鉄道を利用する際に買う普通乗車券には、片道乗車券の他に「往復乗車券」があることをご存じでしょうか。JR各社だけではなく、多くの鉄道会社で往復乗車券が発売されています。
往復乗車券を購入できる条件として、基本的には往路と復路の経路が全く同じであることを要します。その条件を満たす限り、発駅から着駅までの距離(営業キロ)にかかわらず購入できます。
ただし、交通系ICカードやデジタルきっぷには、往復乗車券の概念がありません。あくまでも、従来の紙のきっぷが往復乗車券の前提になります。
乗車する都度片道乗車券を購入するのに比べ、往復乗車券を購入すると有利な場合があります。往復乗車券は地味な存在であるためにメリットを見出しにくいのですが、実はそんなことはありません。
この記事では、鉄道きっぷにおける「往復乗車券」の特長をお話しした上で、往復乗車券を買うメリットをいくつか挙げます。そして、様々なパターンの往復乗車券を、実際に見ていきたいと思います。
- 往復乗車券を買うための条件
- 交通系ICカードには往復乗車券がないこと
- 往復乗車券によって割引証の枚数を節約できること
紙のきっぷならではの往復乗車券
往復乗車券は、1回限りで乗車する普通乗車券の一つの形態です。したがって、有効区間内を何回でも往復できる定期乗車券には往復の概念がありません。
発駅から着駅までのゆきの券片に加え、着駅から発駅まで全く同じ経路で戻るかえりの券片で、一組の普通往復乗車券が成り立っています。
2枚の券片が発行されることから、普通往復乗車券が紙のきっぷ特有のものであることがお分かりいただけると思います。
SuicaやICOCAなどの交通系ICカードで乗車する場合には、往復乗車券という概念がありません。改札口を出場するたびにチャージ残高から運賃が引き落とされる形(これを「SF乗車」と言います)であり、常に片道利用ということになります。
新幹線のチケットレス乗車サービスである「EXサービス」や「新幹線eチケット」も、基本は片道です。ただし、営業区間が601km以上となる区間のきっぷを往復で同時購入する場合については、往復割引分が加味された商品が設定されています。
また、昨今発売されている各種デジタルきっぷにおいても、片道の設定がほとんどです。
各種割引を適用したり、割引証の枚数を節約するためには、往復乗車券を購入するのがとても有効です!
普通往復乗車券の発売条件
● 発売条件の原則
普通往復乗車券発売の原則に関しては、JR各社の運送約款、旅客営業規則第26条に規定されています。
片道乗車券が発売できる区間であって、往路と復路とも全く同じ経路を利用し、各々1回乗車することが、普通往復乗車券の発売条件です。したがって、全体の経路が一周になる乗車券(環状線一周)に関しては、往復乗車券を発売してもらえません。
● 新幹線と在来線の関係
往路は新幹線を利用し、復路はJR在来線を利用する場合、多くの区間では同じ線路扱いで往復乗車券を購入できます。ただし、並行在来線が第三セクターの区間では運営会社が異なるため、往復乗車券とはなりません。一例を挙げたいと思います。
仙台駅から盛岡駅までの区間は、新幹線・在来線で同一線路です。
盛岡駅から八戸駅までの区間は、並行在来線の運営が第三セクターのため、経路が往復とはなりません。
新幹線と在来線が別線の扱いとなる場合、いろいろと例外があります。本記事では取り上げませんが、詳しくは以下の記事(↓)をどうぞご一読ください。
● 発売条件の例外
往復乗車券の経路を組む上で、どうしても変則的になる場合があります。往路と復路で同一の線路を通らない経路での発売の例外について、同条文にて規定されています。
- 山陽本線中新下関・門司間および鹿児島本線中門司・博多間
- 山陽本線(新幹線)中新下関・小倉間および鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間
新下関駅から博多駅間は、運営会社が異なることもあって、新幹線と在来線が別線扱いです(運賃額も異なります)。しかし、往復乗車券の発売に関しては別線にもかかわらず同じ線路として発売する扱いです。これは、日本国内では唯一の例外です。
この例外に関連して多くの変則的なきっぷが存在しますが、詳細については説明を割愛します。
往復乗車券を利用するメリット・デメリット
紙のきっぷである普通往復乗車券の概要や発売条件については、今申し上げた通りです。ここでは、往復乗車券を利用する場合のメリットおよびデメリットを挙げていきます。
関係者にとって、メリットは多くあれどデメリットはあまり目立たないような、優れた制度設計だと思います。
メリット
往復乗車券には、いくつかのメリットが見出せます。
● 決済回数や時間の節約
最近では駅の有人窓口が減少しており、目的地にて思うようにきっぷを買うことができないことがあります。あらかじめきっぷを確保できること自体が、今日ではメリットです。
● きっぷの有効期間が片道乗車券の2倍
片道乗車券の2倍の有効期間自体には、メリットはあまりありません。しかし、旅行日の急な変更(後ずらし)に柔軟に対応できます。
● 片道601km以上の経路における往復割引
往復割引の存在は、長距離のきっぷを往復で買う際の最大のメリットです。ゆきとかえりともに、運賃がそれぞれ1割引になります。
一例としては、東北新幹線「はやぶさ」号の遠距離区間において「えきねっとトクだ値」よりも往復割引の方が割引率が高いです。
● 学割証や「ジパング俱楽部」割引証の必要枚数
往復乗車券はゆきとかえりでセットなので、割引証も当然1枚で済みます。
● 「ジパング俱楽部」「大人の休日俱楽部」割引きっぷ
片道では201km以上離れていない駅でも、往復で201km以上になれば運賃・料金が割引になることは、明らかにメリットです。
● 鉄道会社にとっては復路もユーザーを囲い込める
往復乗車券を発売することで、復路も自社路線を利用してもらえることにつながります。ユーザーを囲い込むために、往復割引を提供する価値が十分にあります。まさに、三方ヨシ!といえるでしょう。
デメリット
● あらかじめ予定を決めておく必要があること
往復乗車券を購入する際には、復路も同じ路線の列車に乗車することが決まっている必要があります。行き当たりばったりで旅程をその時に決めたい場合には、往復乗車券は向いていません。
● 旅行開始後の乗車変更・払いもどしの扱いが複雑
前項のように、あらかじめ経路を決めておかなければならないことにつながります。発駅にてゆきの券片を使い始めてから経路を変更したり、やっぱり復路は列車に乗らないといった場合の計算がとても複雑です。
本記事では、詳細な説明は割愛します。
近距離きっぷとしての往復乗車券
営業キロが100kmまでの近距離きっぷでは、往復乗車券のメリットはあまり見出すことができません。強いて言えば、目的地が無人駅の場合にあらかじめきっぷを持っていることは有利に働くでしょう。
これは、最もオーソドックスな近距離の普通往復乗車券の例です。大宮駅からさいたま副都心駅(さいたま市大宮区)ゆき往復乗車券です。
(ゆき券片)
(かえり券片)
「大人の休日俱楽部」割引適用の往復乗車券
JR東日本・北海道の「大人の休日俱楽部」割引きっぷは、1件につき営業キロが201km以上あれば購入できます(片道・往復・連続とも)。
以下のきっぷは、大宮駅(さいたま市大宮区)から勝田駅(茨城県ひたちなか市)ゆきの往復乗車券です。
片道の営業キロが201kmに満たないため、片道では割引が適用されません。しかし、往復で買うことによって、営業キロがトータルで201km以上となります。まさに、往復で買うことに意味があるパターンです。
ただし、両駅とも東京近郊区間に含まれるため、営業キロにかかわらず途中下車はできません。
● 無割引の往復乗車券
(ゆき券片)
(かえり券片)
● 「大人の休日俱楽部」割引適用の往復乗車券
(ゆき券片)
(かえり券片)
ミドル会員の場合、往復とも所定運賃から5%割引です(大休05)。蛇足ながら、大人の休日俱楽部割引きっぷには、乗車変更に大幅な制限があります。
往復割引~片道601km以上の経路~
往復乗車券の醍醐味は、長距離の移動の際に利用することにあります。その典型例として挙げたいのが、夜行列車の「サンライズ出雲」号です。始発の東京駅(東京都千代田区)から終点の出雲市駅(島根県出雲市)を乗り換えなしで往復できると、大変楽です。
島根県出雲市は東京からは遠距離で、航空運賃・高速バス運賃ともに高額な目的地です。そのため、他の都市とは異なり、夜行列車の利用も十分視野に入ります。
きっぷを見ると、往復割引を意味する「復割」という表示が目につきます。東京駅から出雲市駅までは片道で601km以上の営業キロがあるため、往復割引の適用でゆきもかえりも運賃が1割引になります。
● 東京都区内ー出雲市:片道953.6km
往復割引運賃:21,960円(割引がないと往復24,420円)
(ゆき券片)
(かえり券片)
往復割引が適用された普通往復乗車券を購入した場合、券面に表示された全区間を乗車するばかりではなく、そのうち途中駅から途中駅だけを乗車することが可能です。これを、専門用語で「内方乗車」と言います。
片道の営業キロが600kmを超えるか超えないかという微妙な経路の場合、内方乗車の手法は往復割引を適用させるために使えるワザです。
往復乗車券を購入し、実際には内方乗車して運賃の節約を図る究極ワザについて、別の記事(↓)にまとめてあります。どうぞご一読ください。
まとめ
普段あまり意識することのない、往復乗車券のメリット。各種割引を適用するためには、往復乗車券の購入が大きな意味を持つことをご理解いただけたと思います。
往復乗車券の場合、学割証や「ジパング俱楽部」手帳についている利用証の枚数が1件当たり1枚で済みます。特に、学割証の年間発行枚数には制限があることが多いため、往復乗車券の利用を検討する価値が十分にあります。これらの割引と往復割引は、他の割引とは異なって重複して適用されます。
あらかじめ予定を立てられる場合には有利な往復乗車券ですが、行き当たりばったりで予定が立てられない場合には利用しにくいです。往復乗車券を使い始めた後の乗車変更や払いもどしが特に複雑なため、十分に注意していただきたいです。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第26条(普通乗車券の発売)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第16条の3(新幹線と新幹線以外の線区の取扱いの特例)
改訂履歴 Revision History
2024年5月19日:初稿 修正
2024年02月27日:初稿 修正
2023年12月14日:初稿 修正
2023年12月11日:当サイト初稿 公開(リニューアル)
2015年9月09日:前サイト初稿
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