東北・北海道地方の一部区間を除き、新幹線には自由席車両が連結されています。新幹線自由席に乗車する時に必要なきっぷが「新幹線自由席特急券」です。在来線の特急料金に比べ高額な設定で、新幹線の料金が高く感じられます。
特に近距離の利用では、新幹線料金の高さが際立ちます。そこで、近距離区間の利用促進のため、隣接する駅間については値段を抑えた「新幹線特定特急券」が設定されています。
隣接駅間(1駅間)の新幹線特定特急券の値段は概ね1,000円弱に設定されていますが、2駅間ではどうでしょうか。距離にもよりますが、2,000円以上に跳ね上がるケースがあります。
筆者も実際、高崎駅から大宮駅まで新幹線自由席に乗車する際、途中の駅で下車せず通しで利用する場合、何か節約できる手段がないかなぁと思いました。
1枚の新幹線自由席特急券を通しで購入するよりも、連続した区間の2枚の新幹線特定特急券を分割購入し、それらのきっぷを併用する方が安価になる現象が、多くの区間で見られます。
紙のきっぷを準備する手間がかかり、きっぷの入手に難があります。しかし、きっぷさえ揃えば確実に節約につながるワザです。
この記事では、新幹線自由席特急券と新幹線特定特急券の料金設定を比較し、新幹線特定特急券の併用についてのメリットおよびデメリットを様々な角度から検証します。
- 新幹線特定特急券の併用はルール上禁止されていないこと
- 新幹線特定特急券を分割購入すると通しの新幹線自由席特急券より安い場合があること
- 払いもどす場合の手数料が高額となるなど、デメリットもあること
連続区間の2枚の「新幹線特定特急券」を併用して節約
新幹線の隣接駅間に設定された「新幹線特定特急券」は、東海道・山陽新幹線系統で870円か990円、東北・上越新幹線系統で880円か1,000円です。
例えば、連続する2駅間の新幹線自由席特急券が1,870円だとすると、隣接区間の新幹線特定特急券2枚分[880円 X 2=1,760円]と110円の差が生じます。新幹線特定特急券2枚分の値段が2駅間通しの新幹線自由席特急券1枚の値段より110円安くなるので、少額ながら節約の余地があるわけです。
きっぷの買い方次第で料金が節約できるという話ですが、ルールブックである旅客営業規則上には、きっぷの併用に関する明確なルールが存在しません。ルールがないところには、トラブルがつきものです。駅員によってはこのようなきっぷの売り方をしないため、窓口では希望するきっぷを買えない可能性が考えられます。
しかし、現在は指定席券売機やネット予約サービスを通して自分できっぷを買える時代になりました。自己操作できっぷを購入することで、本記事でご紹介するワザを実践することが可能です。
このような、区間が連続した2枚の新幹線特定特急券を分割購入し、併用することについて、それ自体が禁止されているわけではありません。ただし、今お話しした通り、きっぷを買えるかどうかが問題です。実はその辺がグレーゾーンな部分で、公開の是非を悩みました。今回、自分で操作してきっぷを買うことを前提に、公開に踏み切ることにしました。
筆者のエピソード:高崎駅から大宮駅まできっぷを併用
筆者が高崎駅から大宮駅まで上越新幹線の自由席に乗車する際、高額な新幹線特急料金をいくらかでも節約できないかと思い、ネット予約サービス「えきねっと」で通しの特急料金と、途中の熊谷駅で分割した場合の特急料金を比較しました。
当該区間の中間駅には本庄早稲田駅と熊谷駅があり、3駅間となります。そのうち本庄早稲田駅は、上越新幹線の開業当初にはなかった駅です。したがって、各駅間の新幹線特定特急券の値段は、次の通りです。
以下の図の通り、特急券を分割購入したほうが110円安い結果となりました。
● 高崎駅から大宮駅まで:1,870円【通し】
● 高崎駅から熊谷駅まで:880円【分割1】
● 熊谷駅から大宮駅まで:880円【分割2】
さっそく、分割した2枚の特急券をえきねっと上で仕込み、駅の指定席券売機で決済して紙のきっぷを引き取りました。余談ながら、乗車券は高崎駅から大宮駅までの通しで購入しました。
発券したきっぷを実際に使用した後、持ち帰りました。出場する際特にとがめられることなく、2枚とも着駅の無効印が押されました。
● 高崎駅→熊谷駅の新幹線特定特急券
● 熊谷駅→大宮駅の新幹線特定特急券
「新幹線特定特急券」とは
新幹線の特急料金は、各区間ごとに設定されますが、原則として距離で決まります。指定席の場合「新幹線特急券」で、自由席の場合「新幹線自由席特急券」です。しかし、近距離区間の料金が高額になりがちで、利用促進のため個別に料金が修正されることがあります。その場合「新幹線特定特急券」が発売されるわけです。
この料金の正式名称は、東海道・山陽新幹線系統では「新幹線自由席特急券/特定特急券」、東北・上越新幹線系統では「新幹線特定特急券」で、券面上に表記されます。
新幹線特定特急券にはいくつかのパターンがありますが、ここでは主な路線の隣接駅間の料金を挙げます。以下の表を見ると、自由席を利用する場合の新幹線特定特急券の料金は、距離が50km以下と51km以上で異なります。
新幹線運行会社 | 50km以下 | 51km以上 |
JR東日本・JR西日本(北陸) | 880円 | 1,000円 |
JR東海・JR西日本(山陽)・JR九州 | 870円 | 990円 |
新幹線特定特急券の設定は、基本的に自由席が対象です。指定席でも設定されている区間がありますが、ごく例外的です(東北新幹線郡山駅ー福島駅間など)。
新幹線特定特急券を含む「特定特急券」については、深掘りした以下の別記事(↓)が詳しいです。詳細な情報が必要な場合は、是非ご一読ください。
隣接駅間の中間に駅が新設される場合の新幹線特定特急券
ところで、隣接区間として新幹線特定特急券の料金が設定されている駅間に、新駅が開業することがしばしばあります。この場合、今まで隣接していた駅が新駅に挟まれ、当該区間が2駅間になります。
筆者のエピソードとしてご紹介した区間ですが、上越新幹線熊谷駅から高崎駅までの区間がこのケースに該当します。上越新幹線の開業時には隣接駅(1駅間)だったものの、後になって本庄早稲田駅が開業しました。そのため、熊谷駅ー高崎駅間は2駅間となりました。
このようなケースでは料金が見直されることがなく、例外的に隣接駅間扱いで新幹線特定特急券の設定がそのまま残ります。したがって、3駅間にまたがる場合でも料金的には2駅間ということになり、自由席の料金を節約する余地が出てきます。
新幹線自由席特急料金が安くなるからくり
新幹線自由席特急券と新幹線特定特急券の料金設計にギャップがあるため、きっぷの買い方によっては効力が同じきっぷをより安く買える場合があります。
特急券を分割し、併用するのはほとんどの場合通しで買うよりも高額となるため、通常はあまり検討されません。しかし、今回のお話のように、2枚の特急券を分割購入する方が、1枚の特急券を通しで購入するよりも低額になる逆転現象が発生することがあります。
新幹線の場合、指定席でこのようなことが発生する余地はありませんが、自由席を2駅間乗車する場合に見られる現象です。
新幹線特定特急券は、本来は1駅間だけ乗車するために設定されていて、その区間の着駅で改札口を出ることが想定されています。
しかし、連続した区間の当該特急券を2枚持っている場合、必ずしもきっぷに示された着駅で下車し、入場し直さなければならないわけではありません。必ずしも、通しの特急券1枚で乗車しなければならないわけではなく、区間が連続している限り、別々の特急券を併用しても、それを禁止するルールはありません。
したがって、駅の券売機やネット予約サービスでそれぞれの特急券を正規料金として購入できるのは言うまでもありません。
新幹線特定特急券の併用が低額になるパターン
新幹線特定特急券の併用について、抽象的なお話が続いてしまいました。これから、具体的にどのような区間でいくら安くなるか、具体的に検討していきます。
東北・上越新幹線系統
JR東日本・西日本が運行する東北・上越新幹線の系統では、以下の区間に自由席利用の新幹線特定特急券が設定されています。
- 東北新幹線:東京駅ー盛岡駅
- 上越新幹線:東京駅ー新潟駅
- 北陸新幹線:高崎駅ー金沢駅
これらの区間以外では、指定席の空席を利用する「新幹線特定特急券(立席)」が発売されています。自由席用の「新幹線特定特急券」と値段は同額ですが、似て異なるきっぷです。
これらの区間内で自由席を1駅間利用する場合の新幹線特定特急券の値段は、下表の通りです。
新幹線運行会社 | 50km以下 | 51km以上 |
JR東日本・JR西日本(北陸) | 880円 | 1,000円 |
一方、2駅間もしくは3駅間乗車する場合の新幹線自由席特急券の値段は、区間ごとに設定されています。系統別の料金表は、本記事の末尾をご覧ください。
具体例としては、本記事前半でエピソードとして挙げた高崎駅から大宮駅までの料金が該当します。
東海道・山陽新幹線系統
JR東海・西日本が運行する東海道・山陽新幹線の系統では、全区間に自由席利用の新幹線特定特急券が設定されています。九州新幹線については料金体系が異なるので、当記事では検討しません。
東海道・山陽新幹線の区間内で自由席を1駅間利用する場合の新幹線特定特急券の値段は、下表の通りです。
新幹線運行会社 | 50km以下 | 51km以上 |
JR東海・JR西日本(山陽) | 870円 | 990円 |
一方、2駅間もしくは3駅間乗車する場合の新幹線自由席特急券の値段は、区間ごとに設定されています。系統別の料金表は、本記事の末尾をご覧ください。
東海道・山陽新幹線の例として、新大阪駅から米原駅までの区間の新幹線特急料金を検討します。当該区間の中間駅には京都駅があります。各駅間の新幹線特定特急券の値段は、次の通りです。
- 新大阪駅ー京都駅:870円
- 京都駅ー米原駅:990円
一方で、特急券を通しで買った場合、新幹線自由席特急券の値段は次の通りです。
- 新大阪駅ー米原駅:2,530円
両者間には670円の差が生じ、特急券を分割したほうが低額になるのが分かります。
東海道・山陽新幹線の2駅間を自由席に乗車する場合、特急券を分割購入し、併用する方がわずかな金額ながら節約できます。
本記事のワザを実践する場合、必ず連続した区間の新幹線特定特急券を購入してください。区間が連続しない場合は不正乗車となり、ペナルティが課せられます。
新幹線特定特急券の分割購入が低額になる主な区間
大半のケースでは、新幹線特定特急券を分割購入し、併用したほうが料金が低額になります。ここでは、節約効果が大きく、比較的多くの利用がありそうな代表的な区間を一覧表でお示しします。
全区間の値段については、記事末尾の三角表をご覧ください。
東北・上越新幹線系統
いずれの区間も、分割購入して併用する方が通しで特急券を購入するよりも、大人で110円安くなります。
自由席【通年】 | 分割 | 通し |
東京ー熊谷 | 1,970 | 2,080 |
上野ー熊谷 | 1,760 | 1,870 |
大宮ー本庄早稲田 | 1,760 | 1,870 |
大宮ー高崎 | 1,760 | 1,870 |
東海道・山陽新幹線系統
東海道新幹線には駅間距離が長い区間があり、その区間を含む新幹線自由席特急券の値段が高額です。その場合、新幹線特定特急券を分割購入し、併用するのが効果的です。
自由席【通年】 | 分割 | 通し | 備考 |
三島ー掛川 | 1,860 | 2,530 | |
新富士ー浜松 | 1,860 | 2,530 | |
三島ー浜松 | 1,980 | 2,530 | 静岡駅で分割 |
静岡ー豊橋 | 1,860 | 2,530 | |
浜松ー名古屋 | 1,860 | 2,530 | |
豊橋ー岐阜羽島 | 1,860 | 2,530 | |
岐阜羽島ー京都 | 1,860 | 2,530 | |
米原ー新大阪 | 1,860 | 2,530 | |
三原ー新岩国 | 1,860 | 2,530 | |
徳山ー新下関 | 1,860 | 2,530 |
特急券併用のデメリット~明確なルールがなくトラブルの可能性も~
新幹線特定特急券を併用することはいいことづくめに思えますが、デメリットもいくつかあります。ここでしっかりと検討しておきたいと思います。
● 紙のきっぷを用意する手間がかかる
特急券を分割する以上、各区間の特急券を紙のきっぷとしてあらかじめ用意する必要があります。乗車券もまた同じです。
きっぷを買わずに乗れるチケットレス乗車が普及しつつある中、旅費をいくらか節約するために手間をかけられるか、と思う人が多くいるかもしれません。
● きっぷを買う過程で難がある
きっぷの併用に関して明確なルールが存在しないため、駅員によって取り扱いに差が生じ、きっぷを買えたり買えなかったりという事態が予想できます。
禁止するルールがないから売ってもいいじゃないかと主張する乗客と、不公平だから変則的な売り方はできないと防御する駅員との間でトラブルが発生しそうな感じです。
ネット予約サービスや指定席券売機を活用できれば、駅員との悶着なくきっぷを購入できます。しかし、相応の知識やスキルが要求され、誰しもこなせるものではありません。
● 自動改札から出場できない
新幹線の自動改札を通る時、乗車券と1枚目の特急券を自動改札機に通します。目的地の駅で出場する場合、2枚目の特急券が入鋏されていないため、自動改札を通れません。有人改札を通る必要があり、時に時間がかかります。
筆者が体験した時には出場時に何も言われませんでしたが、知識が不十分な駅員だと併用をとがめる可能性があります。
● 払戻手数料が高くなる
きっぷを分割して買う以上、手にするきっぷの枚数は当然多くなります。予定通り乗車できれば問題ありませんが、旅行をキャンセルする場合に特急券の枚数分だけ払戻手数料がかかります。
キャンセルが絡む場合、きっぷを分割購入することは、きっぷを通しで買うよりもリスクが高いことを覚えておきたいです。
まとめ~筆者の問題提起~
新幹線の自由席を近距離で利用する際、きっぷの買い方次第で特急料金を節約できることを、本記事で学べたかと思います。
特急券を通しで購入するよりも分割購入したほうが料金が安くなるのは、個人的には不合理であると考えます。きっぷの区間を分割できることを知らない人が大多数である以上、彼らに節約のチャンスがないことは不公平だからです。
本来は[通しの新幹線自由席特急券の金額=分割した新幹線特定特急券の合計額]となるよう、通しの新幹線自由席特急料金の値段が調整されるべきではないでしょうか。
JR某社にこの件を意見出ししてみましたが、是正するつもりはないとのこと。特急券の併用自体は特に問題ないとの見解でした。
紙のきっぷを用意する手間をいとわない人にとっては、きっぷの買い方を工夫して生活防衛するのもアリです。
グレーゾーンな部分があるワザなので、両手を挙げて万人におススメできるわけではありません。メリットがある分だけデメリットもあるきっぷの買い方だけに、注意深く活用していただきたいです。
実践する際は、必ず連続する区間の特急券を購入してください。万が一途中区間が抜けていると不正乗車になり、多大なペナルティを負わされることになります。くれぐれも注意してください。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
Appendix:新幹線運行系統別の料金三角表
● 東海道新幹線
● 山陽新幹線
● 東北新幹線
● 上越新幹線
● 北陸新幹線
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第57条(急行券の発売)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則125条1号(ニ)
改訂履歴 Revision History
2024年5月05日:初稿 修正
2024年02月04日:初稿 修正
2024年01月16日:初稿
2023年6月15日:原文作成
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