西九州新幹線が、2022年9月に部分開業しました。武雄温泉駅から諫早駅を経て、長崎駅までの区間69.6kmを約30分で結びます。
西九州新幹線に対する並行在来線、従来特急列車が走っていた在来線の長崎本線です。その中でも、諫早駅から長崎駅までの区間は、西九州新幹線と長崎本線(新線:現川駅経由)が並行しています。本来は第三セクターに移管されることになっている並行在来線ですが、当面の間はJR九州が運営をそのまま引き継いでいます。
また、新大村駅から諫早駅までの区間は、在来線の大村線が並行しています。長崎本線ではなく、別の線区である大村線が並行しているのが、西九州新幹線の特異な点です。
西九州新幹線の周りには並行する在来線が複雑に伸びているため、運賃制度上の新幹線と在来線の区別が煩雑です。新幹線と在来線が同一線路か別線かの判定が興味深いところです。
この記事では、西九州新幹線にかかわる新在同線・新在別線の扱いや選択乗車・区間外乗車について取り上げます。どの区間が該当するかを検証し、実際に使用した一部のきっぷをご紹介します。
- 諫早駅・長崎駅間については西九州新幹線と長崎本線(新線)が新在同線となること
- 喜々津駅・長崎駅間については選択乗車と区間外乗車の特例が重畳適用されること
- 新幹線特急券については1個の列車とみなす「幹特在特」の方式が採用されていること
西九州新幹線の概要とそれを取り巻く在来線

西九州新幹線は、本来は博多駅(福岡市博多区)から(新鳥栖駅で分岐して?)長崎駅までの区間を結びます。現在は武雄温泉駅(佐賀県武雄市)から長崎駅(長崎県長崎市)までの区間69.6kmが部分開業しています。
この区間では、西九州新幹線の「かもめ」号および長崎本線の「リレーかもめ」号が一個の列車として運行されています。それらの列車の特急券も、一個の列車として発売されています。
画像引用元:長崎県特設ウェブサイト
武雄温泉駅から長崎駅の区間が開業した、現在の状態です。
画像引用元:長崎県特設ウェブサイト
将来的には、博多駅から長崎駅までの全区間が一本で結ばれる見込みです。
このように、大義としては西九州新幹線の並行在来線は在来線の長崎本線です。ただし、部分開業の状況下では、新幹線と在来線が同線か別線かの区別が明瞭ではありません。
西九州新幹線を取り巻く在来線のイメージは、現状では下図の通りです。

武雄温泉駅から新大村駅(長崎県大村市)までの区間については、西九州新幹線がどの線とも並行していません。
そして、新大村駅から諫早駅(長崎県諫早市)までの区間は、在来線の大村線と並行しています。西九州新幹線と大村線は地理的には近接しているものの、厳密には並行在来線ではありません。本来の並行在来線である長崎本線は、遠く離れた位置を走っています。
長崎本線江北駅(佐賀県江北町)から肥前浜駅(佐賀県鹿島市)を経て諫早駅に至る区間は、本来西九州新幹線に対する並行在来線です。しかし、第三セクターの会社に経営分離されず、JR九州が運行を続けています。
諫早駅から終点の長崎駅までの区間は、西九州新幹線と長崎本線(新線)が並行しています。きっぷのルールとしても、この駅間は同一線路としての扱いです。
しかし、喜々津駅(長崎県諫早市)から長与駅(長崎県長与町)を経て浦上駅(長崎県長崎市)に至る長崎本線の旧線(長与支線)の存在が、事情を複雑にしています。
ということで、新幹線と在来線との関係では「新在同線」が諫早駅・長崎駅間に存在するのみです。他の新幹線に見られるような「新在別線」が西九州新幹線界隈にも見られそうですが、厳密には存在しません。
新幹線と在来線における「新在別線」の考え方や実例については、以下の記事(↓)を是非ご一読ください。
西九州新幹線の各区間が並行在来線であるか否か検討

このような路線網の複雑な広がり方が、きっぷのルールにも影を落としています。区間ごとの運賃計算の仕方やきっぷの効力の面で、西九州新幹線と周辺の在来線においては多数の特例が存在します。調べれば調べるほど奥が深く、沼にはまりそうです。
武雄温泉駅・新大村駅間

西九州新幹線の武雄温泉駅から嬉野温泉駅を経て、新大村駅までの区間は在来線が並行しない単一線路の区間です。したがって、運賃計算上の特例は特にありません。
江北駅から在来線の長崎本線経由で諫早駅までの区間は広義の並行在来線とはいえ、運賃計算には特に影響がありません。
後述しますが、諫早駅から当該区間を経て、佐世保線経由で武雄温泉駅を通り、西九州新幹線で諫早駅に戻る場合の経路は、周回経路です。この経路に乗車するための乗車券は、環状線経路を一周する片道乗車券として成立します。
新大村駅・諫早駅間
西九州新幹線と地方交通線の大村線が、全区間で並行しています。ただし、線区が違うため新幹線と並行在来線の関係にはありません。
もしもこれらの路線が同じ線区であれば、新在同線の関係になるところです。しかし、これらは全く別の線区で、運賃計算上のキロ程もそれぞれ異なります。
したがって、西九州新幹線に乗車する場合の運賃計算キロ・運賃額と大村線に乗車する場合、運賃計算キロ・運賃額がそれぞれ異なります。
諫早駅・長崎駅間

前述の通り、諫早駅から終点の長崎駅までの区間は、西九州新幹線と在来線の長崎本線が並行しています。
また、大村湾沿いを走る長与支線(旧線)と山間部を長大トンネルで抜ける現川駅経由の新線もあることから、在来線においても2通りの経路が存在することになります。
これらの3通りの経路において取ることができる経路パターンが多いため、選択乗車に関する特例や区間外乗車の特例が規定されています。
この区間に関しては特例が重畳的に適用されるため、きっぷのルールが極めて複雑かつ難解です。これから、選択乗車や区間外乗車に関する特例を詳しく見ていきましょう。
西九州新幹線をめぐる運賃計算特例の詳細
上述した通り、長崎本線諫早駅・長崎駅間については、西九州新幹線の開業前から新線と旧線の2通りの経路が存在していました。その後、2022年9月に西九州新幹線が開業したことで、経路がさらに増えた形です。
元からあった運賃計算上の特例に、新幹線開業による新たな特例が追加されたため、すべての特例を理解することは困難です。ここでは、難解な運賃計算の特例をひも解いていきたいと思います。
新在同線【規則第16条の2】
諫早駅・長崎駅間については、西九州新幹線と在来線の長崎本線(新線:現川駅経由)が同一線路の扱いです。この区間を含む普通乗車券を持っていれば、乗車券に示された経路にかかわらず、西九州新幹線にも、在来線長崎本線(新線)にも乗車可能です。
長崎本線(旧線:長与駅経由)が新在同線の対象ではないことを、押さえておきましょう。
新在同線区間における選択乗車の規定上の根拠は、旅客営業規則第16条の2第1項です。いわば広義の選択乗車と言えますが、後述する同規則第157条に基づく選択乗車と区別して考えるのが、ポイントです。
選択乗車【規則第157条】
在来線の喜々津駅・浦上駅間については、新線と旧線のいずれかを選択して乗車できる「選択乗車」の特例が適用されます。ここで言うところの選択乗車とは、旅客営業規則第157条による(狭義の)選択乗車を指します。
この区間に関係する選択乗車の特例は、以下の3例が規定されています。
- 第55号:喜々津駅以遠の各駅と浦上駅・長崎駅との相互間
- 第56号:喜々津駅以遠の各駅と長与駅・西浦上駅間各駅との相互間
- 第57条:東園駅・本川内駅間各駅と浦上駅・長崎駅との相互間
第56号においては、乗車券に指定した経路以外以外の長与駅・西浦上駅間各駅では途中下車できません。
諫早駅・長崎駅間で新幹線と在来線を選択乗車するのも(広義の)選択乗車であるため、混乱します。しかし、旅客営業規則第157条による狭義の選択乗車とは根拠が異なることに留意したいです。新幹線における新在同線扱いとは別物であることを押さえると、理解に一歩近づくでしょう。
区間外乗車【規則第160条の4・基準規程第151条の4】
浦上駅・長崎駅間に関しては、従来から分岐駅を通過する列車に対する区間外乗車の特例が定められています(旅客営業規則第160条の4)。この区間にかつて走っていた寝台特急が浦上駅を通過したことから、また現在でも浦上駅を通過する特急列車があるため、この特例が存在します。
西浦上駅以遠の区間と現川駅以遠の区間を含む普通乗車券を所持する場合、別途運賃を支払うことなく浦上駅・長崎駅間を乗車できます(長崎駅では途中下車不可)。
そして、西九州新幹線の開業以降、西九州新幹線で長崎駅まで乗車し、西浦上駅以遠の駅に向かうケースが新たに発生しました。
- 旅客営業規則第157条第1項第56号が適用される経路(上記参照)
- 諫早駅・長崎駅間を西九州新幹線に乗車する場合
このようなケースにおいても、在来線同様浦上駅・長崎駅間を区間外乗車できるように運用されています(旅客営業取扱基準規程第151条の4)。
区間外乗車の特例が適用される浦上駅・長崎駅間が、第157条選択乗車の対象区間に接している形です。そのため、理解が一層困難というわけです。
区間外乗車に関する基本に関して、別の記事で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
西九州新幹線における運賃計算の実例

それでは、今ご説明した特例の数々を、実際に運賃計算に落とし込んでみましょう。実例を見ることで、ご理解いただきやすくなると思います。
江北駅→諫早駅
将来的には新在別線になる可能性がある区間ですが、現在は特に関係ない単なる別線です。経由によって運賃額がそれぞれ異なります。
佐世保線・西九州新幹線経由
営業キロ58.4km/運賃額1,300円(新幹線特急券が別途必要)

長崎本線(在来線)経由
営業キロ60.8km/運賃額1,510円

新大村駅→諫早駅
西九州新幹線と大村線が並行する区間ですが、大村線は整備新幹線の並行在来線ではありません。それぞれ別の線区なので、営業キロおよび運賃額が異なります。
西九州新幹線経由
営業キロ12.5km/運賃額340円(新幹線特急券が別途必要)

大村線経由
営業キロ13.9km/運賃額360円

諫早駅→浦上駅
新幹線と在来線(新線)が同一線路の区間です。前述した通り、新幹線・在来線の関係がある上、選択乗車区間があるため、ルールが非常に複雑な区間です。
旅客営業規則第16条の2第1項第5号および同規則第157条第1項第55号が、重畳的に適用されます。また、区間外乗車の特例(旅客営業取扱基準規程第151条の4)の適用の有無がかかわります。
西九州新幹線経由【長崎駅で途中下車する場合】
営業キロ通算26.5km/運賃額560円+200円=760円

新在同線のため、長崎駅で折り返し乗車となり、長崎駅ー浦上駅間の運賃170円が別途かかります(連続乗車券を購入する形)。長崎駅で途中下車しない場合は区間外乗車の特例が適用され、運賃は560円です。「えきねっと」では、この区間について区間外乗車の特例(いわゆる分岐駅特例)を反映できないようです。
長崎本線(在来線)経由
営業キロ23.3km/運賃額560円

長崎本線の当該区間には選択乗車の制度があるため、現川駅経由でも長与駅経由でも運賃は同額です。
諫早駅→長与駅
同じく、新幹線と在来線が同一線路かつ選択乗車の対象区間があるので、運賃計算が難解な区間です。長崎本線長与支線(旧線)は西九州新幹線とは同一線路ではありませんし、新在別線にも当たりません。
旅客営業規則第157条第1項第56号が適用される区間です。
西九州新幹線経由【長崎駅で途中下車せず乗り継ぎ】
営業キロ21.9km/運賃額560円

長崎駅・浦上駅間には分岐駅特例(区間外乗車の特例)があり、長崎駅で途中下車しなければ折り返し分の運賃がかかりません。また、この区間の在来線の運賃には、規則第157条の選択乗車制度が反映されます。旧線を通っても新線を通って浦上駅で乗り換えても、最短経路の営業キロ21.9kmが適用され、同額です。
このケースに関しては基準規程第151条の4の特例が適用されますが、「えきねっと」が当該特例を反映できているようです。
長崎本線(在来線)経由
営業キロ21.9km/運賃額560円

区間外乗車特例の対象ではないこと以外は、西九州新幹線経由の運賃額と同じセオリーです。最短経路の営業キロである21.9kmをもって、運賃額を算出します。
新幹線特急料金にも特例が存在

これまで運賃に関する特例の数々をご紹介してきました。少し脱線しますが、ここで西九州新幹線に関する特急料金の特例についてもお話ししたいと思います。
先に申し上げた通り、新幹線の「かもめ」号と在来線の「リレーかもめ」号は1個の列車として一体的に運行されています。これらの列車に乗車するために必要な特急券も、運行実態にあわせて1枚の特急券になっています。
したがって、他線区の一般的な列車のように、新幹線特急料金と在来線特急料金を合算する形ではありません。一個の列車として特定の特急料金が定められているのが、西九州新幹線における特急料金の特徴です。
これは、指定席特急料金・自由席特急料金ともに適用されます。実際のきっぷをみても、これらのルールが一目瞭然に分かります。

これは、西九州新幹線嬉野温泉駅(佐賀県嬉野市)から長崎本線江北駅(佐賀県江北町)ゆき新幹線特定特急券です(券面表記は旧駅名の肥前山口です)。
一個の列車として新幹線特急料金が発行されているため、武雄温泉駅から江北駅までの区間が在来線であることが券面からは分かりません。
新幹線と在来線が一体化していることは、券面に「幹特在特」と表示されていることから分かります。

難しいお話が続きましたが、ここからは乗り鉄体験を共有します!
諫早駅→諫早駅 周回経路一周乗り鉄体験

西九州新幹線をめぐる経路組みや運賃計算には沼にはまるような複雑さがある分、実際に乗車するとその分楽しいと思います。
筆者は、これらの経路の中でも最も長い周回経路である[諫早駅→江北駅→武雄温泉駅→諫早駅]のきっぷを買い、実際に乗車してみました。
長崎駅窓口にて片道乗車券を購入
周回経路となる片道乗車券は、ネット予約サービスや指定席券売機では購入できません。そこで、長崎駅のみどりの窓口にて駅員からきっぷを購入しました。
● 諫早駅→諫早駅
経由:諫早(長崎本線)江北(佐世保線)武雄温泉(新幹線)諫早
営業キロ:119.2km/運賃額:2,420円

営業キロが101km以上なので、途中下車が可能です。
長崎本線普通列車/西九州新幹線にいざ乗車!

投宿した長崎駅前のホテルを朝6時過ぎに出て、いざ長崎駅へ。在来線の列車に乗車する前に西九州新幹線のホームに入り、列車を見学。

諫早駅までは、現川駅経由の普通列車で移動。長崎地区の車両は、ハイブリッド気動車の「YC1」に入れ替わっていました。

車内の様子。JR九州らしい華やかな内装です。明るい雰囲気がいいのですが、座席が堅いロングシートです。長時間乗っていると疲れます。

諫早駅に到着。駅名標のデザインがgoodです!

肥前浜駅ゆき列車に乗り換えです。有明海沿いを走る在来線の列車の本数が少なく、朝の時間帯を外すとプランニングが大変です。

肥前浜駅ゆきの車両は、鉄オタお馴染みのキハ47型。2両編成の列車ですが、在来線で佐賀や博多方面に向かうユーザーがそれなりにいる感じでした。思ったよりも席が埋まった状態で発車。

途中の小長井駅(長崎県諫早市)で、下り列車と離合。有明海が目の前の駅で、ステキな風景を撮ることができました。

終点の肥前浜駅で、鳥栖駅ゆき普通列車に乗り換え。乗り換えるユーザーが多く、思ったよりも混んでいました。

江北駅で佐世保線普通列車に乗り換え、いざ武雄温泉駅へ。西九州新幹線の列車にご対面です。発車直前までホームドアが開かず、せわしなく車内へ。ホームも混んでいて、写真をゆっくり撮れる感じではありませんでした。

かもめ号のロゴ。指定席に乗車しようと思っていましたが、思ったより混んでいて満席。席が取れなかったので、結局自由席で長崎駅まで乗車しました。途中駅で乗ってくるユーザーが多く、ほとんどの席が埋まりました。
30分ほどで長崎駅に到着。多くの人々がホームになだれ込みました。
まとめ

武雄温泉駅と長崎駅を結ぶ西九州新幹線の周辺を走る並行在来線の位置関係の微妙さから、西九州新幹線をめぐるきっぷの運賃計算がとても複雑です。
部分開業の現時点では、いわゆる「新在別線」の区間はありません。諫早駅・長崎駅間のみが「新在同線」とされています。
当該駅間には、現川駅経由の新線と、長与駅経由の長与支線(旧線)があり、選択乗車が適用されます。乗車できる経路のパターンが新幹線を含めて3通りあることから、それだけで複雑です。
在来線に加え、西九州新幹線が経由路線に加わり、それによって長崎駅・浦上駅間に区間外乗車の特例が設定されたことが、運賃計算をより複雑にしています。
諫早駅から周回経路を一周し、諫早駅まで戻る環状線一周経路が複数存在します。ただし、西九州新幹線・長崎駅・長与支線経由の場合は完全な環状線一周とはならず、喜々津駅で運賃計算が打ち切られます。
本来の並行在来線である長崎本線の肥前浜駅・諫早駅間は非電化になり、ローカルな雰囲気が漂っています。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料
● 西九州新幹線 開業!(長崎県)2023.12閲覧

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第16条の2(東海道本線(新幹線)、山陽本線(新幹線)、東北本線(新幹線)、高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)、信越本線(新幹線)、鹿児島本線(新幹線)及び長崎本線(新幹線)に対する取扱い)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第57条の3(特定の特別急行券の発売)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第157条 第1項 第55号・第56号(選択乗車)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第160条の4(分岐駅通過列車に対する区間外乗車の特例)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程 第151条の4(浦上・長崎間に係る区間外乗車の取扱いの特例)
当記事の改訂履歴
2025年4月13日:初稿 再構成
2024年12月26日:初稿 修正
2024年02月26日:初稿 修正
2023年12月18日:当サイト初稿
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