鉄道の乗車券を購入する際、経路を意識したことはあるでしょうか。
発駅から着駅までの経路を考える時、鉄道会社から指定された経路に従うのではなく、ユーザーが自由に経路を決めることになっています(一部例外はあります)。
JR各社はじめ多くの鉄道会社においては、後戻りせず一筆書きの経路になる限り、通しで一枚の片道乗車券が発売されます。しかし、ユーザーによっては、どのようにすれば適切な経路を組むことができるのか、難しく思うかもしれません。
遠くの駅まで一枚の片道乗車券で旅行すると、遠ければ遠いほど距離当たりの単価が低くなり、安いきっぷを買えます。運賃を節約するためにも、できるだけ長い経路を考えることにメリットがあります。
この記事では、普通乗車券の経路を組む際に必要な基礎的な知識をご説明した上で、どのように経路を組むのが適切か、具体的に考えていきます。
- 片道/往復/連続乗車券の違い
- 周回経路となる片道乗車券の仕組み
- 大都市近郊区間完結となる場合意味をなさないこと
後戻りせず一筆書きの経路を考えるメリット
鉄道を利用していくつかの駅を訪問する際、すでに通った経路を後戻りすることなく、順にめぐった方が効率的です。一筆書きで長い経路を組むのが、鉄道旅行のプランニングの基本です。
一回の旅行で訪問する駅を一枚の乗車券に含める考え方は、途中下車制度を利用することが前提になります。多くの私鉄においては途中下車制度が廃止されているため、現在では基本的にJR各社を利用する場合の制度と考えるとよいでしょう。
途中下車をしながら順に旅行していくと、長距離になればなるほど乗車券の値段が驚くほど安くなります。もちろん、きっぷの値段が安くなるだけではなく、遠くに旅行するという気分の高揚感を味わうことができるのは言うまでもありません。
途中下車制度の基本については、以下の記事(↓)を是非ご一読ください。
また、遠ければ遠いほど運賃が安くなる考え方(遠距離逓減制)については、以下の記事(↓)をご一読ください。
ゆきとかえりで経路を変えて一周とすると、壮大な片道乗車券ができ上がります!
普通乗車券には3種類ある
経路の組み方を考える前に、普通乗車券の種類について押さえておきましょう。
乗車券の基本は、1回限りで乗車する際発行される「普通乗車券」です。普通乗車券には、片道乗車券/往復乗車券/連続乗車券の3種類があります。乗車する経路によって、それらのうちのどれに該当するかが決まります。
乗車券の種類については、JR各社のルールブックである「旅客営業規則」第26条に定められています。
● 片道乗車券
発駅から着駅ゆきの基本的な乗車券が、片道乗車券です。後戻りしない経路であることが必要です。発駅と着駅が同一の場合、片道乗車券ながら次項の一周乗車券に該当します。
● 経路が一周となる乗車券【片道乗車券】
経路が一筆書きでも、発駅と着駅が同一となる場合、経路が一周と言えます(「環状線一周」と言います)。その場合には片道乗車券が発売されますが、着駅にて運賃計算を打ち切ります。
一周乗車券についてはネット予約サービスや指定席券売機では購入できず、みどりの窓口で駅員から購入します。
本記事の後半で、経路が一周となる乗車券の具体例をご紹介します。
● 往復乗車券
発駅から着駅までの往復の経路がまったく同じ場合に利用できるのが、往復乗車券です。環状線一周となる乗車券に関しては、往復乗車券を作れません。
往復乗車券については、以下の記事(↓)をどうぞご一読ください。
● 連続乗車券
片道乗車券でも往復乗車券でもないのが、連続乗車券です。
経路が連続していても、環状線一周や複乗のために運賃計算を打ち切ることがあります。その場合に発行される2枚の片道乗車券(一周乗車券を含む)のセットをイメージすると、分かりやすいかと思います。JR各社で購入できる連続乗車券ですが、他の私鉄でも購入できる場合がわずかながらあります。
連続乗車券についてもネット予約サービスや指定席券売機では基本的に購入できず、みどりの窓口で駅員から購入します。
連続乗車券については、以下の記事(↓)をどうぞご一読ください。
後戻りしない一筆書きの経路の考え方
それでは、一筆書きの経路でありながら後戻りしないとは一体どのような状態なのか、具体的にお話しします。
一例として、下図のような8文字状の路線網から経路をいくつか挙げます。
この路線網の中には、A駅/B駅/C駅/D駅/E駅/F駅の6つの駅があります。
● A駅からB駅までの経路(片道/往復)
(1) A駅→B駅
最短の片道経路です。
(2) A駅→B駅/B駅→A駅
上記と同様、最短の往復経路です。
● A駅からF駅までの経路(片道/往復)
(3) A駅→C駅→E駅→F駅
最短の片道経路です。A駅までそのまま後戻りすると、往復経路になります。
(4) A駅→B駅→D駅→F駅
これも同様に最短の片道経路です。A駅までそのまま後戻りすると、往復経路になります。
(5) A駅→B駅→D駅→C駅→E駅→F駅
2の字を描く大回りの片道経路です。A駅までそのまま後戻りすると、往復経路になります。
● A駅からA駅までの経路(環状線一周)
(6) A駅→B駅→D駅→C駅→A駅
発駅のA駅から着駅のA駅に向かう経路です。発駅と着駅が同一のため、経路が一周となります。
(7) A駅→B駅→D駅→F駅→E駅→C駅→A駅
同様の経路です。これも経路が一周となります。
● A駅からF駅までの経路(連続)
(8) A駅→B駅/B駅→A駅→C駅→E駅→F駅
B駅からA駅間が後戻り(複乗)となるため、B駅で運賃計算を打ち切ります。
(9) A駅→C駅→D駅/D駅→C駅→E駅→F駅
D駅からC駅間が後戻り(複乗)となるため、D駅で運賃計算を打ち切ります。
一筆書き経路の具体例・きっぷ
さらに理解を深めるため、実際のきっぷを眺めながらお話を進めます。
一周となる経路(片道乗車券)
これは、東京都区内から東京都区内ゆき普通片道乗車券です。
発駅と着駅が同一の環状線一周経路となります。ゆきは北陸新幹線で金沢駅に向かい、かえりは北陸本線(在来線)と東海道新幹線に乗車して東京駅に帰着する経路です。
この場合、金沢駅で乗車券を分割せず、あらかじめ一周分の乗車券を通しで購入すると、およそ4千円の節約になります。
● 東京都区内→東京都区内(金沢駅経由):
1,073.0km/片道13,200円
● 東京都区内→金沢駅(長野駅経由):
450.5km/片道7,480円
● 金沢駅→東京都区内(長浜駅経由):
622.5km/片道9,790円
6の字状となる経路(連続乗車券)
第1券片が東京都区内から大宮駅ゆき、第2券片が大宮駅発上野駅ゆきとなる普通連続乗車券です。運賃に「大人の休日俱楽部」割引を適用させるため、途中駅で分割せず通しの普通乗車券となるよう経路を組みました。
(連続1)
(連続2)
第1券片の経路が逆6の字型となる経路です。大宮駅まで戻った時点で元の経路にぶつかるため、その時点で運賃計算を打ち切ります。したがって、最終着駅の上野駅までを一枚の片道乗車券とすることはできません。
後述しますが、この乗車券の経路は全域で東京近郊区間に含まれます。ただし、新幹線を経由するため、東京近郊区間から外れます。
大都市近郊区間完結の経路では対象外
経路通りに運賃計算を行うきっぷの買い方は、大都市近郊区間には通用されません。大都市近郊区間で完結する経路については、途中下車を認めない代わりに最短経路で運賃計算するルールが強制されます。
したがって、仮に経路を指定してきっぷを買ったとしても途中下車できないため、あまり意味がありません。
大都市近郊区間についての詳細については、以下の記事(↓)をどうぞご一読ください。
新幹線と在来線が並行する区間の特例「新在別線」
片道乗車券の経路を組む際に念頭に置きたいのが、新幹線と在来線の関係です。
新幹線と並行する在来線は新幹線と同じ線路として扱われるのが基本です。しかし、新幹線の開業後に新駅が設置されたなどの事情があり、新幹線と在来線が別線として扱われる例外があります。これを「新在別線」といいます。
新在別線が関係する区間を一筆書きで経路組みする場合、思ったよりも柔軟に経路を描けます。この特例に関する考え方や詳細については、以下の記事(↓)をどうぞご一読ください。
まとめ
JRきっぷの経路を考える際、なるべく逆戻りせず一筆書きの経路を組むと通しで一枚の片道乗車券を作れます。運賃の特性である遠距離逓減制を最大限生かす形で、運賃の節約に繋がります。
気を付けないといけないのが、発駅や元の経路に戻った時点で運賃計算を打ち切らなければならないことです。その場合、連続乗車券を作ることになります。
通しの一枚のきっぷを組む場合、途中下車制度を活用することが前提になります。ただし、大都市近郊区間完結となる経路の場合には途中下車が認められないため、本記事で説明した考え方を活かすことができません。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料 References
● JR旅客営業規則のQ&A(自由国民社)2017.5
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第26条(普通乗車券の発売)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第26条の2(普通乗車券の発売方)
改訂履歴 Revision History
2024年02月04日:初稿 修正
2023年12月14日:初稿 修正
2023年12月05日:初稿
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