JRの長距離乗車券を「往復割引」で購入し「内方乗車」するワザ~究極の運賃節約術を伝授~

サンライズ瀬戸号高松駅にて 運賃制度

JR線を片道601km以上往復で乗車する場合「往復割引」が適用されます。運賃が往復とも10%引きになることは、よく知られていることではないでしょうか。

目的地の駅に至るまでの距離が、往復割引が適用されるボーダーラインの601kmに達するか否かで、悲喜こもごもの結果が生じます。そこで、いかにすれば往復割引の恩恵を受けられるか、頭をひねることになります。

乗車券を必ずしも全区間使用する必要はなく、途中駅から使用を始め、別の途中駅で使用をやめることができます。そのことを「内方乗車」と言い、上記の問題解決のワザとして活用できます。

運賃の損得計算が少し難しいですが、内方乗車の手法を活用することで得られる節約効果は大きいです。試算する上で、乗換案内アプリをうまく活用したいです!

この記事では、片道601km前後の普通往復乗車券を買う上で、往復割引をめぐる運賃の損得計算の仕方と実例を見ていきます。そして、内方乗車に関して、乗車券を途中駅間のみ使用できる根拠をお示ししたいと思います。

この記事を読むと分かること
  • 往復割引できっぷを買い、途中の区間のみ使うワザ
  • 内方乗車をめぐる損得勘定の実例
  • 旅行開始後の乗車変更や払いもどしでは不利なことも

片道601km以上かどうかをめぐって悲喜こもごも

冒頭で、往復乗車券の「往復割引」の適用条件をお話ししました。片道601km以上の区間を往復で利用する場合、往路と復路とも運賃が10%割引になります。

例えば、東京駅から片道600kmを少し超える駅には、西明石駅(兵庫県明石市)、二戸駅(岩手県二戸市)、大曲駅(秋田県大仙市)など、多くあります。大阪駅(大阪市北区)からならば、博多駅(福岡市博多区)が該当します。

一方、ギリギリで600kmに達しないというケースもあります。例えば、東京駅から新神戸駅(神戸市)、角館駅(秋田県角館町)がそれに当たります。大阪駅から小倉駅(北九州市小倉北区)も同様です。

その場合、運賃の往復割引が適用されなくて、割高となります。この状況をめぐって、悲喜こもごもな結果が生じます。損をしたくないですよね。

答えは至って簡単で、600kmを少し超える駅までの往復乗車券を買えばよいのです。とはいえ、このワザを活用するためには、若干の知識と損得計算が必要です。

普通往復乗車券の基本については、以下の記事(↓)を一読いただき、押さえていただきたいです。

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運賃の「往復割引」がある背景を考察

JR線の運賃は、片道の営業キロ(運賃計算キロ)が長ければ長いほど、キロ当たりの単価が安くなるように設計されています。特に、片道601km以上となる場合、賃率が極端に低く設定されています。これを「遠距離逓減制」といいます。詳細は、以下の記事(↓)を是非お読みください。

さて、運賃の往復割引はどうでしょうか。片道601km以上の遠距離の旅行には、上記に加え往復割引が適用され、さらに割安になります。

それでは、どうして運賃の往復割引が今日まで存続しているのでしょうか。

運賃の遠距離逓減制も往復割引の設定も、片道601km超というのが、キーポイントです。それだけ遠距離になると、飛行機との競争が待っています。

目的地までドアツードアで4時間以上かかると、多くのユーザーは飛行機を選ぶと言われています。その距離のおおよその目安が、片道600km前後と考えられます。したがって、飛行機との競争に生き残るには、長距離区間の運賃を割安に設定する必要があるわけです。

また、往復割引を設定することによって、復路も鉄道を使ってもらえるように働きかけることが可能です。鉄道会社側にとって、ユーザーを囲い込むことができるというメリットがあると思います。

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途中の区間だけ使ってもヨシ!~内方乗車の定義~

東海道・山陽新幹線N700系岡山駅にて

普通乗車券を使用する際、きっぷに表示された発駅から乗車し、着駅で下車「しなければならない」とお考えではないでしょうか。

実は、普通乗車券であっても全区間を乗車しないで、券面の途中駅から別の途中駅まで「だけ」乗車しても差し支えありません。

冒頭で申し上げた通り、乗車券の有効区間の中で、発着駅よりも内側の区間のみ乗車することを、業務用語で「内方乗車」といいます。

「内方乗車」について、JR各社のウェブサイトにはほとんど記載されていません。そのため、あまり知られていませんが、JR西日本のウェブサイトには内方乗車の定義について簡単に記載があります。

例えば、ある路線上にA駅・B駅・C駅・D駅という4つの駅が一直線上にあるとします。

内方乗車説明図

ここでは、「A駅からD駅ゆき」の往復乗車券を持っている仮定で、お話を進めます。通常は、発駅であるA駅から乗車券の使用を始め、着駅であるD駅まで使用します。しかし、途中の区間だけを任意に使用することが可能です。

この場合、A駅→C駅、B駅→C駅、C駅→D駅という使い方をすることができます。ただし、使用しなかった区間について、後になってからやっぱり乗車したいと主張することができないことは言うまでもありません。

内方乗車のセオリーを活用する場合、損得計算には敏感であっていただきたいです。気を付けないと、かえって割高になることがあります

これからお話を進めていく前にお断りですが、この記事で扱うのは、1件の普通往復乗車券を購入して、一部区間だけを使わない乗り方です。

なお、往復割引を利用するには、ゆきもかえりも同じ区間を同じ経路で往復する必要があります。ゆきとかえりで経路が違うと、往復割引の対象外となります。

また、往復割引があるのは、普通乗車券(運賃部分)のみです。特急料金やグリーン料金については、一部例外を除き割引はありません

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普通乗車券の運賃表から損得計算する方法

実際に乗車する区間外の駅まで乗車券を購入し、片道当たり601km以上の経路とする場合、10%分の往復割引が適用されます(ゆきもかえりもそれぞれ10%引き)

次表は、幹線の運賃表です。

営業キロ無割引(片道分)無割引(往復分)複割(往復分)
501-5208,36016,720
521-5408,58017,160
541-5608,91017,820
561-5809,13018,260
581-6009,46018,920
601-6409,79017,620
641-68010,01018,000
681-72010,34018,600
2019年10月現行の運賃

営業キロ・運賃計算キロが片道600km以下の場合、無割引の運賃が適用されます。そして、片道601km以上の場合、往復割引(10%引き)が自動的に適用されます。

上表で一目瞭然ですが、片道541km-560kmの距離帯の往復分17,820円が、片道601km-640kmの距離帯の往復分17,620円を上回ります。つまり、601km以上になる駅までの乗車券を往復割引で購入するとおトクなわけです。

一例として、東京(都区内)から新神戸(市内)・西明石駅までの往復乗車券の値段を比較したいと思います。数ある運賃計算のケーススタディーでは、大変有名な区間です。

● 東京都区内(東京駅・品川駅)←→ 神戸市内(新神戸駅)

片道589.5km:往復運賃 18,920円(無割引)

以下「えきねっと」ウェブサイトより引用

● 東京都区内(東京駅・品川駅)←→ 西明石駅

片道612.3km:往復運賃 17,620円(往復割引適用)

一駅先の運賃のほうが安いという逆転現象が起こります。これで、損得勘定の概要をご理解いただけたかと思います。

これらの乗車券を「えきねっと」などのネット予約サービスで購入する場合、往復割引分を自動的に調整してくれません。くれぐれもご注意を。

筆者の運賃節約事例~内方乗車で途中駅間だけ利用~

筆者が実践した内方乗車の事例を、ひとつご紹介します。

実際に購入した、松戸駅(千葉県松戸市)から栗林駅(りつりんえき:香川県高松市)ゆきの、往復割引が適用された往復乗車券でお話を進めます。

実際には、往路は東京駅から高松駅(香川県高松市)まで乗車し、復路は岡山駅(岡山市北区)から東京駅まで乗車しました。

この経路の形態は、航空運賃計算の世界では「オープンジョー」と言います。「オープンジョー」の概念を鉄道きっぷに持ち込むと、A駅からB駅に向かい、C駅からA駅まで戻る経路形態が当たります。

オープンジョー説明図

オープンジョーの概念は、鉄道きっぷの経路組みをする際にも十分参考になります。この場合、往復乗車券の定義にも連続乗車券の定義にも該当しないため、片道乗車券を2枚別々に買うしかありません。

これでは運賃計算上不利なので、かえりの経路を栗林駅発として、往復乗車券を購入しました。かえりの乗車券の栗林駅から岡山駅までの区間は、損得勘定した結果、使わなかったことになります。

松戸駅から栗林駅までの経路図

往復割引が適用された1組の往復乗車券を活用することで、片道乗車券を2枚購入するよりも、結果的に運賃を大幅に節約できました。

【ゆきの券片】

松戸駅から栗林駅ゆき往復乗車券
2016年5月現在の値段

ゆきは、在来線の寝台特急列車「サンライズ瀬戸」号に、東京駅から終点の高松駅まで通しで乗車しました。

【かえりの券片】

松戸駅から栗林駅ゆき往復乗車券
2016年5月現在の値段

かえりは、高松港からフェリーを利用し、直島経由で宇野港まで瀬戸内海を渡りました。その後、宇野駅から岡山駅までJR宇野線に乗車しました。この区間の運賃は、別途支払いました。

そして、往復乗車券のかえりの券片を使い、岡山駅から新幹線で東京駅まで乗車しました。

今回は、無効印なしにきっぷを手元に残すため、途中下車できるようにこのような乗車券をあえて作りました。

運賃の試算

この経路の運賃の損得勘定は、以下の通りです。

岡山駅、高松駅とも、松戸駅からは片道600kmを超えます。前述した通り、実際に乗車した経路自体、往復乗車券の定義に該当しません。別々の片道乗車券を2枚買うか、往復乗車券の内方乗車をするかのいずれかの選択になります。

1組の往復乗車券とした場合:往復割引&内方乗車活用

● 松戸駅 ←→ 栗林駅

経由: 常磐,[日暮里],東北,東海道,山陽,宇野,本四備讃,予讃,高徳

JR線営業キロ:  830.5km
JR四国営業キロ:   48.3km
往復割引運賃:20,780円

2枚の片道乗車券をそれぞれ購入した場合:実乗区間の合算

● 松戸駅 → (讃)高松駅

経由: 常磐,[日暮里],東北,東海道,山陽,宇野,本四備讃,予讃

JR線営業キロ:  826.2km
JR四国営業キロ:   44.0km
普通片道運賃:11,540円

● 岡山駅 → 松戸駅

経由: 山陽,東海道,東北,[日暮里],常磐

JR線営業キロ:  754.4km
普通片道運賃:10,670円

2枚の片道乗車券の合計金額は、22,210円です。

1組の往復割引乗車券20,780円と、2枚の片道乗車券22,210円との差額は1,430円です。運賃の試算の結果、往復乗車券を購入し、内方乗車で途中駅の間を乗車する方が安くなります

まさに、驚き桃の木山椒の木です!(笑)

往復割引が適用された普通往復乗車券のワナ

いいことづくめに思える往復割引や内方乗車の技法ですが、不適切な使い方をすると思わぬワナに遭遇します。

全体の旅程が固まっていれば、内方乗車の活用が威力を発揮します。しかし、旅行を始めてからやっぱり旅程を変えたい、という場合には注意が必要です。

旅程を変える際には、乗車変更(区間変更・方向変更)や払いもどしの手続きを行うわけですが、割引適用が解除される場合があります。その場合の計算が煩雑で、時間がかかることがあります。また、変更後の運賃が安い場合であっても差額の返還がなかったり、追徴がある場合には想定以上に多額なことが考えられます。

具体的な計算方法については本記事では割愛しますが、旅程が固まっていない場合には気を付けたいです。

まとめ

サンライズ瀬戸号高松駅にて

片道の乗車キロ数が601kmに満たなくても、先の駅までの往復乗車券を往復割引適用で購入した方が、運賃の節約になることをお分かりいただけたと思います。

往復割引で乗車券を購入し、内方乗車の技法を用いて途中駅から乗車し別の途中駅で下車することによって、無割引できっぷを購入するよりも安価になるケースがあります。

ただし、片道601km以上の旅行となると、たとえ新幹線を利用しても目的地までの所要時間が4時間を超えて、鉄道と飛行機の競争となるのが一般的です。しばしば飛行機の運賃のほうが安いこともあり、必ずしも鉄道が選ばれるわけではありません。

ましてや、みどりの窓口にてこの記事のワザを積極的に教えてくれるとは限りません。自分自身で研究し、理論武装できるようにしたいです。

この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

参考資料 References

● 「JRおでかけネット」公式ウェブサイト トクトクきっぷのきまり(JR西日本)

トクトクきっぷのきまり│トクトクきっぷ:JRおでかけネット
トクトクきっぷとは、特別なご利用条件(区間、列車や利用期間など)を定めて発売する普通乗車券、回数乗車券、急行券、特別車両券、寝台券、コンパートメント券および座席指定券のことです。

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第148条(乗車券類の効力の特例)

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第150条(不乗区間に対する取り扱い)

当記事の改訂履歴 Revision History

2024年5月19日:初稿 修正

2024年02月04日:初稿 修正

2023年12月12日:当サイト初稿(リニューアル)

2016年7月24日:前サイト 原文作成

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