特急列車の運賃・料金計算に関する営業キロのマジック~隣駅間で大きな差異が生じるからくりを解説~

特急ひたち号上野駅にて 運賃制度

新幹線や在来線特急列車に乗車する時、乗車券と特急券・グリーン券が必要なことは言うまでもありませんが、運賃・料金の計算過程を意識したことはあるでしょうか。

特急・グリーン料金は、実際に乗車した経路の営業キロをもとに計算します。そして、それらの料金を計算するための距離帯は、通常50kmあるいは100km刻みです。したがって、その距離帯を超えるごとに料金が階段状に跳ね上がる特徴があります。

一方、運賃に関しても、基本的には発駅から着駅までの営業キロがベースです。しかし、さまざまな特例によって、運賃計算のための営業キロが修正されます。

このようなことから、一定の条件下では運賃と料金にギャップが生じるのです。

例えば、東京駅から乗車した場合と上野駅や品川駅から乗車した場合では、運賃が同額であっても料金が異なることがあります。金額の差の大きさゆえ、「あれっ」と驚いた経験があるのではないでしょうか。

特定都区市内制度が適用される区間や地方交通線が関係する区間では、運賃計算に用いる運賃計算キロと料金計算に用いる営業キロにギャップが生じ、違和感を覚えることがあります。

この記事では、運賃と特急・グリーン料金の計算結果に大きなギャップが生じる原因を、具体例を通して考えていきます。運賃計算と料金計算の過程が大きく異なることを、当記事を通して理解いただきたいと思います。

この記事を読むと分かること
  • 運賃計算にはさまざまな特例があるため乗車区間の営業キロと一致しない場合があること
  • 地方交通線を含む場合の料金計算には運賃計算キロではなく営業キロを用いること
  • 特定都区市内では中心駅からではなく実際の乗降駅からの営業キロを用いること

運賃・料金計算のしくみ~営業キロについて~

最初に、当記事を理解する上での前提となる運賃・料金のしくみについて押さえたいと思います。

営業キロによって決まる運賃・料金

鉄道の運賃および料金は、乗車した経路の距離によって決まります。キロメートル単位で距離を扱うことから、運賃・料金計算を行う上での距離が「営業キロ」です。

運賃・料金は、営業キロ1km単位で定められているのではなく、一定の距離帯に対して一定の金額が設定されています。

距離帯ごとの運賃と料金
グラフ上の距離帯の刻みはイメージです

グラフで表現すると、右上がりの線グラフではなく、階段状に上がっていく形です。

運賃については、営業キロが大きくなるにつれて距離帯の刻みが粗くなっていきます。近距離では5kmから10km、中距離では20km、長距離では40kmといった具合です。

一方、料金の上がり方は、運賃よりも大幅に大雑把です。その刻みは最低でも25kmで、一般的には50kmから100km間隔になります。

このように、運賃の上がり方と料金の上がり方には、大きなギャップがあります。そのため、乗車区間の営業キロによっては、運賃計算のもとになる営業キロと料金計算のもとになる営業キロにずれが生じます。

運賃計算のための営業キロと料金計算のための営業キロは一致しない

それでは、運賃・料金計算を行う上で営業キロをどのように用いるのでしょうか。

当記事を読み解くのにあたって押さえておきたいのが、特急・グリーン料金に関しては、乗車する経路通りの営業キロを常に用いることです。

しかし、運賃計算に当たっては、特定都区市内制度や大都市近郊区間制度といったさまざまな特例が存在します。そのため、運賃計算のための営業キロは、必ずしも乗車経路通りとは限りません

また、乗車区間に地方交通線が含まれる場合、運賃計算のための「運賃計算キロ」や「擬制キロ」といった単位が登場することになります。

このように、料金算出の基となる営業キロの算出方法と、運賃算出の基となる営業キロの算出方法が異なります。このことから、それらの営業キロが一致しない場合が発生し、当記事でご紹介するようなギャップが生じるのです。

それでは、筆者が常磐線特急「ひたち」号を利用した時のエピソードをご紹介しましょう!

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常磐線特急「ひたち」号を利用した時のエピソード

日立駅駅名標

日立駅(茨城県日立市)から上野駅(東京都台東区)まで移動するため、特急「ひたち」号に乗車しました。

この列車は、品川駅(東京都港区)、東京駅(東京都千代田区)および上野駅を発着します。普段は、東京駅まで乗車することもあれば、上野駅まで乗車することもあります。

東京駅と上野駅はそれほど離れていないため(営業キロ3.6km)、いずれの駅が着駅であっても料金に差はないものと思い込んでいました。

ところが、常磐線日立駅(茨城県日立市)には、微妙な営業キロが設定されています。

その微妙さが原因で、日立駅から上野駅までと、日立駅から東京駅までの値段に大きな差があることに、非常に驚きました。

上野駅から日立駅までの運賃料金計算のための営業キロ

運賃計算上、日立駅から上野駅までの区間(営業キロ149.1km)および日立駅から東京駅までの区間(営業キロ152.7km)の運賃には差がありません。この駅間には特定都区市内制度が適用されるため、東京山手線内の駅に含まれる上野駅および東京駅までの運賃は、同額です。

しかし、料金計算においては、例外なく実際に乗車する区間の営業キロをもとにします。このケースでは、150kmをわずかに超える東京駅までの料金が高額になります

画像引用元:えきねっとアプリ

これは、日立駅から上野駅ゆきのチケットレス特急券です。えきねっと限定の割引料金「トク割」の値段は、営業キロ101km-150kmまでの料金として、見ての通り1,020円です(無割引の所定料金は1,580円)。

しかし、東京駅および品川駅ゆきとなる場合、営業キロ152km-200kmまでの料金として、1,450円となります(無割引の所定料金は2,240円)。金額が大きく跳ね上がることに驚くのではないでしょうか。

仮に、上野駅発着の料金と東京駅・品川駅発着の料金を同額とする特例があれば、このような現象は生じません。

したがって、この事例において旅費を節約するためには、上野駅で特急列車を下車し、山手線等の普通列車に乗り換えることが有効です。

ここから、運賃と料金にギャップが生じる具体的な原因を、実例を交えてご説明します!

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運賃と料金それぞれの営業キロにギャップが発生するパターン

このように、ある区間の運賃を算出するための営業キロ(運賃計算キロ・擬制キロ)と料金を算出するための営業キロが常に同じではなく、両者に差が生じるケースが時に発生します。

そのギャップが生じる原因は、具体的には以下の3ケースが考えられます。

  • 乗車区間に地方交通線が含まれる場合
  • 乗車区間に特定都区市内が含まれる場合
  • 乗車区間が大都市近郊区間で完結する場合

これらの事例を、それぞれ探っていきましょう。

地方交通線が含まれる運賃・料金の算出

静岡駅駅名標

全国には、地方交通線を走る特急列車が多くあります(当記事の末尾に、そのリストを掲載してあります)。

地方交通線に関しては、運賃・料金計算の基となる距離がそれぞれ異なります。

  • 運賃:運賃計算キロ・擬制キロから算出
  • 料金:営業キロから算出

「擬制キロ」とは、JR四国およびJR九州管内における地方交通線の運賃計算に用いる単位です。一方、「運賃計算キロ」はその他の会社管内で用いられます。

この場合、運賃計算キロ・擬制キロが、営業キロより長くなります(概ね営業キロの1.1倍)。そのため、運賃計算上の距離と料金計算上の距離にはギャップが生じます。それでは、以下のケースを見ていきましょう。

【事例1】特急「ふじかわ」号

特急「ふじかわ」号は、東海道本線静岡駅(静岡市葵区)から身延線を経て、身延線甲府駅(山梨県甲府市)までの区間を運行する在来線特急列車です。

静岡駅から乗車し、身延線甲斐岩間駅(山梨県市川三郷町)で下車する場合と、1駅先の鰍沢口駅(山梨県市川三郷町)で下車する場合をそれぞれ比較したいと思います。

特急ふじかわ号営業キロ程

東海道本線は幹線で、身延線は地方交通線です。したがって、運賃計算は営業キロではなく、運賃計算キロで行います。一方、特急料金の計算については、経路通りの営業キロを用います。

● 静岡駅ー甲斐岩間駅

運賃計算キロ:100.3km
営業キロ:94.3km

運賃:1,980円
指定席特急料金(通常期):1,730円

静岡駅から甲斐岩間駅までのキロ程

● 静岡駅ー鰍沢口駅

運賃計算キロ:107.4km
営業キロ:100.8km

運賃:1,980円
指定席特急料金(通常期):2,390円

静岡駅から鰍沢口駅までのキロ程

両駅間の運賃が同額にもかかわらず、1駅違うだけで特急料金が大きく変わることがはっきりと分かります。

特定都区市内が含まれる運賃・料金の算出

特急踊り子号東京駅にて

東京23区や大阪市をはじめ、特定都区市内制度が適用されるゾーンは、全国で12箇所あります。この制度が適用される場合、運賃計算は当該ゾーンの中心駅から行います。

一方、特急料金の計算は実際に乗降する駅から行うため、運賃計算と料金計算でギャップが生じます

前述した特急「ひたち」号の事例は、このカテゴリーに含まれます。以下の事例を含めて、理解を深めましょう。

【事例2】特急「踊り子」号

東京駅から熱海駅を経て、伊豆急下田駅および修善寺駅を結ぶ在来線特急列車「踊り子」号で、この現象が生じます。

東京駅・品川駅から熱海駅までのキロ程

● 東京駅ー熱海駅

中心駅からの営業キロ:104.6km
実際の営業キロ:104.6km

運賃:1,980円
指定席特急料金(通年):1,580円

● 品川駅ー熱海駅

中心駅からの営業キロ:104.6km
実際の営業キロ:97.8km

運賃:1,980円
指定席特急料金(通年):1,020円

運賃に関しては、東京駅から熱海駅までの区間の営業キロが101km以上となるため、特定都区市内制度の対象となります。「東京山手線内」のゾーンに含まれる東京駅と品川駅の運賃は、中心駅の東京駅から計算するため、同額です。

一方、特急料金に関しては、乗車区間の営業キロから算出します。東京駅と品川駅では距離帯が異なるため、料金に大きな差が生じます。

特急料金を節約したい場合、品川駅で乗り降りするのが有効であると分かります。

【事例3】東海道新幹線

東海道新幹線で東京駅・品川駅から熱海駅までの区間を乗車した場合でも、この現象が見られます。

東京駅・品川駅から熱海駅までのキロ程
再掲

● 東京駅ー熱海駅

中心駅からの営業キロ:104.6km
実際の営業キロ:104.6km

運賃:1,980円
普通車指定席特急料金(通常期):2,290円
グリーン料金(通常期):4,560円

● 品川駅ー熱海駅

中心駅からの営業キロ:104.6km
実際の営業キロ:97.8km

運賃:1,980円
普通車指定席特急料金(通常期):2,290円
グリーン料金(通常期):3,060円

普通車の特急料金については、東京駅と品川駅では同額に設定されています。一方、グリーン料金については実際の営業キロで算出するため、両駅間では金額に大きな差が生じます

わずか1駅間の違いであっても、料金に大きな差が生じることが分かります。

特定都区市内制度の概要については、別の記事(↓)をご一読ください。

大都市近郊区間が含まれる運賃・料金の算出

特急鎌倉号吉川美南駅にて

東京近郊区間や大阪近郊区間といった大都市近郊区間においては、実際に乗車する経路にかかわらず、最短経路で運賃を算出します。これは、乗車経路によって運賃を計算する原則に対する特例です。

したがって、特急列車が走る経路が最短経路ではない場合、運賃と特急料金では計算の基となる営業キロにギャップが生じます

特急列車の多くは最短経路をひた走りますが、中心部を迂回するような経路で走る特急列車があります。そのようなケースに該当する特急列車は、特急「鎌倉」号や特急「成田エクスプレス」です。

【事例4】特急「鎌倉」号

週末を中心に運行される特急「鎌倉」号は、武蔵野線内の主要な駅と鎌倉駅を結ぶ臨時特急列車です。

特急鎌倉号キロ程

この列車が走る経路は、東京中心部を迂回するような形になります。そのため、特急料金の算出の基となる営業キロが長めです。

● 吉川美南駅ー鎌倉駅

実際の経路:107.3km
運賃計算上の最短経路:91.6km

運賃:1,460円
普通車の特急料金(通常期):1,890円

吉川美南駅(埼玉県吉川市)から鎌倉駅(神奈川県鎌倉市)までの全区間が東京近郊区間内で完結するため、運賃は最短経路で算出します。なお、この全区間は、電車特定区間です。一方、特急料金については、実際の走行経路である府中本町駅および鶴見駅経由で算出します。

運賃に対して特急料金が高額に感じるのは、このようなからくりがあります。

特急「鎌倉」号に関する詳細については、別の記事(↓)をご一読ください。

【事例5】特急「成田エクスプレス」

成田空港から渋谷駅・新宿駅を結ぶ特急「成田エクスプレス」は、東京駅から新宿駅までの間、山手線を半周するような大回りの経路を取ります。

特急「成田エクスプレス」の運賃・料金を計算する際、実際の乗車区間にかかわらず、御茶ノ水駅を経由する最短経路を取れる特例が適用されます。

特急成田エクスプレス渋谷駅から千葉駅までのキロ程

● 千葉駅ー渋谷駅

実際の経路:53.2km
運賃計算上の最短経路:48.4km

運賃:830円
普通車の特急料金(通年):760円
グリーン料金(通年):1,530円

千葉駅から渋谷駅までの区間では、大回りの経路であることが顕著に現れます。運賃計算上の最短距離は、48.4kmです。しかし、実際に走行経路に対応する営業キロは、53.2kmです。特急料金は、本来は100kmまでの1,020円となるはずですが、特例で50kmまでの760円とされています。

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実際に乗車する際は運賃・料金のシミュレーションを

これまでご説明したように、乗車駅と下車駅の組み合わせによっては、予想外の料金差が生じることをご理解いただけたかと思います。

実際に列車に乗車する際には、前後の駅で運賃・料金のシミュレーションをしてみるのはいかがでしょうか。同じ目的地であっても、乗車駅や下車駅によって大きく料金が変わるため、旅費の節約につながる可能性があります。

ただし、当記事でご説明した内容は、制度の隙を突くような難解なものであることも確かです。手計算で結果を比較するのは、決して容易ではありません。

スムーズに検索するために、JR各社のネット予約システムやスマートフォンの乗換案内アプリ等を活用することをおススメします。

まとめ

特急ひたち号上野駅にて

JRきっぷの運賃・料金計算においては、乗車した経路通りの営業キロを用いるのが大原則です。

特急料金やグリーン料金の計算に関して、例外はほぼ存在せず、原則通りに行います。

一方、運賃の計算については複数の賃率がある上、特定都区市内制度や大都市近郊区間制度など多くの特例が設けられており、実際に乗車した営業キロが運賃に反映されない場合が多くあります

その結果、料金計算に用いる営業キロと運賃計算に用いる営業キロに大きなギャップがみられることがあり、違和感を抱くことになるでしょう。

このようなことから、1駅先までの運賃が同額であっても特急・グリーン料金が大きく跳ね上がることがあります。東京駅・品川駅・上野駅を発着する列車において、この現象が顕著です。

東京都心部まで乗車する場合、1駅手前の駅で降車することで特急料金の大幅な節約につながることを覚えておくとよいでしょう。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

Appendix:地方交通線を走る特急列車一覧

本文でご説明した、地方交通線を走る全国の在来線特急列車は、下表の通りです。

列車名運行線区JR会社
宗谷・サロベツ宗谷本線JR北海道
オホーツク・大雪石北本線JR北海道
草津・四万吾妻線JR東日本
あずさ大糸線JR東日本
ふじかわ身延線JR東海
伊那路飯田線JR東海
ひだ高山本線JR東海
能登かがり火七尾線JR西日本
まいづる舞鶴線JR西日本
はまかぜ播但線JR西日本
スーパーはくと因美線JR西日本
スーパーいなば因美線JR西日本
スーパーおき山口線JR西日本
剣山徳島線JR四国
むろと牟岐線JR四国
宇和海内子線JR四国
かいおう筑豊本線JR九州
ゆふ久大本線JR九州
あそ豊肥本線JR九州

参考資料

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第70条の2第2号(特定列車に対する旅客運賃及び料金の計算経路の特例)

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則第125条第1号ロ(大人急行料金)

当記事の改訂履歴

2024年9月10日:当サイト初稿

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