日本列島の大動脈、名古屋市と大阪市を結ぶ列車には、東海道新幹線と近鉄特急があります。長い間、両者は覇権を争ってきました。所要時間では新幹線にどうしても及ばないゆえ、サービス面で努力してきたのが近鉄の名阪特急といえましょう。
そんな中、近鉄は近鉄名古屋駅から大阪難波駅までの区間を走る新型特急列車「ひのとり」号を、2020年3月に投入しました。途中の駅にはほとんど停車せず、近鉄線内をひた走ります。車内設備も豪華で、全席シェル型シートで快適に移動できます。
同じく近鉄線内を走る観光特急列車「しまかぜ」号で利用できる豪華なプレミアムシートの快適さを、名阪特急の「ひのとり」号でも体験できるようになりました。
レギュラー車両とプレミアム車両の料金差が少ないので、プレミアム車両を試していただきたいです。座席数が少ないので、予約はお早めにどうぞ。
この記事では、名古屋と大阪を結ぶ近鉄特急「ひのとり」号について、料金や座席の種類といった概要、指定券の買い方を実務的な角度からご説明します。そして、筆者がプレミアムシートを全区間で利用し、至福の移動時間を満喫した体験を共有できればと思います。
- レギュラーシートの他にプレミアムシートがあり、わずか700円差であること
- ひのとり号の料金が思ったよりもリーズナブルであること
- 車内販売がない代わりカフェスペースでコーヒーやお菓子を買えること
特急「ひのとり」号とは ~列車の概要・設備~
近鉄線の近鉄名古屋駅から大阪難波駅までの区間では、名阪特急として長年「アーバンライナー」号が走っていました。その後継として、2020年3月に新型車両で走る「ひのとり」号がデビューしました。
列車のコンセプトは「くつろぎのアップグレード」で、全席シェル型シートに座って至福の時間を満喫できます。快適性は、東海道新幹線にひけを取りません。
そんな快適な特急列車の名称「ひのとり」は、大きな翼を広げて飛翔する「ひのとり」に合わせて名づけられました。手塚治虫作アニメ「火の鳥」のイメージが、列車にも展開された形だと思います。
列車の本数・停車駅・所要時間
「ひのとり」号に充当されるのは80000系車両で、6両編成と8両編成あわせて11編成あります。「ひのとり」号を含む名阪特急の速達列車にはこの車両が充当されていて、乗車できるチャンスが多いです。
近鉄名古屋駅発大阪難波駅ゆきの「ひのとり」号は、朝7時から夜21時までの毎時00分発です。逆方向の大阪難波駅発近鉄名古屋駅ゆきは、朝6時から夜21時までの毎時00分発です。1時間に1本走っていて、とても利用しやすい列車です。
近鉄特急「ひのとり」号の列車名は、他の鉄道会社のような「●●●」●●号ではなく、「ひのとり」●●列車という表記です。
近鉄名古屋駅と大阪難波駅の間の途中の停車駅は、津駅(三重県津市)、鶴橋駅、大阪上本町駅のみで、列車によって大和八木駅(奈良県橿原市)にも停車します。途中駅にはほとんど停車せずに疾走する速達列車で、名実とも「ひのとり」といえるでしょう。
全区間の所要時間は、2時間強です。快適な車内で過ごす2時間が、あっという間に感じられます。
座席の設備
「くつろぎのアップグレード」と謳うだけあって、快適な近鉄特急の中にあっても、全車特別車両というのがすごいです。「ひのとり」号の座席には以下の2グレードあり、いずれもバックシェル型の座席です。列車の座席が全席バックシェル型というのは、日本でも数少ないです。
● プレミアムシート
「ひのとり」号の先頭・後尾車両にあるのが「プレミアム車両」で、各編成に2両付いています。伊勢志摩特急「しまかぜ」号のプレミアムシートと同等の設備で、電動の本革3列シートです。シートピッチが130cmと、JRのグリーン車並みの広さです。
プレミアム車両からは運転席を通して、前面の展望を楽しめます。大阪難波駅ゆき列車では、6号車/8号車の1番A・B・C席が最前列の席です。近鉄名古屋駅ゆき列車では、1号車の7番A・B・C席が最前列の席です。最良席であることはいうまでもないので、早いタイミングで予約したいです。
● レギュラーシート
「ひのとり」号の中間車両にあるのが「レギュラー車両」です。6両編成の列車には4両、8両編成の列車には6両付いています。レギュラーシートといっても座席の造りはバックシェル型で、前席が気になりません。4列シートですが、特別車両の座席に違いありません。
移動に特化した名阪特急ということもあるのか、個室設備はなく、車内販売やカフェテリアもありません。次世代の快適さを担保しながらも、サービスは至ってシンプルといえます。
特急「ひのとり」号と東海道新幹線の料金比較
ここでは、設備が豪華な名阪特急「ひのとり」号に乗車するための運賃・料金をみていきます。ライバルである東海道新幹線の運賃・料金と比較したいと思います。
「ひのとり」号の運賃・料金
列車の設備には、プレミアム車両とレギュラー車両の2グレードがあると申し上げましたが、いずれも特別車両の特急列車です。したがって、運賃の他に特急料金・特別車両料金がかかります(全車指定席)。近鉄特急にはシーズナリティによる料金の差はなく、通年同じ値段です。
ここでは、近鉄名古屋駅から大阪難波駅の全区間を乗車する場合の値段で考えます(特別車両券含め、小児は半額)。
● プレミアム車両(ひのとりプレミアム)
料金:特急料金1,930円+特別車両料金900円=2,830円
運賃:2,860円
合計:5,690円
● レギュラー車両(ひのとりレギュラー)
料金:特急料金1,930円+特別車両料金200円=2,130円
運賃:2,860円
合計:4,990円
レギュラーシートで5,000円をぎりぎり切る値段です。レギュラーシートとプレミアムシートの差額は、実は700円しかありません。おねだん以上に快適性に差があるので、プレミアムシートは早い者勝ちといえます。
すでに申し上げましたが、ひのとり号の所要時間は、2時間強です。値段自体は比較的リーズナブルですが、時間がそれなりにかかることを考慮すべきでしょう。
東海道新幹線の運賃・料金
JR東海道新幹線の名古屋駅から新大阪駅までの運賃・料金をみていきます。本記事では、普通車指定席とグリーン席の値段をあげます。
JRの料金はシーズナリティによって値段が上下します。普通車指定席だけではなく、グリーン席にも[最繁忙期/繁忙期/通常期/閑散期]の区分が適用されます。
● 「のぞみ」号グリーン車【通常期】
料金:特急料金2,740円+グリーン料金2,800円=5,540円
運賃:3,410円
合計:8,950円
● 「のぞみ」号普通車指定席【通常期】
料金:3,270円
運賃:3,410円
合計:6,680円
際立った割引料金がない東海道新幹線において、名阪間の料金もそれなりに高額です。所要時間約50分という速さにかかる対価といえます。
結局どちらがおトクか
近鉄特急「ひのとり」号と東海道新幹線の値段を比較しましたが、どちらがおトクということは一概に断言できません。名阪間の鉄道運賃・料金は、所要時間に比例するかと思います。
所要時間の短さにより多くの対価を支払うか、所要時間が犠牲になっても安く済ませるかは、人それぞれの価値観によるでしょう。
一つ言えるのは、「ひのとり」号の至福の快適時間を、思ったよりもリーズナブルな値段で味わえることだと思います。
「ひのとり」号の指定券の買い方 ~ネット予約・旅行会社をうまく活用~
「ひのとり」号は、全車指定席の特急列車です。乗車する前に、乗車券の他に特急券・特別車両券を準備します(特急券・特別車両券はセットで発売)。
1時間ごとに運行する比較的本数の多い列車なので、列車の予約が困難ということはないと思います。観光性の列車ではないため、年間の繁閑差はそれほどではないでしょう。
ただし、プレミアム車両の定員が2両でわずか42席で、料金もレギュラー車両よりも700円高いだけです。プレミアム車両の座席は早い者勝ちに違いないので、できれば乗車1か月前に予約購入できると安心かと思います。
特急券の発売開始時期:いつ買うか
近鉄特急の特急券の発売開始は、乗車1か月前の午前10時30分からです。駅窓口でもネットでも同時刻です。
プレミアム車両の値段がリーズナブルな割に座席数が少ないので、人気です。予定が立ったらなるべく早く予約購入したいです。
特急券を購入できる箇所:どこで買うか
特急券は、以下の手段で購入できます。
● 近鉄線の有人駅窓口で購入
近鉄沿線にお住まいであれば、近鉄線の駅窓口・駅営業所できっぷを購入できます。クレジットカードがなくても、現金で決済できます。
● 近畿日本ツーリストなどの旅行会社で購入
全国にある「近畿日本ツーリスト」のお店で、近鉄線の特急券や乗車券を手数料無料で購入できます。近年お店の数が減少していますが、近畿日本ツーリストは大手旅行会社なので、全国に店舗があります。近鉄沿線から遠方に住んでいる場合、近鉄券を購入できる意外な穴場です。
他の旅行会社でも近鉄線のきっぷを扱っていれば、購入できます。この場合、取扱手数料がかかる場合があるので、注意しましょう。
● ネット予約「近鉄電車インターネット予約・発売サービス」でオンライン決済
遠方に住んでいる場合の頼みの綱が、ネット予約です。
近鉄のネット予約サイト「近鉄電車インターネット予約・発売サービス」を利用します。クレジットカードでオンライン決済すれば、チケットレス特急券が表示されてそのまま乗車できます。
クレジットカードがなくてもネットで予約だけ済ませ、近鉄の駅窓口で現金決済し、紙の特急券を受け取ることも可能です。
従来は会員登録が必要でしたが、現在は会員登録なしでもその都度特急券を購入できるようになっています。会員登録の上特急券や定期券を購入できるサイトもありますが、本記事では説明を割愛します。
近鉄のネット予約サイト、デザインはとてもシンプルですが、特急列車の乗り継ぎにも対応していて、十分実用的です。今回購入したチケットレス特急券は、このようなものです。
ネット予約の詳しい手順、画面遷移を記事文末に残しました。コチラからどうぞ。
乗車券について
「ひのとり」号に乗車するには、特急券・特別車両券だけではなく、乗車券も必要です。
特急券を買う時に乗車券を同時に購入してもオッケーですし、乗車当日に乗車券だけ買っても大丈夫です(窓口でもクレジットカード決済可能)。
交通系ICカードを使用して乗車するのも、もちろん可能です。IC乗車と合わせ、チケットレス特急券を購入すれば、駅の窓口に立ち寄る必要がありません。
ここからは、プレミアム車両へ乗車した時の様子です。
近鉄名古屋駅から「ひのとり」号に乗車!
関東に住む筆者は、事前に最寄りの旅行会社、近畿日本ツーリストのお店で「ひのとり」号のきっぷを仕込んでおきました。
ひのとり60列車:
近鉄名古屋駅 10:00分発 → 大阪難波駅 12:08分着
旅行会社できっぷを買うと、ページプリンターで印刷された保存性の良い紙のきっぷを入手できます。きっぷ鉄の筆者としても、最近注目しているきっぷの買い方です。
遠隔地のきっぷを事前に発売する役割が旅行会社にはあるので、今回は本来の旅行会社の利用の仕方を実践したといえるでしょう。
ということで、いざ近鉄名古屋駅へ。地下駅なので、階段に表示された駅名標が唯一確認できる手段です。
ひのとり号のデビューからすでに時間が経っていますが、いまだに注目を浴びているように感じます。
特急列車が発車するのは、5番線ホーム。10分ごとに特急列車が発車します。ようやく次の列車がひのとり60列車です。
発車時刻の8分前に、ひのとり号の車両が入線。
車両が真っ赤に光っているのが際立ちます。ひのとりの金色のロゴがひときわ目立ちます。
「ひのとり」号の車内探訪
発車時刻までせわしなかったですが、それほど混雑していなかったので、車内をサクッと見て回りました。
プレミアム車両
筆者が乗車したのは、プレミアム車両の1号車。1号車はハイデッカー車両で、デッキから客室に入るには階段を上る必要があります。
3列シートが並んでいます。1列ごとに窓が独立しているので、窓割りを心配する必要はありません。
大阪難波駅ゆきでは、1号車7番が最後尾です。席を後ろ向きにすれば最後尾から景色を展望できますが、車掌さんが執務している姿をガン見することになるので、あまりおススメしません。
座席や窓のカーテンは、電動です。本革シートをフルリクライニングすると、ほぼ横になれるような角度です。東北新幹線のグランクラス並みのシートです。
シートのコントローラー。フットレストやシートバックの角度を調整します。
レギュラー車両
今回は乗車しませんでしたが、様子だけ見てきました。4列シートの一般的な車両ながら、バックシェルのシートの造りがとてもよいです。これがもし3列シートならば、静岡県伊豆半島を走る「サフィール踊り子」号のグリーン車のような雰囲気です。
デッキ・共用部分
1号車プレミアム車両に入るところにあるデッキには、荷物が入るロッカーがあって、施錠できます。
プレミアム車両入口のデッキには、ホットコーヒーの自動販売機とお菓子の自動販売機があります。車内販売がない代わりに置かれていますが、移動特化型の列車であれば、これでも十分かと。
2号車のデッキには、ロッカーと休憩スペースがあります。決して華美ではありませんが、実用には十分です。
トイレにあるウォシュレットのコントローラーは、最上グレードのものです。細部まで手を抜かない感じで、好感を持てます。
至福の2時間を満喫し大阪難波駅へ♪
定刻の10時ちょうどに「ひのとり」60列車が近鉄名古屋駅を発車。大阪市内の鶴橋駅に着くまで、途中の停車駅は津駅だけで、2時間ひた走る格好です。プレミアム車両は、満席でした。
プレミアム車両の各座席には、車内のご案内のリーフレットが置いてあって、シートの操作方法が分かります。
ひのとり号でも、フリーWIFIを利用できます。つないで終わりではなく、雑誌や本の要約を好きなだけ読めるサービスが利用できて、退屈しません。JRには決してまねができない、きめ細やかなサービスです。
筆者も、カフェスペースでホットコーヒー200円を買って、座席にお持ち帰り。カップに描かれた「ひのとり」のロゴが見事で、絵になります。
本革シートに座ってホットコーヒーを楽しむ至福の時間が経つのはとても早く、あっという間に鶴橋駅に到着。終点の大阪難波駅に着く直前、地下区間に入ったところで天井の照明がブルーに。
竜宮城にいるような感覚を抱いたところで、到着。ほとんどの乗客は、終点の大阪難波駅まで通しで乗車していました。
まとめ ~リピートに値する列車~
近鉄名古屋駅と大阪難波駅を約2時間で結ぶ近鉄の名阪特急「ひのとり」号。新造の80000系車両はとても快適です。
移動特化型の特急列車にしては、全車特別車両で「くつろぎのアップグレード」と謳う通りに至福の時間を過ごせます。
「ひのとり」号には、レギュラー車両とプレミアム車両の2種類の設備があります。両者の料金差があまりないので、是非プレミアム車両を試していただきたいです。
レギュラー車両で全区間乗車する場合の運賃・料金は、ちょうど5,000円におさまります。東海道新幹線に比べたら、料金面でリーズナブルさを感じます。時間に余裕があれば、安く快適な時間を過ごせることは間違いありません。
関東の人間がわざわざ名古屋駅で乗り換えるのか?といったら、地元の方にお叱りを受けてしまいそうですね。名古屋駅や新大阪駅で乗り換えてでも乗車する価値がある列車なので、スルーしてしまうのはもったいないと思います。
Appendix:ネット予約の画面遷移
ここでは、近鉄のネット予約サイト「近鉄電車インターネット予約・発売サービス」にて「ひのとり」号のネット予約を行う際の操作画面を逐一説明します。
ここでは、クレジットカードでオンライン決済し、チケットレス特急券を発行する流れでいきたいと思います(小児の特急券)。
1.会員登録なしで購入する場合の初期画面です。[購入開始]します。
2.日にちと乗車区間を入力し、列車を[検索]します。
3.表示された候補の中から、お目当ての列車を選択します。
4.人数を入力してから座席タイプを選択し「シートマップから選択」を指定して[次へ]進みます。
5.表示されたシートマップから座席を選択します。
6.料金額が表示されます。カタカナで名前を入力し、メールアドレス、クレジットカード番号を入力します。
7.入力した個人情報を[確認したため次へ進む]を押します。
8.入力した内容を確認して[購入決定]します。
9.決済が完了し運送契約が成立すると、チケットレス特急券が表示されます。乗車する時にも、この画面を表示します。
10.チケットレス特急券から、領収書を自分で出力できます。
参考資料 References
● ネット予約「近鉄電車インターネット予約・発売サービス」
● 近畿日本鉄道ニュースリリース 2019.8.30付(2024.4閲覧)
https://www.kintetsu.co.jp/all_news/news_info/sinmeihan.pdf
● 特急券のご案内(近畿日本鉄道)2024.4閲覧
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2024年4月26日:当サイト初稿(リニューアル)
2023年4月15日:前サイト初稿
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