複数の鉄道会社の区間を直通して旅客や貨物を運送する制度を「連絡運輸」といい、当該事業者間で契約を締結した上で制度を運営します。
連絡運輸によって複数の鉄道会社の区間をまたがって乗車する際、通しのきっぷを買って当該区間に乗車することができます。そのきっぷを「連絡きっぷ」や「連絡乗車券」と言います。
その連絡運輸が、大幅に縮小され続けています。連絡きっぷの発売が、2022年春に近畿圏にて大幅に縮小し、2023年春には東京圏でも大規模に縮小されました(廃止といっても過言ではないほどの大整理でした)。
JR東日本管内の普通旅客連絡運輸の設定範囲が、同社ウェブサイトで公開されています。大幅に縮小されたことが分かります。
この記事では、はじめに連絡運輸とは何かということをお話しし、連絡運輸の設定範囲表の見方をご説明します。
そして、連絡運輸の旅客にとってのメリットを挙げた上で、普通旅客に関する最近の動向を、筆者が知りうる範囲でまとめます。縮小にはどのような事情があるのか、記事内で探っていきたいと思います。
- 連絡運輸の取扱がある区間に関する情報(別表)が非開示であること
- 交通系ICカードで代替できる区間の連絡運輸設定が軒並み削減されたこと
- 普通乗車券であっても設定は完全にはなくならないこと
連絡運輸とは~連絡運輸範囲の表の見方~
はじめに、連絡運輸とは何かというお話をします。そして、設定範囲表の見方をご説明します。
連絡運輸の概要
旅客や貨物に関して、複数の運輸機関が連帯して運送することを「連絡運輸」と言います。通常は1社の区間内で運送が完結しますが(1社で1個の運送契約が原則)、2社の区間にまたがって1個の運送契約が成立します。
例えば、JR東日本と東武鉄道の区間をまたがって乗車する時、JR東日本の駅から東武鉄道の駅までの区間で1枚の連絡乗車券が発行されるといった形です。1個の運送契約なので、1枚の連絡乗車券というわけです。
連絡運輸の設定区間範囲表について
連絡運輸の設定範囲は、JR各社の場合「旅客連絡運輸規則」末尾にある別表に収録されています。連絡運輸範囲はJR6社共通ではなく、JR会社ごとに個別に定められています。この別表が、JR東海以外はユーザーに非公開です(JR東日本ではユーザー向けに作り直して公開)。
規則別表に記載された内容の例は、次のような内容です。
● 伊豆急行株式会社線
連絡会社名 | 経由運輸機関名及び区間 | 接続駅 | 乗車券類の種別 | 特殊取扱事項 |
伊豆急行株式会社線 | 東日本・東海・西日本旅客鉄道会社線 | 伊東線伊東 | 片、往、続、勤定、学定、団、急、特車、座 |
この表では、連絡運輸の契約がある鉄道会社について、接続駅が必ず設定されています。また、乗車券類の券種も記載されています。その接続駅を通り、両社の設定範囲内の区間を乗車する場合に、連絡運輸が成立します。
しかし、この表には、具体的にどの駅が連絡運輸の設定対象であるかが抜けています。そのため、JR東日本がユーザー向けに公開している資料には、その辺の情報が補足されています。下表のような体裁です。
● 伊豆急行株式会社線(一部を抜粋)
JR線線名 | JR線範囲(駅名) | 接続駅 | 連絡会社線名 | 連絡会社線範囲(駅名) | 備考 |
東海道本線 | 各駅 | 伊東 | 伊豆急行線 | 各駅 | (割愛) |
上記以外の線区 | 上記以外の駅 | 伊東 | 伊豆急行線 | 伊豆高原、伊豆熱川、伊豆稲取、河津、伊豆急下田 | (割愛) |
左側の列に記載されたJR東日本の駅から接続駅を通り、右側の列に記載された連絡社線の駅まで乗車する場合に連絡運輸が成立し、1枚の連絡乗車券を買えます。何線のどの駅が連絡運輸の対象に含まれるかが明確になっていて、ユーザーにとっても読みやすい体裁です。
通過連絡運輸について
連絡運輸には、単純な連絡運輸の他に「通過連絡運輸」と言われるパターンがあります。きっぷ上の発駅と着駅が自社線であるにもかかわらず、経路の途中で他社線がはさみ込まれる形です。
通過連絡運輸の運賃・料金計算においては、他社線によって分断された自社線の前後の区間に関して営業キロ・擬制キロ・運賃計算キロを通算することが可能です。
通過連絡運輸に関して、別の記事に詳細をまとめました。ぜひご一読ください。
連絡運輸のメリット
連絡運輸のメリットは、ユーザーにとって目に見える形でいくつかあります。
● 旅行開始前に運送契約が確定する
紙のきっぷのメリットは、改札口を入場し、列車に乗車するまでに全区間の運送契約が確定し、鉄道会社が全区間の運送の義務を負う形になることです。
列車運行の障害時に振替輸送を受けられるメリットがあるのは、とても大きいです。あらかじめ紙のきっぷを目的地まで買っておくことが肝要です。交通系ICカードでは、振替輸送の措置を受けられません。
● 学割・障害者割引を適用しやすいこと
学割を適用する際、鉄道会社ごとに101km以上乗車しなければならないため、あまりメリットがないと考えがちです。しかし、割引証の枚数を節約できることは、明らかなメリットといえます。
【学割適用の主な鉄道会社】東武鉄道/近畿日本鉄道/青い森鉄道
また、運賃の障害者割引が適用されやすくなります。各種障害者手帳所持者が介護者なしに単独で乗車する場合、片道の営業キロで101km以上乗車する必要があります。連絡運輸の場合、通算で101km以上あれば全区間で割引が適用されるため、ユーザーにとって有利です。
● 乗継割引の適用
各社の初乗り区間などを連絡して短距離を乗車する際には、運賃が高額になりがちです。そのために乗継割引が設定されることがあり、運賃が若干安くなることもメリットとして挙げられます。
● きっぷの有効日数や途中下車などきっぷの効力がユーザーにとって有利に
連絡運輸によって、きっぷの効力が有利に働くことがあります。複数の鉄道会社の全区間に対して一つの運送契約であるため、きっぷの有効日数が通算され、途中下車制度が適用されやすくなるといえます。
例えば、2023年に廃止された、小田急線新宿駅から小田原駅を接続駅とし、JR熱海駅までの区間における普通旅客連絡運輸。通しで乗車すると103.2kmと101kmを超え、障害者割引の適用対象となります。さらには、JR東海道線函南駅以遠の区間であればきっぷの有効日数が2日間となり、全線で途中下車が可能です(割引適用関係なく)。
一方で、鉄道会社にとっては、運賃収入の減少につながります。その上、煩雑な事務手続き=経費負担の大きさがデメリットかと思います。
えきねっとにおける連絡乗車券等の発売事情
交通系ICカードで発行される定期乗車券と異なり、普通乗車券の連絡運輸は交通系ICカードの普及に伴って縮小の一途です。一方で、特急列車などの相互直通列車をネットで予約購入するというニーズは、確実に残っています。
現在、ネット予約サービス「えきねっと」上で購入できる他社線またがりの普通乗車券や特急券は、JR線との直通列車がある鉄道会社を中心に、いくつかの会社が挙げられます。
連絡社線 | 連絡特急券 | 操作可否 |
えちごトキめき鉄道【直通特急あり】 | ※ | 可 |
あいの風とやま鉄道 | 不可 | |
IRいしかわ鉄道 | 不可 | |
ハピラインふくい | 可 | |
伊豆急行【直通特急あり】 | ○ | 可 |
伊勢鉄道【直通特急あり】 | ○ | 可 |
智頭急行【直通特急あり】 | ○ | 可 |
京都丹後鉄道【直通特急あり】 | ○ | 可 |
土佐くろしお鉄道【直通特急あり】 | ○ | 可 |
青い森鉄道 | 可 | |
IGRいわて銀河鉄道 | 可 | |
北越急行 | 可 | |
伊豆箱根鉄道(駿豆線)【直通特急あり】 | ○ | 可 |
富山地方鉄道 | 不可 | |
のと鉄道 | 可 | |
アルピコ交通(上高地線) | 可 | |
しなの鉄道 | 可 | |
東武鉄道【直通特急あり】 | ○ | 可 |
富士山麓電氣鐡道(富士急行線)【直通特急あり】 | ○ | 可 |
※ 接続社線内の指定席特急券は発売しない
※ 連絡運輸設定があるにもかかわらず操作不可の場合、駅窓口で購入
えきねっとに限らず、JR線の駅で連絡きっぷを買う場合、きっぷの一部にJR線区間を含む必要があります。上表に○が記載されているからといって、連絡会社区間だけのきっぷ(社線単独)を買うことはできません。
連絡運輸縮小のトリガー
近年連絡運輸に関する規程が続けざまに改訂され、縮小の一途をたどっているのには、いくつかの背景が考えられます。具体的には、以下の4点が直接的な引き金ではないかと考えます。
● 交通系ICカードの普及
交通系ICカードやスマホで自動改札を通って、紙のきっぷなしに乗車するスタイルが主流になったことが、最大の要因です。
● 障害者用ICカードの利用開始
2023年3月より、第一種の障害者手帳を所持するユーザー向けに、障害者用交通系ICカード(Suica・PASMO)の利用が開始されました。複数の鉄道会社を続けて乗車する障害当事者に対する配慮の必要性が、きっぷの面においては少なくなったと考えます。
● 鉄道駅バリアフリー料金の適用開始
大都市圏で2023年3月から始まった鉄道駅バリアフリー料金制度では、乗車1回ごとに大人10円が加算されます。そのため、実質的に運賃改定となって駅の運賃表や券売機の設定が一斉に更新されました。これが、連絡運輸縮小の契機になった可能性があります。
● 相模鉄道線のネットワーク化
2023年3月に開業した相鉄・東急新横浜線で、相鉄沿線から東京都心に向かう経路の選択肢が増えました。例えば、JR直通線の目的地(渋谷・池袋)には、JR埼京線経由でも東急東横線経由でも向かえます。もし、すべての経路で紙のきっぷ(普通乗車券)を発売した場合、間違った経路を誤って購入してしまうことが容易に想定できます。その混乱を防ぐには、紙のきっぷの不売はやむを得ないでしょう。
鉄道会社にとって負荷であるこれらの作業が連絡乗車券にまで及んでいることから、これをきっかけに普通乗車券の発売を取りやめようと考えるのは、至って自然なことと考えます。
余談ですが、連絡運輸マニアの存在も、縮小を加速させたのでしょうか??
連絡運輸範囲に変更があった鉄道会社【東京圏】
ここでは、東京圏において普通旅客連絡運輸の設定がある主な鉄道会社(事業者)をリストアップします。
2024年5月、JR東日本管内の連絡運輸範囲(普通乗車券)が同社ウェブサイトで公開されました。以前は非公開の情報でしたが、現在は購入可能な区間を分かりやすく確認できます。
2023年春に連絡運輸範囲が縮小した時の動きを、筆者が知りえた範囲で下表にまとめました。
連絡社線 | 備考 |
秩父鉄道 | 普通旅客全廃 |
関東鉄道 | 普通旅客全廃 |
東葉高速鉄道 | 新京成電鉄 連絡終了 |
新京成電鉄 | JR東日本/東葉高速鉄道 連絡終了 |
東武鉄道 | 栗橋駅接続は残存・乗継割引以外ほぼ終了 |
京成電鉄 | 日暮里接続JR東日本/新京成/北総 残存 |
西武鉄道 | 乗継割引区間以外終了 |
東京地下鉄(東京メトロ) | 千代田線・常磐線関連連絡運輸・通過連絡運輸は残存 |
東京都交通局(都営地下鉄) | 普通旅客の設定なし(定期旅客に関する変更) |
東京臨海高速鉄道(りんかい線) | JR東日本との連絡は以前の範囲のまま残存 |
東京モノレール | JR東日本との連絡は以前の範囲のまま残存 |
小田急電鉄 | 松田駅接続は残存(JR東海のみ)・乗継割引以外ほぼ終了 |
京王電鉄 | 乗継割引区間以外終了 |
東急電鉄 | 相模鉄道線とは普通旅客連絡運輸を行わない・乗継割引以外終了 |
京浜急行電鉄 | JR東日本との連絡:品川駅接続羽田空港関係は一部残存 |
相模鉄道 | 東急電鉄線とは普通旅客連絡運輸を行わない・乗継割引以外終了 |
横浜市交通局 | 普通旅客の設定なし(定期旅客に関する変更) |
箱根登山鉄道 | JR東日本 普通旅客全廃 |
東京圏一都三県に所在する鉄道会社(事業者)のほぼすべてが含まれます。いずれも、交通系ICカードPASMOエリアを擁しています。
京浜急行電鉄の券売機では、京急線内の他、連絡運輸の設定がある都営浅草線およびJR東日本山手線内のきっぷを購入可能です。
2023年春の改正内容が垣間見える部分です。例えば、接続駅の小田急線藤沢駅および小田原駅については定期旅客のみに縮小されています。新宿駅や登戸駅には「片」が残っていますが、乗継割引区間に対応するため残存しています。
JR東日本に関する動きです。詳細な内容は表示されていませんでした。
これらの断片的な情報からわかるのは、「鉄道駅バリアフリー料金」が適用されるJR東日本東京地区の電車特定区間に接続するすべての鉄道会社が該当することです。
一方で、鉄道駅バリアフリー料金の影響を受けない地方の鉄道会社については、一部を除き今回の改訂範囲に含まれていません。
普通旅客連絡運輸が残存する要因
縮小後も連絡きっぷとして残存しているものは、以下のような性質があります。
● 定期乗車券
定期乗車券については、交通系ICカードであっても連絡運輸の設定が逆に充実している傾向がみえます。定期券の枚数を1枚にしたいというニーズが強いため、今後もなくならないだろうと考えます。
● 相互直通運転が行われている区間の連絡きっぷ(普通乗車券)
都市内の普通列車では、地下鉄東西線や千代田線、JR埼京線やりんかい線が、これに含まれます。
また、小田急線とJR御殿場線を結ぶ特急「ふじさん」号や東武日光線とJR湘南新宿ラインを結ぶ特急「スペーシア日光・きぬがわ」号といった直通特急列車も、これに該当します。
● 乗継割引が適用される区間の連絡きっぷ(普通乗車券)
JR線と私鉄線の連絡きっぷの一部が、これらに該当します。券種は片道に限られます。
● 国際空港が絡む駅や路線(普通乗車券)
意外なことですが、連絡運輸縮小後の設定残存路線を見てみると、羽田空港や成田空港といった国際空港に乗り入れる路線が目立ちます。東京モノレールや京浜急行電鉄、京成電鉄については、連絡運輸範囲の縮小はあっても、設定そのものはどっこい生き残りました。
設定を廃止することによる明確な影響は特に考えられませんが、外国人旅行者が交通系ICカードを利用せず紙のきっぷを購入するといったシチュエーションが想定されていそうです。
交通系ICカードを利用しにくい事情が考えられる区間を中心に、必要最小限の設定が残っているといえます。できるだけ交通系ICカードを使ってね、という鉄道会社からのメッセージとも受け取れます。
まとめ
従前から縮小が続いていた普通旅客にかかわる連絡運輸の設定。2022年には近畿圏で、2023年には東京圏で大幅に縮小しました。
その背景を考えると、交通系ICカードの利用がほぼ普及し、普通乗車券を発売する必然性が薄れたことがあります。交通駅バリアフリー料金の導入による運賃改定のタイミングで、範囲の縮小が実施されました。
それでも連絡運輸の削減ができないのは、乗継割引運賃の設定がある区間や直通運転列車が走行する区間の普通乗車券や定期乗車券です。意外なところでは、国際空港が関係する区間でも普通旅客の連絡運輸が残存しています。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料 References
● JR東日本ウェブサイト「きっぷあれこれ」2024.5閲覧
● えきねっと JRきっぷご利用ガイド JR北海道、JR東海およびJR西日本 北陸エリアでのお受け取りについて 2024.4閲覧
● JR東日本 運送約款の改正履歴 2024.4閲覧
● JR東海 運送約款の改正履歴 2024.4閲覧
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2024年11月15日:初稿 修正
2024年5月10日:初稿 修正
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