特急料金と運賃あわせて330円で新幹線のミニトリップができる、JR西日本の「博多南線」。博多駅(福岡市博多区)から博多南駅(福岡県春日市)までの8.5kmの区間を、わずか8分で走ります。
博多南駅は、九州新幹線の線路の脇にある車両基地(博多総合車両所)の西端に位置します。福岡県春日市と福岡県那珂川市の境にあり、もっぱら那珂川市民の日常の足としての役割を担っています。
博多南線の開業は1990年で、九州新幹線の開業よりもずっと前です。そんな関係もあって、博多南線の運行会社はJR九州ではなく、JR西日本です。また、新幹線の線路を走るにもかかわらず在来線特急列車の扱いと、不思議な感じがします。
博多南線の特殊さは、初めて乗車してみるとよく体感できます。特に、博多南線に乗車するためのきっぷを買ってみると、よく分かるのではないかと思います。
博多南線では交通系ICカードが使えないので、必ず紙のきっぷを買います。ただし、そのきっぷはネットでは申し込めないため、基本的には現地の券売機で買います。
この記事では、博多南線がどこを走るどんな路線か、立ち位置の特殊さをお話しします。そして、そのことがよく現れている、博多南線のきっぷの買い方を説明し、具体的にどのようなきっぷを手にするか深掘りしていきます。
- 博多南線を走る列車はすべて在来線特急列車扱いであること
- 博多南線では交通系ICカードを使えないこと
- ネット予約サービスでは博多南線のきっぷを購入できないこと
「博多南線」とは
山陽新幹線が1975年に博多駅まで全線開業した際に、博多駅の先に車両基地(博多総合車両所)があわせて設けられました。博多駅から博多総合車両所までは回送列車が走っています。
この区間に営業列車を走らせてほしいという地元の要望に応える形で、車両所の西端に博多南駅が設置されました。これは1990年のことで、回送線を所有しているJR西日本がそれ以来営業列車を運行しています(開業当初は博多南駅の駅務をJR九州に委託)。
博多南駅の開業当時、九州新幹線の開業はまだでした。新幹線としての法的要件を満たさなかったために、在来線の「博多南線」として営業する形になりました。新幹線のようで新幹線ではないというわけで、これが博多南線を不思議に感じるゆえんだと思います。
博多南駅は、福岡県春日市と福岡県那珂川市の境界に位置しています。春日市街と博多南駅の間に車両基地が挟まるため、利便性が良いのは那珂川市側です。那珂川市からの通勤や日常生活に利用されるのが、博多南線です。
那珂川市や春日市西部には目立った観光施設や大学がないため、博多南駅を訪問する外来者よりは地元市民の利用のほうが圧倒的に多い路線といえます。つまり、観光のためにわざわざ訪れる場所ではないということです。
運行ダイヤも、典型的な通勤・通学路線のパターンです。朝夕の通勤・通学時間帯には列車の運行本数が多い反面、日中時間帯は1時間に1本の運行です。
というわけで、地味な生活路線である博多南線をわざわざ訪問するのは、新幹線の設備をもつ博多南線が在来線として運行されている特殊さに価値を見出せる鉄オタくらいかなと思います。
博多南駅を訪問!
筆者が初めて博多南駅を訪問したのは、博多南駅が開業した翌年の1991年7月でした。そして、2024年5月に再訪する機会があり、博多南線に乗車して博多南駅を訪れました。
博多南線は料金体系やきっぷの買い方が独特ですが、そのお話をする前に博多南駅への乗車体験をご紹介しようと思います。
朝早い時間帯に、博多駅から博多南駅までの区間を往復しました。
博多駅の新幹線改札口を入ると、目立たない場所に博多南線の発車案内標があります。博多南線のことを知っている人でないと、まず見逃してしまうと思います。
博多南駅ゆきの列車が発車するホームへ。列車がホームを間借りするようにひっそりと停車していました。ホームにある発車案内標にも、博多南駅ゆきの表示がひっそりと。
乗車した列車は、700系の「ひかりレールスター」車両。東海道新幹線からはずっと前に消えた700系車両が、まだまだ活躍しています。
筆者が向かったのが、列車の進行方向前側の1号車です。1号車から3号車までは、自由席用の5列シートです。
後述しますが、博多南駅の改札口は最後尾の8号車に最も近いです。その上、8号車寄りの座席が4列シートで快適なため、5列シートの1号車寄りには乗客がやってこないで空いています。
座席の向きは、博多南駅ゆきでは進行方向に向いていますが、博多駅ゆきでは逆向きになっています。
列車が出発してから市街地を走り、博多南駅に着く前に側線に入って、博多南駅に到着。博多駅からわずか8分間のミニトリップでした。
博多南駅の入口は、那珂川市側に向いています。駅舎に隣接する駅ビル「ナカイチ」の運営は、那珂川市が関与しています。
博多南駅の改札口。新幹線駅のスペックはあるもののこじんまりとしていて、地元向けの地味な感じです。
後述しますが、博多南線では交通系ICカードが使用できません。自動改札機にはICカードリーダーが付いていなく、紙のきっぷしか受け付けません。
博多南駅に掲示されている時刻表。市販されている時刻表やデジタル時刻表に載っていない情報として、列車の行き先が書いてあります。博多駅ゆきのみならず、山陽新幹線直通列車が多くあるのが意外です。
1日に1本だけ走るN700系車両~グリーン車に乗車可能~
博多南線を走る列車は、ほとんどがお古の500系車両か700系車両のいずれかです。しかし、1日1本だけ、九州新幹線直通用N700系車両が充当される珍しい運用があります。
博多南駅を9時17分に発車する、列車番号「772A」という列車があります。博多南駅から博多駅までは博多南線の在来線特急列車として走り、続いて山陽新幹線「こだま」772号として新下関まで走ります。
この列車は、グリーン車を含め、全車自由席です。えきねっとの検索結果には、こだま772号の普通車自由席しか表示されませんが、実はグリーン車の設備も利用できます。
この列車のグリーン車に乗車するためのグリーン券は、車内で車掌さんから買うか、博多南駅のみどりの窓口で買います。グリーン車の設備がマルスに収容されてなく、検索結果に出てこないし、ましてグリーン券を端末券として出せないわけです。
ちなみに、こだま772号として新下関駅まで走った後、折り返して九州新幹線熊本駅ゆき「つばめ」321号として運行します。ネット予約の検索結果には、グリーン車もしっかりと表示されています。
博多南線の運賃・料金
博多南線を走る列車は、すべて在来線特急列車です。乗車するには、乗車券の他に特急券を購入する必要があります。博多南線には指定席はなく、全車普通車自由席です。そのため、特急券は自由席の「特定特急券」です。
- 普通乗車券:片道200円
- 特定特急券:片道130円
- グリーン券:片道1,300円
普通車自由席に乗車するための運賃・料金の合計は、大人330円です。博多南線開業時から30年以上にわたって特定特急券の値段が100円から変わりませんでしたが、2023年3月についに値上げされました。
前述した通り、朝9時17分発の新下関ゆき772A列車(博多駅からこだま772号)の1本だけグリーン車を例外的に利用できます。グリーン車に乗車するには、グリーン料金1,300円が別にかかります。
ネット予約ではきっぷを買えない
博多南線のきっぷについては、ネット予約サービスでは購入できません。ネット予約に誘導しているご時世にしては、とても珍しいです。博多南線の列車がグリーン車を含め、すべて自由席なのがその理由ではないかと思います。
JR西日本のネット予約「e5489」では、博多南駅を入力した時点で、そもそもはねられてしまいます。
JR東日本のネット予約「えきねっと」でも同様で、経路検索結果から予約画面に進むことができません。
JR線のきっぷは一応全国のJR駅で買えることになっていますが、博多南線のきっぷについてはこの通り例外的です。したがって、他駅窓口で売ってくれるかはケースバイケースだと思います。現地の券売機でしか購入できないと考えるのが無難でしょう。
博多南線の各駅で購入した紙のきっぷ
先ほど申し上げた通り、博多南駅では交通系ICカードを使用できません。したがって、博多南線の列車に乗車する際には、紙のきっぷを買う必要があります。チケットレス化から取り残されているような感じです。
博多駅では、JR西日本側の「みどりの券売機」か、JR九州側の近距離券売機のいずれかで購入します。
JR九州博多駅 近距離券売機
博多南駅のボタンが見つけにくいです。九州内特急/新幹線の画面の中にボタンがあり、乗車券と特定特急券の両方もしくは一方を購入できます。乗車券と特定特急券が必要なのに、片方だけ買えるのが不思議です。
この券売機で購入した博多南線のきっぷ。乗車券、特定特急券とも、エドモンソン券より大きいマルス券と同じサイズです。
JR西日本博多駅「みどりの券売機」
JR西日本側には近距離券売機がないので、指定席券売機「みどりの券売機」を利用してきっぷを買います。
乗車券と特定特急券をセットで買いますが、特急券のみ買うこともできます。しかし、乗車券だけを券売機で購入できないので、要注意です。
みどりの券売機で購入した特定特急券。マルス券なので、どの駅で買っても同じ様式です。
乗車券だけを券売機で買えなかったので、窓口に並んで購入。博多南駅発着に関しては、乗車券と特定特急券が一葉になることはなく、別々の券片になります。
博多南駅で購入した博多南線のきっぷ
博多南駅にはみどりの窓口の他、近距離券売機が設置されていています。みどりの券売機が設置されていないので、近距離券売機で博多南線のきっぷを購入します。
近距離券売機では、乗車券だけを買うことができません。各駅の運賃に特定特急券の130円が加算された金額が表示されています。特定特急券代込みの金額表示は、利用し慣れていないとわかりにくいです。
出てきたきっぷは、エドモンソン券が2枚でした。最終目的地までの乗車券と博多駅までの特定特急券が、それぞれ別の券片として発券されるわけです。
グリーン車に乗車する場合、グリーン券をみどりの窓口で購入します。博多南線のグリーン券がマルス端末から発券できないため、手売り対応になります。列車が発車する前の、朝8時から9時までの時間帯でないと買えないと思います。
これは、1991年に博多南駅を訪問した際に購入したきっぷです。JR九州の博多南旅セ発行で、乗車券と特定特急券が一葉になったD型硬券です。着駅の博多駅ではこのきっぷの持ち帰りを渋られて、困った記憶があります。博多南駅の出札業務は、後にJR西日本に移管されています。
まとめ
福岡市近郊を走るJR西日本の在来線「博多南線」。九州の中でJR九州が運行しない珍しい路線の上、車両や設備が新幹線と極めつきです。
博多南線の列車はすべて在来線特急列車として走るため、乗車券の他に特定特急券が必要です。それでも、片道330円で8分間の新幹線乗車体験を味わえます。
福岡県那珂川市や春日市西部の住民のための生活路線で、訪問者のための目立ったスポットが特にないため、観光路線とはいえません。そんなこともあって広く知られた路線ではなく、知る人ぞ知る存在といえます。
ほとんどの列車が普通車自由席の設備だけですが、1日に1本だけ、グリーン車の設備が付いた列車が走っています。
地元の生活路線で全車自由席という特性があるためか、ネット予約サービスでは博多南線のきっぷを買えません。また、交通系ICカードが使えないため、必ず紙のきっぷを購入する必要があります。そのきっぷを買えるのは、基本的には現地にある券売機に限られます。
福岡市を訪問する機会があったら、博多南線のミニトリップを体験してみてはいかがでしょうか。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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2024年5月29日:当サイト初稿(リニューアル)
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