指定席券売機で一部の近距離乗車券が買えなくなった件を考察~他乗代の利便性と問題点を探る~

上野駅ラッチ内きっぷうりば 運賃制度

きっぷを買う際に重宝する、駅の指定席券売機。

指定券や特急券はもちろんのこと、乗車券だけでも購入できます。指定席券売機の使い方をマスターすると、みどりの窓口の行列や待ち時間を回避できて、実に便利です。

しかし、2023年9月になってから、JR東日本管内の指定席券売機で異変が生じました。

一定の条件で乗車券を購入しようとすると、操作を先に進められない場合が生じました。ユーザーが自在に操作できる点の裏をかかれた対策として、一部の乗車券について発売が制限されたわけです。

指定席券売機では、一部の他駅発乗車券が購入できなくなりました(有人窓口であれば当該乗車券を購入できます)。指定席券売機を適切に使用しないと、結果的にユーザーに不利益が生じます。節度ある利用を心がけたいです。

この記事では、JR東日本管内の指定席券売機において、どのような乗車券の発売が制限されたか、エンドユーザーとして得た情報を、支障がない範囲で共有します。

この記事を読むと分かること
  • JR東日本管内の指定席券売機で一部の乗車券の発売に制限がかかったこと
  • 他駅発乗車券(他乗代)に限った制限であり、自駅発着には影響がないこと
  • JR西日本管内のみどりの券売機についても同じような制限があること

今回本記事を投稿したのは、注意喚起をしたいという意図があります。調査結果が結果なだけに、詳細な情報の開示には慎重にならざるを得ない点をご理解いただきたいです。

JR東日本全駅における指定席券売機での発売制限

2023年9月以降、JR東日本管内のすべての指定席券売機にて、他駅発となる普通乗車券の発売(「他乗代」と言います)が一部制限されました。

筆者が指定席券売機にて乗車券を購入する場合、自駅発となることがほとんどです。そのため、、他駅発のものは普段あまり買いません。それでうっかりしていて、今回の出来事にすぐには気付きませんでした。ふとした瞬間に、SNSの投稿を見て初めて知り、その真偽を早速確認しました。

NOTE

上記ポストには「500円以下」とありますが、筆者が確認した結果「概ね500円前後」となります。ポストの内容自体は、筆者が確認した結果と相違ありません。

一例として、上野駅から大宮駅ゆきの新幹線のきっぷを購入してみました(営業キロ26.7km/普通片道運賃490円)。

指定席券売機操作画面

この場合、指定席券売機の「乗換案内から購入」メニューを使用します。発駅名、着駅名および日にちを入力し[検索]を押します。

この際のポイントは、指定席券売機を操作した駅が発駅の上野駅ではなく、他の某駅である点です。

指定席券売機操作画面

今回は「新幹線を利用する」ことで検索をかけたので、結果には新幹線の経路のみ表示されました。

指定席券売機操作画面

本来は、特急券をすでに持っている場合を想定し、乗車券のみを購入できます。しかし、乗車券のみでは購入できなくなっていました。ちなみに、特急券のみを購入することは可能です。

指定席券売機の乗車券メニューから、同じ内容の乗車券を購入しようとしました。その際、着駅名を入力して次の画面に進もうとした時に、画面がいきなり中断して異変に気付きました。

新幹線を利用するか否かに関係なく、乗車券の購入が制限されていることが分かります。

この現象が発生した原因は、指定席券売機が故障したわけではありません。発売制限がかかっているために、このような挙動が起こったことを覚えておきたいです。

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青天の霹靂だった乗車券の厳しい発売制限

JR東日本管内に限らず、JR各社の駅に設置された指定席券売機。JR西日本管内では「みどりの券売機」と、愛称で呼ばれています。

その指定席券売機では、近距離きっぷに限らず、日本全国のJR線を走る列車の指定券を購入できます。券売機が設置された自駅発に限らず、他駅発の乗車券類を指定席券売機で購入できるのが、その大きな特性です。

そして、指定席券売機では指定券や特急券のみならず、普通乗車券や定期券も購入できます。それらのきっぷのうち、普通乗車券の発売に問題が生じ、JR東日本管内にあるすべての指定席券売機にて、一部の普通乗車券の発売が制限されました。

みどりの券売機操作画面

ちなみに、JR西日本管内にある「みどりの券売機」では、他駅発の乗車券は距離に関係なく購入できません(乗車券のみで買おうとした場合)。JR西日本のお話でしょ、と思っていたらJR東日本でも、ということで、まさに青天の霹靂でした。

ユーザーの自己操作で身元が特定されず監視なく、多種多様なきっぷを自在に購入できてしまうのが、指定席券売機の裏の側面です。結論から申し上げると、その特性の裏をかかれる形できっぷが不適切に購入され、意図せずに使用されたことで、今回の発売制限につながった模様です。言い換えると、収入の取りこぼしを防ぐということでしょうか。

これまでも、今回の事象とは関係ないところで指定席券売機が悪用されたケースがありました。ネット予約サービス「えきねっと」で購入した乗車券類をQRコードのみで受け取れるのが、JR東日本管内の指定席券売機の特性です。その特性を悪用した事件が摘発されたことが、以前報道されました。

残念なことですが、監視が十分に及ばない指定席券売機は、時に不正の温床になってしまいます。

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他駅発のきっぷを買える指定席券売機

いま申し上げたように、指定席券売機が設置された自駅発の乗車券類のみならず、他駅発の乗車券類もユーザーの操作によって自在に購入可能です。指定券や特急券を購入するためには、欠かせない機能です。

また、昨今みどりの窓口の閉鎖が相次ぎ、指定席券売機に置き換わることが増えていることから、本来あらゆるきっぷが購入できないと困ります。そのようなことから、多様な乗車券類を購入できる指定席券売機の特性が、残念ながら盲点にもなります。

それでは、上述した事例とは別の区間にて、指定席券売機の挙動を確認したいと思います。

指定席券売機操作画面

別の例として、東京駅から大宮駅ゆきの新幹線のきっぷを購入してみました(営業キロ30.3km/普通運賃580円)。指定席券売機の「乗換案内から購入」メニューにて、発駅名、着駅名および日にちを入力し[検索]を押します。

このケースにおいても、指定席券売機を操作した駅は、発駅の東京駅ではありません。

指定席券売機操作画面

今回も「新幹線を利用する」ことで検索をかけたので、結果には新幹線の経路のみ表示されました。

指定席券売機操作画面

今回は、乗車券のみでも購入が可能です。無条件に発売を制限しているわけではなく、制限をかける一定の基準があるようです。

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乗車券の発売制限が問題とならないか~法的根拠~

これまでみてきた通り、一定の距離もしくは金額以下の他駅発普通乗車券を単独で購入しようとした際、操作が中断されたりボタンを押せなくなっていて、発売が制限されていることに気が付くはずです。

このように、ユーザーにとって利便性が犠牲となる結果ですが、問題はないのでしょうか。ここでは、鉄道の運送約款である「旅客営業規則」から、法的根拠を探っていきましょう。

乗客が運送(列車への乗車)を申し込み、駅の係員がそれを承諾し、代金の決済が済んでからきっぷを交付するというのが、きっぷを買う際の法的根拠です。乗客と鉄道会社の両者の合意があって、運送契約が成立するというわけです。

この裏付けとして、旅客営業規則第5条には次のような条文があります。

旅客の運送等の契約は、その成立について別段の意思表示があつた場合を除き、旅客等が所定の運賃・料金を支払い、乗車券類等その契約に関する証票の交付を受けた時に成立する。

鉄道会社は民間企業であることから、乗客との関係は私人間であり、私的自治の原則=契約締結の自由があります。つまり、他に規定がない限りにおいては、契約が成立しないこと=きっぷの不売は、必ずしも違法ではないと言えます。

今回のトピックである乗車券の発売制限については、旅客営業規則第6条第1項に規定があります。

旅客の運送等の円滑な遂行を確保するため必要があるときは、次の各号に掲げる制限又は停止をすることがある。

(1) 乗車券類及び入場券等の発売駅・発売枚数・発売時間・発売方法の制限又は発売の停止(以下省略)

今回、発売制限について告知しないで、いきなり行っていることには問題があるとはいえ、発売制限自体は問題がないことになります。

乗車券類の発売範囲については、旅客営業規則第20条に規定されています。

駅において発売する乗車券類は、その駅から有効なものに限つて発売する。ただし、次の各号に掲げる場合は、他駅から有効な乗車券類を発売することがある。

(1) 指定券と同時に使用する普通乗車券を発売する場合。(以下省略)

他駅発となる乗車券類については、原則的に不売であることが規則上明らかです。そのため、今回駅の指定席券売機にて発売制限が行われていることについては、規程に沿った措置であるといえます。つまり、今回のJR東日本側の対応は、法的根拠上全く問題がないことになります。

旅客営業規則は運送約款であるため、鉄道会社が提示した規程に乗客が無条件に同意してきっぷを買う形です。したがって、不服があるならばきっぷを買わないでください(列車に乗車しないでください)と鉄道会社が主張することが可能です。ただし、これはあくまでも約款上のお話しで、鉄道会社がこのことを実際に発言したら大炎上ものでしょう。

NOTE

有効な乗車券(通学定期券を除く)を持っている場合、その乗車券の区間と接続する区間の別の乗車券について、他乗代であっても発売することがあるとされています。例えば、[名古屋市内から東京都区内ゆき]の普通乗車券を持っている場合、[赤羽駅から川口駅ゆき]の別の普通乗車券を赤羽駅以外の駅でも規則上は発売してもらえると考えます。指定席券売機で購入できない場合、有人窓口(みどりの窓口)にて発売してもらえます。【根拠条文:旅客営業規則第20条第1項第2号】

それでも発売制限してもいいのか ~不売の理由を探る~

上野駅ラッチ内きっぷうりば

きっぷの発売制限を行う背景や法的根拠が至って正当であっても、ユーザーにとっては利便性が犠牲になります。みどりの窓口の相次ぐ閉鎖など、近年ユーザーが不利益を被る事象が多く、本当にそれでもいいのかという問題意識を持っていました。この機会を利用して、当事者であるJR東日本にピンポイントで照会しました。

いただいた回答をそのまま公開できないため、要旨のみを共有したいと思います。

● きっぷを発行するコスト

指定席券売機にて発券される乗車券はマルスを経由することから、マルス券にかかるコストが一因ではないかと指摘しましたが、今回は関係ない模様です。

● きっぷの分割による収入の取りこぼし阻止

JR東日本からいただいた回答から、これが発売制限の理由の一つであることが推察できます。JR東日本管内には「特定区間」という運賃が低額に設定されている区間がいくつかあります。その周辺の区間で複数の乗車券を併用することで、通しの乗車券を購入するよりも低額になります。鉄道会社にとっては収入確保の機会逸失となるため、その手を封じたのではないかと考えます。

この点は昔から問題とされていたので、実は今更感があります。昨今の鉄道会社の経営が厳しい現れで、細かな部分にまで見直しをかけて締め付けを図っているのかと。

● きっぷの併用を抑止する

上記と似た内容ですが、これも発売制限の一因です。他駅発の近距離乗車券については、いかなることがあっても今後絶対に発売しないという決意表明が、回答から感じ取れました。

ちなみに、旅客営業規則にはきっぷの併用を禁止したり、運賃・料金の金額を調整する規定は一切ないため、ルール上きっぷの併用自体は全く問題ありません。今回は、そんなきっぷを売るのは嫌よ、とJR東日本が言っているだけです。

● 不正乗車対策【主因】

回答のごく一部を抜粋すると「最終目的地まで有効な乗車券類をご購入いただくことをご案内しているため」ということですが、この文言は(JR東日本に限らず)不正乗車が絡む際の鉄道会社の常套句です。

そのため、今回の発売制限の背景には、JRが不正乗車の被害を被っていることへの対策があると読み取れます。不正乗車の具体的な手口をネットで公表している他の鉄道会社もありますが、当記事では引用を控えます。

不正乗車がその背景にあるとしたら、鉄道会社の諸々の対策もやむなしとなり、受け入れざるを得ません。

ユーザーが取れる防衛策

このように、鉄道会社側が当然にきっぷの発売制限をかけてくるわけですが、それ自体は正当なことです。しかし、不正利用とは関係のない大部分のユーザーにとって、迷惑で不利益なことには違いありません。ここでは、善良なユーザーとしてどのような防衛ができるか、少し考えたいと思います。

JR東日本の要請を鵜呑みにしない

上述したJR東日本からの回答の中では、次のことが要請されています。

  • フリーきっぷなどの有効区間の境界駅では一度下車してきっぷを買い直す
  • 無人駅から乗車する場合、乗車駅証明書を取って乗車し下車駅で現金精算する

乗車前にあらかじめ必要なきっぷを購入するという前提が否定される形です。ユーザー目線ではかなり無茶な要請であり、強引さが感じられます

前述した通り、有効な乗車券を持っている場合には、当該乗車券の区間と連続する別の乗車券を他駅であっても発売する旨の規定があります(旅客営業規則第20条第1項第2号)。その一例として、フリーきっぷの境界駅発の別の乗車券を、規則上はどの駅でも求めることができます。したがって、上記箇条書きの1番目の要請については規則上矛盾しており、一度下車してくださいという要請を強制できないことになります。

ネット予約サービスの活用

一方で、ネット予約サービス「えきねっと」では、任意のJR駅発の乗車券を依然として購入可能です。ネットできっぷを申し込み、購入することが、根本的な防衛策となります。

えきねっとにおける乗車券類の発売範囲については、公表されていません。その上、駅において発売するわけではないため、旅客営業規則による発売制限をそのまま適用できず、別の規定が必要なことになります。

えきねっとでは、乗車券類の発売制限がかからないと予測します。ただし、あくまでも不正なく適切に利用されることが前提ではないでしょうか。

JR東日本にとっても、会社の経営が厳しいことは十分に理解できます。しかし、乗車券が買えなくなることは、善良なユーザーにとっては不利益です。尻ぬぐいをユーザーにさせてはいけませんね。

まとめ ~指定席券売機の適切な利用が求められる~

大宮駅構内

2023年9月、JR東日本管内にある指定席券売機において、他駅発の近距離乗車券の一部が突然購入できなくなりました。

その主因は、不正乗車対策です。無人駅発の乗車券を指定席券売機で購入し、悪用されていると聞きます。

一方、経営が厳しい鉄道会社の収入確保も一因です。乗車券の分割購入や併用はユーザーにとって利益があるものですが、一方で鉄道会社には収入の取りこぼしになります。

乗車券類の不売については旅客営業規則に規定されていて、法的にはなんら問題がありません。ただし、不売とできない例外もあるので、時によっては理論武装が必要です。

また、法的に問題ないからと言っても、正論として不売をごり押ししてしまうと、ユーザーからの反発は必至でしょう。

ユーザーにとって利便性が確保され、鉄道会社にとっては人件費の節減に役立つ指定席券売機の展開は、双方にとって利益になるはずです。しかし、指定席券売機を不適切に使用されうることは、誰もが意図することがなかった盲点です。

ユーザー本位の施策を講じて持続的な運営を続けるか、鉄道会社の刹那的な利益を優先するあまりユーザーからそっぽを向かれ炎上するか、難しい舵取りがJR東日本には迫られています。

まずは、指定席券売機やきっぷの不正使用がないことを願う次第です。この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料 References

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第5条(契約の成立時期及び適用規定)

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第6条(旅客の運送等の制限又は停止)

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第20条(乗車券類の発売範囲)

当記事の改訂履歴 Revision History

2024年7月30日:当サイト初稿(リニューアル)

2023年9月19日:前サイト初稿

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