗さ、私鉄競合のための特定運賃の存在が、この背景です。
この手法を活かして運賃や料金の節約をしようとする場合には、あらかじめ紙のきっぷを購入する必要があります。駅の窓口や指定席券売機、ネット予約サービス(えきねっと、e5489)、旅行会社の店舗で購入できます。
ただし、JR西日本ではきっぷの分割購入を認めておらず、駅では通しのきっぷを購入させられます。そのため、ネット予約サービスを利用して自衛する必要があります。
すべての区間できっぷを分割購入するのがおトクなわけではありません。そこで、通しのきっぷを購入するのが安いか、分割購入が安いか、きっぷを購入する前にあらかじめシミュレーションしましょう。
旅行をキャンセルしたり、旅行開始後に輸送障害があった場合にはきっぷの分割購入が不利に作用する場合があることに留意すべきです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料 References
● きっぷを通しで買うよりも、途中駅で区間を分割して買うほうが安くなる場合があるのはなぜですか:JRおでかけネット(JR西日本)2024.8閲覧
● きっぷを通しで買った時と2枚に分けて買った時では、値段が違う場合があるのはなぜですか(JR東日本)2024.8閲覧
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則
当記事の改訂履歴 Revision History
2024年8月03日:当サイト初稿
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