鉄道運賃の「遠距離逓減制」活用のススメ〜乗れば乗るほど運賃が安い?~

東京駅上野東京ラインホーム 運賃制度

鉄道を利用する際、遠くに行けば行くほど安くなるというと、不思議に思われるのではないでしょうか。その裏付けとなる考え方が「遠距離逓減制」です。

鉄道で遠くに行くと聞くと「線路は続くよどこまでも」という楽曲が脳裏に浮かびますが、皆さまにとってもお馴染みだと思います。日本国内にも鉄道網が張りめぐらされ、北は北海道から南は鹿児島県まで鉄道で移動できます。

日本国内の鉄道を一筆書きの経路で乗車する「最長片道きっぷ」は、究極の普通乗車券です。このきっぷの運賃計算にも、遠距離逓減制が反映されています。

鉄道運賃の遠距離逓減制の下では、乗車券の目的地の駅が遠ければ遠いほど、1キロメートルあたりの単価が低額になります。遠距離な割に運賃がこんなに安かったっけ、という体験をした方もいらっしゃるのでは。

この記事では、鉄道運賃の「遠距離逓減制」について、基本的なことを詳しくお話しします。JR線の普通運賃の他、遠距離逓減制を導入している私鉄の例も取り上げたいと思います。

この記事を読むと分かること
  • 遠距離逓減制の制度設計のすばらしさ
  • 遠距離なほど距離当たりの単価が低いこと
  • 経路を決めてから通しの乗車券を買うとおトクなこと

遠距離逓減制の下では遠距離きっぷの値段がこんなにも安い!

新幹線博多駅駅名標

「遠距離逓減制」という言葉は難しく、とっつきにくいですが、鉄道運賃制度を理解するには大切な考え方です。「遠距離逓減制」を平易にいうと「遠距離になるほど、次第に減る」という意味です。遠くまで乗れば乗るだけ運賃が減るという風に読み取れますが、これはキロ程あたりの単価を指します。

さっそく、遠くまで鉄道を利用するほど運賃の単価が安くなる実例を取り上げたいと思います。東京駅から東海道・山陽新幹線で以下の各駅まで向かう場合の運賃は、次の通りです。

● 東京駅(東京山手線内)→ 静岡駅

180.2km/片道3,410円
1キロメートル当たりの単価:18.92円

● 東京駅(東京都区内)→ 新大阪駅(大阪市内)

556.4km/片道8.910円
1キロメートル当たりの単価:16.01円

● 東京駅(東京都区内)→ 博多駅(福岡市内)

1,174.9km/片道14,080円/往復25,340円
1キロメートル当たりの単価(片道):11.98円

遠距離になればなるほど1キロメートルあたりの運賃単価がより低くなることが、一目瞭然です。本当は単価の正しい算出方法が定められていますが(後述)、ここでは単純に金額を距離で割りました。

なお、新幹線特急料金にも、運賃ほどではないものの遠距離逓減の考え方が反映されています。

東京都から福岡市までは、現実的には飛行機で向かうことが多いです。鉄道(新幹線)と飛行機との競合を意識していることが、運賃の遠距離逓減制の背景の一つにあるのではないでしょうか。

途中駅に立ち寄りながら目的地の駅まで向かう際、遠距離逓減制が反映された経済的な運賃設定、および途中下車制度を活用できる鉄道が良い選択肢です!

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遠距離逓減制の詳細

遠距離逓減制という用語は、JRの運送約款には特に定義されていません。運送約款の一つである「旅客営業規則」に1キロメートル当たりの単価(賃率といいます)が定められていますが、賃率を決める上での考え方が遠距離逓減制というわけです。

JR各社の運賃は、この賃率に乗車区間の営業キロを乗じて算出されます。この算出の仕方は、対キロ制と呼ばれます。

鉄道運賃の算出方法と考え方がよく似ているものに、電力料金があります。プランにもよりますが、電力料金については使用量が増えるほど、単位(kwh)当たりの単価が高くなる仕組みになっています。

JR各社の運賃の場合は逆に、営業キロが増えるほど単位(キロメートル)あたりの単価が安くなる仕組みです。

JR各社における遠距離逓減制

上野東京ライン大宮駅

いま申し上げた通り、JR各社(旅客鉄道株式会社)の普通運賃は、原則的に「対キロ制」です。営業キロが10km以下の運賃に限っては、例外的に「対キロ区間制」が採用されています。

JR線については、線区によって幹線と地方交通線に分けられ、それぞれの賃率が定められています。また、東京地区/大阪地区の電車特定区間および東京山手線内には、より低い賃率が別に設定されています。これらの賃率は、JR各社の旅客営業規則第77条以降に規定されています。

本記事では、JR6社のうち本州3社の賃率表を見ていきたいと思います。それぞれの賃率は、以下の表の通りです。下表中、1kmから10kmまでは運賃額(円)で、11km以上は1キロメートル当たりの賃率です(鉄道駅バリアフリー料金込み)。

営業キロ地帯別山手線内電車特定【東京】電車特定【大阪】幹線地方交通線
1-3km***150150140150150
4-6km***170170170190190
7-10km***180180190200210
11-100km第1地帯13.2515.3015.3016.2017.80
101-300km第1地帯***15.3015.3016.2017.80
301-600km第2地帯***12.1512.1512.8514.10
601km-第3地帯*********7.057.70

営業キロによって、いくつかに区分されます。各区分とも、1kmから10kmまでは、対キロ区間制によってキロ程別に定められています。

営業キロ11km以上は対キロ制で、キロ程に賃率を乗じて運賃を算出します。JRの運賃にもキロ程による刻みがありますが、私鉄とは異なり対キロ制です。キロ程によって、5km刻み、10km刻み、20km刻み、40km刻みのいずれかが適用されますが、対キロ区間制ではない点に留意しましょう。

上表中に記載しましたが、キロ程によって第1地帯、第2地帯、第3地帯の賃率がそれぞれあります。例えば、東京都区内から福岡市内までの運賃構成は以下の通りです。端数処理が細かく難解ですが、ここでは説明を割愛します。

東京都区内→福岡市内賃率・営業キロ金額
第1地帯(1km-300km)@16.20 x 300km =4,860円
第2地帯(301km-600km)@12.85 x 300km =3,855円
第3地帯(601km-)@7.05 x 580km =4,089円
運賃額x 消費税 1.10 =14,080円

ここで注目すべきは、第3地帯の賃率の低さです。第1地帯の16.20に対し、第3地帯は7.05と、半分以下です。この賃率こそ、遠距離逓減制の表れです。

出発する駅(発駅)から最終目的地の駅(着駅)までが遠距離であればあるほど運賃が安いというのは、このようなわけです。途中下車しながら遠路移動する際には、あらかじめ経路を決めて、通しで1枚の乗車券を作った方が運賃の節約につながります

私鉄における遠距離逓減制

東武日光駅

JR以外の私鉄各社における普通運賃の仕組みは、会社によって異なります。多くの私鉄では対キロ区間制が採用されていますが、中には区間制や均一制が採用されている会社もあります。

本記事では、対キロ区間制が採用された会社(東武鉄道)の事例を見ていきます。

対キロ区間制では、一定の距離帯に対してそれに応じた金額が定められます。例えば、1kmから3kmまでの距離帯の運賃は150円と定められているケースです。乗車する距離に応じて階段状に運賃が変化します。

対キロ区間制においても、遠距離逓減制を導入している会社があります。近距離帯では運賃が高く設定されていても、長距離帯では低く設定されているような場合です。JRと同様、乗車する距離が長ければ長いほど、キロメートルあたりの単価が低くなります

それでは、東武鉄道の運賃表を具体的に見てみましょう(下表には、鉄道駅バリアフリー料金が含まれています)。

営業キロ運賃(円)
1-4km160
5-7km180
8-10km210
11-15km270
16-20km330
21-25km380
26-30km430
31-35km490
36-40km540
41-45km610
46-50km670
51-60km750
61-70km830
71-80km920
81-90km1,000
91-100km1,090
101-120km1,230
121-140km1,400
141-km1,590
2023年4月現行

概ね10km刻みで運賃が定められていますが、遠距離では20km刻みになっています。元々運賃水準が低い東武鉄道ですが、特に101km以上の距離帯の運賃が安いことが目立ちます。

代表的な区間の運賃を具体的に見ていきましょう。

● 北千住駅 → 春日部駅

28.2km/片道430円
1kmあたりの単価:15.24円

● 浅草駅 → 鬼怒川温泉駅

140.8km/片道1,590円
1kmあたりの単価:11.29円

近距離帯の単価が概ね15円に対し、100キロ超えの中距離帯の単価が概ね11円です。JRの賃率と比較しても単価が低く、特徴的なのがお分かりいただけるでしょう。

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遠距離逓減制を活かした乗車券で途中下車する極み

東海道新幹線東京駅

遠距離逓減制が最も活きるのは、発駅から着駅までを線状に移動し、途中の駅で途中下車しながら旅行するパターンです。旅行を始める前に全体の経路を決めて、発駅で最終着駅までの乗車券を通しで買うことが、運賃の節約につながるわけです。

冒頭でふれた東京駅から博多駅まで移動するのに、静岡駅と新大阪駅で途中下車した場合の運賃総額を考えます。運賃以外に新幹線特急券が別に必要ですが、ここでは運賃のみ考えます。

● 通しの乗車券

東京都区内 → 博多駅
1,174.9km/片道14,080円

● 別々の乗車券

東京山手線内 → 静岡駅:
180.2km/片道3,410円

静岡駅 → 大阪市内:
376.2km/片道6,380円

大阪市内 → 福岡市内:
618.5km/片道9,790円

3枚の乗車券の合計:19,580円

結果は明白で、1枚の乗車券にまとめた方がかなり低額です。途中下車制度に関する詳細は、以下の別記事(↓)を是非ご一読ください。

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まとめ

東京駅上野東京ラインホーム

鉄道運賃の特徴には、遠くまで乗れば乗るほど1キロ当たりの賃率が低くなる傾向があります。その根底にある考え方が「遠距離逓減制」です。

JR各社の路線ではいくつかの賃率が設定されていて、対キロ制の仕組みです。乗車するキロ程や線区によって異なる運賃テーブルを用いるため、運賃計算が非常に複雑です。600kmを超えた分の賃率が極端に低いため、長距離の乗車券の値段が驚くほど低額で、実際に買ったら安くてびっくりするのではないかと思います。

本記事で例示した東武鉄道の運賃表でも、遠距離逓減の考え方がよくわかります。キロ程が101km以上の運賃単価が特に低額です。

JR線で遠距離の経路を組む場合、旅行開始時までに全体の経路を決定し、最終的な着駅まで通しで1枚の乗車券を購入すると、運賃の節約につながります。途中駅では途中下車制度を活用することによって、1枚のきっぷで着駅まで旅行できます。

最後までこの記事をお読みくださり、ありがとうございました!

参考資料 References

● 東武時刻表(東武鉄道)2023.3

● JR旅客営業規則のQ&A(自由国民社)2017.5

● 運賃・料金のしくみ(国土交通省)2023.11閲覧

https://www.mlit.go.jp/common/001007700.pdf

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第77条(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)

改訂履歴 Revision History

2024年02月26日:初稿 修正

2023年12月04日:初稿 修正

2023年11月28日:初稿 修正

2023年11月19日:初稿 修正

2023年11月17日:初稿

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